第3話 体験入部1

 「ヘイそこの君!私達と一緒に、しない?夢、見してあげるよ」

 「はっ、はい!よろしくおねがい、します、?」

 「はい一名サマごあんなーい!白鳥しらとり、この子案内したって」

 「イエスボス」

 多くの新入生と部活動生で溢れている校門前。部活動紹介の宣言通り、藍染あいぞめ いとは道行く新入生を逆ナンしてはテニスコートへと送っていた。ちなみに、新入生へかける文言はナンパ男を真似したものである。

 「いと先輩、あとは僕たち呼び込んどくんで練習行ってください。大会近いですし」

 テニスコートへ新入生を送ってきた部員、時繁ときしげ あらし(2年)が藍染へと声をかける。藍染はうなずき、駆け足でその場を去っていった。


 「帰☆還」

 「おかえり、糸ちゃん。沢山ナンパしてきたね〜」

 テニスコートには大勢の新入生が並んでいて、一部は体験入部でボールを打っている者もいた。

 藍染のペアである3年、若宮わかみや たつきの出迎えに、藍染はニコニコしながら受け答える。

 「ナンパしてきた!たつき、ラリー付き合って」

 「いーよ」

 そして、藍染はラケットを持って、コートに入って、軽く2、3度素振りをして、若宮に合図する。若宮は少しラケットを持ち上げて、彼女にサインを出して、すぐにラリーが始まった。

 「……あの人達って、付き合ってるんですか?」

 その様子を一部始終眺めていた体験の生徒、また見学の生徒は近くにいる部員達に尋ねる。部員達は一瞬、困った顔をしたあと、同じ答えを返した。

 「付き合ってないよ」


 「………は」

 「えっ、やば。めっちゃ上手いじゃんあの人。テニスできなくなったんじゃないの!?」

 一度寮に戻り、着替えとラケットを持ってテニスコートへとやってきた花宮はなみや こなつと中村なかむら はるかは目の前で繰り広げられているラリーに驚きを隠せなかった。まずラリーをしているのが女子生徒と男子生徒で、しかもおそらく本気同士でラリーしていて、更に女子生徒は全然打ち負けていなくて、男子生徒が弱いだけかと思ったら男子生徒のレベルも高くて、そしてその女子生徒というのが、花宮が入部した目的である藍染だったからだ。

 「なんで」

 熾烈なラリーを繰り広げている藍染の表情は心底楽しそうで、そのことが花宮には信じられなかった。だって藍染は、あの時―――――。

 「体験の子?」

 呆然と藍染を眺めていた2人に、声がかかる。振り返ると、笑顔の部員がそこにいた。

 「体験なら着替えある?あるならあそこで着替えておいで」

 「わ、かりました」

 「ありがとうございます」

 あそこ、と部員が示した更衣室へ2人は向かう。2人は互いに、様々なことを思いながら練習着へと着替え、ラケットを持ってコートに向かった。

 「あれ?君、どこかで会ったことある?」

 「えー糸ちゃん、知り合い〜?」

 コートにつくとラリーはもう終わっていて、体験の生徒に打ち方を教えている藍染と若宮が、コートに入ってきた花宮と中村を見てそう言った。藍染はしきりに首を傾げ、花宮を見ている。

 「いえ。会ったことはないです」

 「じゃあ見間違いかな。とりあえず体験来てくれてありがとう。私はキャプテンの藍染です。こっちは若宮。わからないこととかあったら聞いてね」

 じゃあね、と言いながら藍染たちは体験の生徒の元へ戻る。花宮はジッ、と藍染を見続けていた。

 「こなつ、あたしたちも打とうよ」

 「うん」

 中村がそう言って、服を引っ張って、やっと花宮は藍染から目をそらす。その様子に中村は少し不満げだったが、すぐに打つ準備を始めた。

 なぜ不満に思ったのかは、中村も知らない。

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