私だけが何も知らなかった


 座ったまま頭を下げられたヴァイオレット様に、おやめくださいとお声掛けすることも出来ませんでした。

 私は今まで壮大な勘違いをしていたのかもしれません。


 黙ったままの私に、ヴァイオレット様は自ら顔を上げて微笑まれます。


「困らせてしまったわよね。でも……ふふ。結局はローレンス殿下も同罪かしら?」


 柔らかいお声ですのに、そのお言葉は剣のように先を尖らせ胸にずんと突き刺さったように感じました。


 彼はこうなると分かっていた?

 それなのにあえて止めなかったということ?


 それは彼が自らスペアを降りたということで──。



 あの謝罪もそういう意味だったの?



「ねぇ、ローズマリー様。あなたも考えたことがなかったかしら?私たちから見ているあなたたちはいつも──ローズマリー様?どうされまして?」


 不覚にも私はそのままソファーに横になるようにして倒れてしまったようです。


 実はそれも覚えていなのですが。

 いつになく焦ったヴァイオレット様のお声がとても遠くに聴こえたことは覚えています。




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