私はまだ夢の中で


「マリー。お願い。いつものように呼んで」


 もう一度お願いされては、私に断ることなど出来ません。

 いえ、一度お願いをされているのに、すぐにお応えしなかったことから問題でした。


「ローさま」


 声に出せば、これまでの日々がとても懐かしく感じられました。

 それらもすべて長い長い夢のお話だった──なんてことはないかしら。


 いいえ、違いますね。

 まずはこれが夢のはずです。



 夢の中でのローさまは、お話を止めませんでした。

 はぁっと長い溜息を漏らされたあとに、「やっと呼んでくれた」と呟かれ。

 そしてまた殿下はしばらくじーっと私を見詰めてから言いました。


 倒れてから鏡を見ておりませんでしたから、もしや大変に乱れた状態にあるのかもしれません。

 それが珍しくて見入っているか、あるいは指摘しにくくて視線で伝えてくださっているのかも?


 最後の最後までこのように失礼をしてしまって……これで最後なのですよね?これが夢だとしても。



「マリー、王妃になるのが嫌なら嫌だと言って断ってよ。悪いようにはならないからね。なるべく君の希望に沿うよう、陛下からも取り計らってくださるよう約束してあるんだ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る