知ーらねっ。

あしゃる

第1話 入学式1

 私立黎明れいめい高校。福岡市内に所在し、男子校として県内、また県外に名が知れ渡っていた。それが近年の少子化による影響で、3年前に共学化。全校生徒約1500人のうち、500人ほどが女子生徒である。

 さてこの黎明高校、男子校時代はスポーツ強豪校として有名だった。野球、バレー、バスケなど県内で一位、二位を争う部活を有しており、特に硬式テニス部は一昨年、全国大会出場、団体戦は準優勝、個人戦シングルスは優勝、ダブルスはベスト8という素晴らしい成績を残していた。それにより昨年、今年の受験志願者数は大幅に増えたらしく、受験の倍率がとんでもないことになった。

 今日は黎明高校の入学式。熾烈な受験戦争を勝ち抜いた、もしくは推薦で選ばれた者がとうとう黎明に仲間入りする日だ。誰もがおろしたての制服に身を包み、これから起こる学校生活に胸を躍らせている。彼らの希望いっぱいな気持ちに呼応するように、天気もからからの晴天。最高の日和だ。

 クラス分けの発表があった後、新入生は己のクラスに移動して荷物を置く。誘導の生徒が来るまでソワソワしながら待ち、待ち切れない者は隣の生徒に話しかけたりしていた。

 そして、誘導の生徒が来て、慣れない出席番号順に並んで、入学式が行われる講堂へ向かう。高校の施設としては随分立派な講堂の姿に驚きながら、内部へと足を踏み入れる。すぐにたくさんの拍手が彼らを包み、中学とは何もかも違う高校の出迎えに圧倒された。

 「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」

 そんな定型文で、入学式が始まる。なんと司会・進行を担当しているのは在校生。祝辞や校長挨拶、PTA挨拶は大人が行ったが、その他の説明は全て在校生が行っていた。

 実は、黎明高校の入学式は在校生によって会場設営、受付、進行が行われていて、他校には無いスタイルの入学として有名だ。会場設営は主に運動部が、受付と進行は主に文化部が行い、上手に役割分担をしていた。大体朝7時に準備の生徒は集合して、そこから爆速で準備を進める。会場設営係はずっと机やら椅子やらマイクスタンドやら何やらもって会場内を走り回り、受付係は直前になって教師から渡されたプリントの束にブチギレながら一枚一枚パンフレットにはさみ直し、進行係はゆうゆうと茶をしばき、誘導係を決めてないことに気付いて慌ててじゃんけんで決めていた。在校生しか居ない講堂内では怒号、叫び声、泣き声など様々な声が上がっていて、まさに阿鼻叫喚、この世の地獄のように荒れ狂っていた。

 そんなことを知る由もなく、新入生たちは希望いっぱい、夢いっぱい、元気百倍アンパンマンといった様子で高校の話を聞き続ける。中には睡眠不足で寝てしまう者も居たが、大多数は真面目な様子で聞き続けた。

 「―――以上で、入学式を終わります」

 新入生たちの体感で10分、現実時間1時間過ぎ去った後、入学式が終わる。ずっと姿勢良く聞いていた新入生はぐでっ、と背もたれに背をつけ、眠りこけていた勇者しんにゅうせいは目を覚まし、大きく伸びをした。

 「続けて、在校生による高校アピールです」

 そして、彼らは慌てて姿勢を正した。


 「みなさん、こんにちはー!」

 ”こんにちは―!!!!”

 「良い返事ありがとうございます~。今からは僕たちが黎明の良さを紹介します!案内人は僕、神尾かみお 純一じゅんいちと、」

 「わたくし蝶野ちょうの 晋太郎しんたろうがおこないまーす!女子じゃなくてごめんね〜」

 「ちなみに僕たちは硬式テニス部に所属しています!後で紹介しますが、ぜひ見学に来てねー」

 「それじゃあ学校紹介、行ってみよ〜」

〜〜〜〜〜〜

 「では最後に、皆さんお待ちかね!部活動紹介です!」

 「イエエェェェェェェェェェイ!!!!!!!!!!」

 ”イエエエエイ!!”

 「いい感じに盛り上がってますねー。では先程から舞台袖でソワソワしている各部活の部長さんたち、登場お願いします!」

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