第9話 花宮こなつ3

 花宮はなみやが中学2年生になった夏、いつもの練習を終えて家に帰って、なんとなくテレビをつけていた。藍染あいぞめ いとのことはショックだったが、最近やっと立ち直れてテニスに打ち込めるようになった。ちなみに、花宮のプレースタイルは中1の時と変わっている。

 「今日はテニスの名門校、私立黎明れいめい高校に来ていまーす!」

 番組では福岡の私立高校が紹介されていて、男性のリポーターがマイクを持って高校についての説明をしていた。周りの風景を見るに、どうやらテニスコートで撮影しているようだ。

 私立黎明高校。元男子校で、スポーツ強豪校として県内外で名を馳せている。中でも硬式テニス部は何年も全国大会に出場し、時には全国優勝も何回か。黎明高校が居るから、福岡の高校は全国に出られない。そう言われるほどに強かった。

 「ちょうど、練習しているようですね〜」

 黎明高校のテニスコートは全面オムニコートで、どこかの運動公園並に広い。各コートでは生徒がそれぞれ練習していて、ボールがあちこちに散らばっていた。画面に映る生徒は全員が男子部員だった。


 違和感。


 画面が切り替わり、部員たちへのインタビュー動画へ。

 「部員とっても多いですね〜。現在、部員は何人居るんですか?」

 「マネージャー含めて50人です。今年は女子部員も入ってくれて、感謝してますね」

 テニス部の部長がハキハキとインタビューに答え、徐々に黎明の実態が明らかになってきた。

 「ウチは6チームに分かれて練習していて、各チーム己の課題に取り組んだり、部活を楽しんだりしています。ちゃんと自分の力量に合った練習をするんで、しっかり、着実に上達できるようになってますね」

 「成程、ちなみに部長の青島あおしまくんはどのチームに?やっぱり、一番上のチームですか?」

 興味津々、と言った様子でマイクを差し出すリポーターに苦笑しながら、青島は答えた。


 「俺は二番目のチームです。レギュラーの補欠やらせてもらってます」

 「俺よりも強い奴は沢山いますし、むしろ補欠に入らせてもらってありがたいというか」

 「部長だから一番上のチーム、という事は無いです」

 「俺が一番上のチーム入っても追いつかないし」

 「俺よりもよっぽど、あの子が入ったほうが良いですよ」


 青島はどこか諦めたような笑みを浮かべながら話す。世間ではその姿を謙虚な好青年、と取るのだろうか。少なくとも、花宮の目には青島が絶望した人間に見えた。どうしようもない才能差に敗れ、絶望してしまった人間。今まで花宮と戦って、負けた選手もそんな顔をしていた。


 違和感。


 インタビュー動画は青島から他の部員へと移り変わっていく。どうやらインタビュー相手の部員は青島の言っていた一番上のチームに属する部員と、二番目のチームに属する部員が選ばれているようだった。

 「次は部長さんが所属しているチームです。このチームの名前はあるんですか?」

 二番目のチームのインタビュー。先程受け応えていた部長の青島が再び、インタビューを受けている。

 「俺の名前が"青"島なんで、このチームは"ブルーチーム"ってなってます。な、皆」

 「「「「「「ウッス!!!!」」」」」」

 青島の呼びかけに、二番目のチーム、ブルーチームの部員は息ぴったりに答える。彼らは一列に整列していて、一人一人顔が映されていた。その、一番端の部員。

 「君はマネージャーですか?」

 「あっ、はい。マネージャー兼プレイヤーでやってます」

 キャップを被り、髪を一つに束ね、笑みを浮かべてハキハキと答える女子部員がいた。

 「名前を教えてくれますか?」

 その女子部員は、意志の強そうな、ぱっちりとした目をこちらに向けて答える。


 「一年、藍染 糸です!」


 「え……」

 テレビを見ていた花宮は、小さく声を漏らした。

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