第8話 花宮こなつ2

 結論から言うと、藍染あいぞめ いとのダブルス1は6−4で敗北、藍染が所属する遊雲ゆううん中学校も初戦敗退で終わった。ストレート負けだった。

 相手のコーチが何か言ったあと、対戦相手は藍染のペアを執拗に狙っていた。藍染にボールが回らないように、ボールが回ったとしても強く打てないように。ひたすら藍染のペアを狙って、狙って、狙って、狙って、削った。最初はなんとか打ち返して取り返した藍染のペアは、次第にミスが多くなって、簡単なボールでも慎重になって返して、打ち込まれていた。藍染も途中、何度もペアに声掛けをしていたが、ペアは何かを強く言い返して、そして聞く耳を持っていない様子だった。

 最後の方は、藍染のペアはほとんど泣いていた。泣きながらプレーをして、ミスをして、また泣いていた。完全に精神が折れていた。それなのに、自分の状態を理解せず、理解しようともせず、コートに立ち続けていた。

 コイツはもう駄目だ。もう戦えない。誰もがそう思った。花宮はなみやもそう思った。藍染のペアの姿は、誰が見ても憐れで、無様だった。

 結局、最後は藍染のペアのダブルフォルトで終わった。完全な自滅だった。

 全てのゲームが終わって、試合の挨拶をするとき、藍染以外の選手はみんな泣いていて、藍染だけが泣いていなかった。一人だけ無表情で、我関せず、と言う態度を貫いていて格好良かった。最高にかっこよかったのだ。少なくとも花宮の目にはそう映った。

 このときに、花宮の憧れは藍染に変わった。但し、花宮の無意識下で。


 大会が終わって、あっという間に時間が過ぎて、花宮は中学2年生になった。

 高校のインターハイ予選が始まって、トーナメント表が出されてすぐに花宮は藍染の名前を探した。しかし、どこにもその名前はなかった。遊雲の名前はあれど、どこにも無かったのだ。念の為遊雲のホームページを見ても、藍染の名前はどこにも無い。藍染のペアは載っているのに、藍染だけがいない。

 「え……」

 「藍染糸」、と検索して、予測欄に出てきたワードに花宮は声を漏らした。


 藍染糸 いじめ


 恐る恐るそれをクリックして、そして出てきた掲示板を開く。花宮はそれをザッと見て、怒りとも諦めとも付かない気持ちが湧き上がってきた。


 「藍染糸ってテニス部でいじめられてたんでしょ」

 「だからあんなことしたんだ」

 「やっぱ女子こわwww」

 「全国行った時もギスッてたらしー」

 「え、じゃあいじめが原因で転校したってこと?」

 「いじめそんなに酷かったんだ」

 「藍染が転校するってなって先生達必死に引き留めてたよね」

 「今更おそwww」

 「つかアイツ父親いないらしいぜ」


 そんな書き込みが何件もあった。真偽が定かで無いものもあるが、二つ確定で言えるのは、藍染は遊雲中学校でいじめを受けていたということ。そして、遊雲の高等部に進級せず、他校に転校したこと。それだけだ。

 「なんで」

 藍染がいない理由を知った花宮の心は、ぐるぐると回っていた。疑問と、怒りと、諦念と、ほんの少しの失望がないまぜになって回り続ける。

 ぐるぐる、ぐるぐる。

 回って、悩み続ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る