第4話 体験入部2

 花宮はなみや こなつはずっと考えていた。なんで藍染あいぞめ いとはあの時いなくなって、今黎明れいめいにいるのか。あの時組んでた人じゃなくて、なんで若宮わかみや たつきと組んでいるのか。あの時よりも、なんで笑っているのか。

 分からない。今の藍染は、あの時の藍染と全く異なっている。どこまで考えても藍染の変化の答えは出なくて、花宮はもやもやした気持ちを抱える。

 当たり前だ、花宮は藍染じゃない。藍染の変化がわからないのは、花宮が藍染じゃないから。単純で最もわかりやすい事実なのに、花宮は気付けない。だから、馬鹿みたいにぐるぐる悩んで、もやもや気持ちを曇らせている。

 「こなつ、こなつ!呼ばれてるよ、あたしたち」

 「……え?あ、あぁ。わかった」

 花宮の思考をぶった切るように、中村なかむら はるかが腕を引っ張る。その衝撃で、花宮は現実へと思考を戻した。ほら、あそこ、と中村が指し示した方向を見ると、部員が手を降っている。2人はすぐに部員の元へと向かった。

 「君達、こないだ全国優勝した子だよね。気づかなくてごめんね」

 「いえ」

 「大丈夫です」

 「先生から話は聞いてる。確か、春休みはアメリカ行ってて練習参加できなかったんだよね」

 ごめんね、ともう一度部員が謝る。2人は何も言わず、小さく頷いた。

 「それで。今からレギュラー陣営が練習するんだけど、2人も参加する?」

 「します。したいです」

 「あたしもしたいです!」

 食い気味に2人は答える。その勢いに一瞬部員は驚いたが、すぐに笑顔になって頷く。そして、

 「わかった!じゃあ伝えてくるから、二人はここで待ってて」

と言って走り去っていった。

 それから大体5分後。一番手前のテニスコート、新入生から最もよく見えるコートに、レギュラーメンバーが集合していた。

 「二人の名前教えてくれる?あと、なんて呼ばれたいか」

 藍染がにこにこと笑いながら尋ねる。その笑顔に、花宮はまたもやもやした気持ちを抱え、中村は言い知れない暗い気持ちを覚えた。

 「花宮はなみや こなつです。名前でも名字でも、好きな方を呼んでください」

 「中村なかむら はるかです。あたしのことは名前で呼んでほしいです」

 「おっけ、こなつちゃんに遥ちゃんね。じゃあ、練習始めようか」

 ”お願いしあーす!!!!”

 藍染の号令で練習開始。部員たちは大きな声で挨拶をする。そのあまりの大きさに、2人は驚いてしまった。

 「あ、白鳥しらとりー、こなつちゃんの相手して。あとあらし、遥ちゃんの相手お願ーい」

 「イエスボス!」

 「わかりました」

 そうして、藍染は去っていった。


 「ラリーやめー!ボール拾ーい!」

 藍染の言葉でラリーが終わり、部員たちは爆速でボール拾いを始めた。流れについていけていないのは花宮と中村だけ。とりあえず、2人も足元付近にあるボールを拾う。

 「あの、ボール」

 「ありがとねー。花宮さん……だっけ。ばり上手いね、さすが全国1位」

 「いえ、そんな」

 謙遜しないでよ、じゃないと俺がクソ雑魚になっちゃうやん。ただでさえラリーで打ち負けてんだから。ボールを受け取りながら、花宮のラリー相手だった白鳥は言う。

 「そだ。この後ダブルスするんだけど、花宮さん俺と組まない?面白そうだし、先輩たちも許してくれるっしょ」

 適当に聞き流していた花宮の思考は、そこで止まる。白鳥の言ったことが、一瞬理解できなかった。

 「駄目かな」

 そうして、固まっている花宮に再度、白鳥は聞いて。

 「ダメです、こなつはあたしと組むの!」

 いつの間に移動したのか、背後から現れた中村が花宮の腕を組んで、引き寄せた。

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