第2話 入学式2

 講堂の壇上には各部活のリーダーが整列していて、各々部活の正装を身に纏っていた。例えば、野球部はユニフォーム、百人一首部は袴といったように。部活動紹介の順は文化部が先、運動部が後。

 文化部の紹介が終わり、運動部の紹介も終盤へ。バドミントン部の紹介が終わったところで、今まで司会に回っていた在校生、蝶野ちょうの 晋太郎しんたろうが列に加わった。

 「最後に、大トリを務めますは我らが硬式テニス部!改めて自己紹介をいたします、硬式テニス部のキャプテン(その2)の蝶野晋太郎です!そしてこちらにおわしますが!」

 彼が指し示すのは、今までずっと沈黙を保っていた、ユニフォームに身を包んだ女子生徒。彼女はスッ……となめらかな動きでマイクを構え、

 「硬式テニス部キャプテン(その1)を務める、藍染あいぞめ いとです!!みんな盛り上がってるかーい!!!!!」

 ”いえええい!!!!”

 「ありがとー!!」

と、アイドルばりに笑顔を振りまいた。

 さて、この藍染糸が自己紹介をしたとき、ガタッ、と音を立てて立ち上がりそうになった新入生が一人。大きな目をかっ開いて、口をはくはくと動かして、全身をワナワナと震わしていた。なんとか立ち上がるのは我慢できたが、中腰の状態で固まっていたので周囲の生徒から怪訝な目で見られていた。

 そんなことが起こっているとは知りもせず、壇上の藍染と望月は部活動紹介を進める。

 「今日から一週間、学校全体で部活動勧誘が行われます!みんなぜひ、ウチの部活にも来てね!」

 「見学・体験共に大歓迎です!今日から体験入部はできるからコートにおいでね!私から逆ナン受けた子は絶対に体験すること!これは決定事項です!」

 藍染のその言葉に、何人かの新入生は絶対に逆ナン受けよう、と決意した。そして、盛大な拍手を背負って、各部活のリーダーたちは退場する。その姿を見送りながら、先程立ち上がりそうになっていた新入生はほっ、と息を吐いていた。

 「どしたん、こなつ」

 こなつ、と呼ばれたその新入生は、不思議そうな顔をして尋ねてくる中学来の友に、口角を上げながら答える。

 「見つけた」

 彼女の名前は花宮はなみや こなつ。中学時代、全国ナンバーワンの硬式テニスプレイヤーになった実力者である。この度、黎明れいめい高校から声がかかり、特待生として入学することとなった。

 「……そ。良かったね、こなつ」

 「うん」

 実は花宮の友人、中村なかむら はるかは、花宮がなぜこの学校を選んだのかを知っている。全国の高校から引く手あまた、中には黎明高校よりも条件の良い学校がスカウトに来たのに、この高校を選んだのか。それは花宮がある人物に会うため、と知っていたからだ。中学時代から花宮が何度も「会いたい」と言っていた人。そんなにも言うのなら、中村も気になってしまう。だから、中村も黎明を選んだ。

 多分さっきのアイゾメさん、ていう人がこなつの会いたかった人なんだろうな、と中村は思う。事実、花宮に尋ねると嬉しそうに頷いていた。

 「こなつ、学校終わった後どうすんの」

 「勿論見学に行く。あ、でも体験もしたいから一旦寮に戻って着替えとっていく。遥は?」

 「あたしもそうする。一緒帰ろ、ね?」

 「うん」

 中村は花宮のダブルスのペアで、ずっと彼女と組んで戦っていた。始まりは小学生から、それからずっと花宮と組んで、各大会を勝ち抜いてきた。

 (あたしはずっと、こなつのペア。こなつと組めるのはあたしだけ)

 彼女はいつしかそう思うようになっていた。

 そんなわけ無いのにね。

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