第5話 体験入部3
「じゃあ私と
「はい」
「分かった。対戦相手はどうしよっか」
「じゃあオレと
「へへ、バレてたか。……つーことで、遥ちゃん、こなつちゃん。対戦、よろしくね」
「はい」
「お願いします!」
ゲーム前のサーブ練習も終わり、各々立ち位置につく。
「こなつー、ないっさ〜」
「うん」
中村の声かけに頷き、花宮はボールをつく。とん、とん、と2回ついて、そしてトスを上げた。
試合開始。
幕間。
「樹ィッ!右行け!」
「りょーかい糸ちゃんっ」
「こなつ、前」
「わかった」
試合結果。
中村の足が攣ったことにより、試合中断。最終スコアは3−2、40−0。藍染・若宮ペアのリードだった。
◯◯◯
夕方。空の青色と夕日の赤色が溶け出して、美しい
「ボール拾いとコート整備ー!太陽落ちてきたから急いでー!」
”はーい!!!!!!”
不意に吹いた風にぶるり、と身を震わせて、藍染は指示を飛ばした。コート中に転がるボールをラケットに乗せたり、腕いっぱいに抱えたり、そんな彼らを救おうとかごを持って走る部員や、ブラシを奪い合う部員などが返事をする。その返事を嬉しそうに受け取って、藍染はベンチに向かった。
「
「攣っただけで、あとはどこも怪我してなかったよー。水分取るようにって言って帰したけど大丈夫だった?」
「ううん、ありがとー」
ベンチではマネージャーの3年、
「糸さん、中村さんたちどうだった?強かった?」
「強かった。強かったんだけど、……遥ちゃんの方、まだ穴があったから勝てると思う。こなつちゃんは穴が全くない。多分、狙うとしたら遥ちゃんの方かな」
「そっか……」
神尾は、先程までベンチで休んでいた中村の様子を思い出していた。切羽詰まったような顔をして、冷や汗をダラダラと流していて。神尾が話しかけるまで周囲の様子に一切気づかなかった。
追い詰められている。なぜかはわからないが、直感で神尾はそう思った。
「糸さん」
「なあに」
「中村さんのこと、よく見といてね」
「ふふ、わかった」
一方、
「狙われた……」
中村はブツブツと呟きながら、ベッドに転がっていた。
「狙われた。狙われた。あたしだけ狙われた」
思い出すのは、先程の試合の内容。アイゾメさんは思っていたよりも強くて、アイゾメさんと一緒に組んでるワカミヤさんも強くて。でも、あの二人のペアは、アイゾメさんメインで戦っていて。こなつが楽しそうに戦っているから、あたしもそれに応えようとした。そんなことをぐるぐると中村は考える。
「なんで、なんで。あたしはこなつの最高なの。こなつのペアはあたしなのに」
気付いたときには、中村は狙われていた。ストレートアタックだったり、ギリギリ届かない高さを突かれたり。全部、中村が取るべき範囲の、最も取りづらいところにボールを打ち込まれていた。
最初はなんとか追いつけていたが、徐々にきつくなっていって。こなつは何もできずにつまらなさそうで、徹底的にあたしだけ狙われた。あたしが一番、足手まといだった。その事に気づいた瞬間、中村は一気に青ざめる。
「ちがう、あたしは……!あたしは、こなつと」
誰に何も言われていないのに、中村は否定し出す。言い訳を振りかざして、自分を正当化しようとした。それをやっても、結果は変えられないのに。
「ちがう、違う!あたしじゃない。あたしじゃないの!」
わかっている。最後、中村たちのペアが負けそうだったのは、中村が足を引っ張っていたことぐらい。
わかっている。中村の足が攣ったとき、花宮は残念そうに藍染たちを見ていたことぐらい。
わかっている。花宮は中村の心配よりも先に、藍染たちとの戦いが続けられるか気にしていたことぐらい。
中村は、全部わかっているのだ。
でも、受け入れるには、中村の精神は幼かった。
「ちがうの、あたしは」
ベッドにうずくまって、ポロポロ言葉をこぼす。
「こなつ、あたしは」
中村の言葉は、誰にも届かない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます