私がまだスペアであるならば


 私を安心させるとても優しくゆったりとしたお声は、今までと変わらないローさまのものでした。


 まだローレンス様と上手く言えなかったあの頃。

 ろーれんしゅしゃま、と私は言っていたそうなのですけれど。

 さすがに私も当時のことは覚えておらず、これは後から何度も聞かされてきたお話になります。


 それなら短くしようと提案してくださった殿下は、その際に愛称呼びをお許しくださったのだとか。


 そういうわけで私は物心ついたと感じる頃にはすでに、殿下をローさまとお呼びするようになっていました。

 もちろん公の場所では、殿下とお呼びし、使い分けはしておりましたけれど。


 覚えてもいないあの日から、もう何年過ぎたのでしょうか。


 それも全部夢だとしたら。

 もしや私は永い眠りについているのかしら?


 すべては夢?

 それともやらかしだけが夢だった?

 あるいは今が夢で、目覚めたら別の現実がある?


 私の頭の中ではこの通り問い掛けが続いていました。


 どうしてもすべてが夢のように感じられたのです。


 けれどもこの手に感じる温もり。

 それだけは夢だとは思えませんでした。


 もし今が夢ではないとすれば、私は殿下にお返事をしなければなりません。

 するとどうしても私にはお返事の前に確認しなければならないことがありました。



「王妃になられないならば、ヴァイオレット様はどうなるのでしょう?」





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