第11話
しかし、誰にも祝われなくとも、得られるものがあったりもした。
スマホを机に置き、パソコンでメッセージアプリを開く。画面が違うだけで、パソコンでも部長からのメッセージが表示された。
そのメッセージ画面をコピーして、ワードソフトに張り付けた。早まってはいけない、このまま提出するわけではない。
量も質もない状態。質を極めることが難しいテーマならば、せめて量でカバーをするしかない。足首までの深さの思考が、どぶっと膝下までを沈めていく感覚。自分の才能が恐ろしく思えるほどの、天才的発想。ハードルを高くした方が良い、これも証明したものは誰もいない。つまり、いくらハードルを低くしようと、自由という訳だ。解放感に万歳、そして乾杯。
「テーマを増やしてみるか」
文章を実際に並べてみて気がついた。見え方が変わると、今まで見えていなかったものを見ることができるとか、できないとか。
そもそも、要求された課題はオカルトに関するレポート。テーマの個数について縛られてはいない。さらに言ってしまえば、形式についてはノータッチだった。極端な話、箇条書きを百個書いても許されるのだ。許されるべきである。
テーマを増やして書けば、一個のテーマの負担が減る。遠回りに思えるが、意味もなく机に張り付いているよりは効率的だ。そんな役目は、冷蔵庫の磁石にでも任せておけば良い。
部長からのメッセージに再び目を通す。
残るテーマは『変わらない信号』と『メビウスのミサンガ』の二つ。どちらを選ぶか。いや、選ぶまでないのか。フライング気味に文章を読んでしまったせいで、これが見かけ上の二択であることに気づいてしまった。
・『変わらない信号』
最近できたコンビニから、数百メートル離れたところで起こる現象。誠の家から近いんじゃないかな? そのコンビニ周辺で起こるらしい。変わらない信号自体は、その日によって場所が少し異なる。土手付近でよく起こるらしい。
・『メビウスのミサンガ』
なんかミサンガがメビウスらしい。メビウスがミサンガなのかな? 詳しい情報はないから、分かったら教えて。
「……」
マウスをカチッと鳴らし、『メビウスのメサンガ』の文章を選択。なんとなく、エンターキーで文章を消去した。
「となると『変わらない信号』、か」
部長の言う通り、家から自転車で十分かからない距離にコンビニはある。ただ億劫なことを除けば、動けないことはない。無理やりスケジュールを組んで、その忙しさに酔う人間よろしく、俺も忙しいアピールをしてみることにしてみよう。
ちょうどいい、暇つぶしになるだろうし。
ぐっと一つ伸びをし、硬くなっているはずもない筋肉を伸ばす。反射的に誘われたあくびを噛みしめ、俺はリビングを後にした。
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