第22話 思わぬ展開
教会にインターホン……まあ今は孤児院だからあってもおかしくないよな。でも俺の中で教会とインターホンが結びつかず、エグイ違和感だけを残している。
おそらくこの普通の扉は後からつけたんだろうな。普通過ぎて教会の雰囲気とマッチしてない。
「あれ……出ないな」
しばらく待っても反応が無い。塩見がもう一度インターホンを押しても、同じく返事はなかった。
「留守か?」
「いや、今日行くことはあらかじめ伝えてあるし、オッケーも出てたんだけど……」
その時、どこかで子供の笑い声が聞こえた。それも一人じゃなく、大勢の。
それで合点がいったのか、塩見は小さく笑って、
「なるほど、外にいるのか。じゃあ直接会いに行こうか」
と、そそくさ歩き出したので俺もついて行く。
塩見に連れられて裏に回れば、大きな広場に出た。
太陽の光を浴びた草木が生い茂る空間で、子供たちが楽しそうに遊んでいる。
和やかな空間。遠目からみて、子供たちとは別で大きなお友達が二人いる。
なんか……その中の一人に見覚えがあるんですがそれは……。
塩見も気づいたらしい。確認するように横を見れば塩見と目が合った。
「一応訊くけど、お前知ってたのか?」
「まさか、正直驚いてるよ」
「これは想定してなかったな……」
「まあ、とにかく行こうか」
そう言いながら、塩見は子供たちに近づいていく。
それについて行くと、俺たちの気配に気づいたのか彼女がこちらを向き、
「あ、お客様でしょうか……ってうわぁっ!?」
聞いたこともないような、とても美少女が出さない驚嘆の声を上げた。
「な、なななななな、なんでここに御門君たちが!?」
目が泳ぎ、手を意味もなくでたらめに動かす星宮。
今までに見たことがない、彼女の狼狽えた姿。
「あ、圭一! ごめんね! もしかしてインターホン押してた?」
狼狽える星宮をよそに、もう一人の大きいお友達が塩見に気づいて歩み寄る。
燃えるような赤い髪。それでいて若くて、綺麗な人。パッと見の印象はそれ。星宮よりはお姉さんな感じだろうか。でも、そこまで離れているようには見えない。そんなことより。
「「け、圭一!?」」
俺と星宮の声が被った。
ちょ、ちょ、塩見君!? し、知り合いって女の人だったんですか!?
「押したけど反応が無いから直接来た。
「「あ、朱音!?」」
また、俺と星宮の声が被った。
おそらく、この状況に一番戸惑っているのは俺。次点で星宮だろう。
色々と、予想外な展開が過ぎるぜ……!
「事前に言ってた通り、友達を連れてきたぞ」
「ああ……それも気になるけどとりあえずちょっとこっちに来て! 先に大事な話!」
そう言って朱音さんが塩見の腕を掴む。
「いや、友達の紹介より大事なことある?」
「あるから引っ張ってるんでしょ! 本当に大事な話なの!」
「ここでできない話か?」
一瞬、塩見の目が鋭くなった。
朱音さんはその言葉に小さく頷いた。
「わかった……御門ごめん! あとでちゃんと紹介するから!」
そうして、塩見は朱音さんに引っ張られて少し離れたところへ連れて行かれた。
「あ……おい塩見!」
いや、あの……俺、放置? 俺が今日の主役って言ったのは嘘? だとしても、せめて一言くらい紹介してよ……ここで放置されるとマジで困るんだけど。
考えうる中で割と最悪に近い展開が早速行われてしまった。
唯一の救いは、俺の知り合いもなぜか一人居たことか。
「兄ちゃん!」
こうなったら木に擬態して時が流れるのを静かに待つか、と意気込みを新たにしたところで、ズボンを掴まれる感触が。
「ヒマなら俺たちと遊ぼうよ!」
小さな男の子が、下から俺を見上げている。
「悪いな……今は木に擬態して時を過ごすっていう大人の遊び中なんだ」
まだ穢れを知らない純粋な瞳。
俺にもきっとそんな時代があった。なんて過去を振り返りながら答える。
「じゃあヒマなんだな! 一緒に遊ぼうよ!」
「あ、はい」
え、押し強くね? 小粋なジョークが一蹴されたんだが?
勢いそのまま頷けば、すぐさま手を引っ張られて子供の群れへ連行される。
みんなの目が怖い。純粋に光り輝くその瞳は、まるで新しいおもちゃを見つけたかのように不気味に光る。
いや待って。そもそもなんでここに星宮がいるの? とか、そんな会話すらできてないんだけど!? もう色々思考が追い付いてない。
「ほ、星宮……フォローミー!?」
「それ、たぶん使い方間違ってるよ?」
「え……?」
フォローミー。訳、ついてこい。星宮に意味を説明されてそのままに、彼女は俺について来て子供の群れに混ざった。助けて、の意味で使ったはずが、結果的に正しい意味で使われてしまった。
「兄ちゃん、鬼ごっこしよう! 鬼は兄ちゃんな!」
早速、子供の強権により鬼を押し付けられた。
なんの理由も無しに鬼を決められる、絶対王政がそこにあった。
もし見た目が鬼っぽいとかの理由で決めてたら社会の厳しさを教えてやるよ。拳でな。
「待て、せめてじゃんけんじゃないのか?」
「なんだよ兄ちゃん。もしかして俺たちを捕まえる自信がないのか?」
「ああ?」
小さな子供に煽られて、俺のミジンコ並みのプライドに火が灯る。
どうやら……本気でこのクソガキに社会の厳しさってやつを教えてやらないといけないみたいだな。
煽るってことはよ……無慈悲にやられる覚悟は決まってんだよなぁ?
「いいだろう……貴様らに現役高校生の本気を見せてやる……」
その勝ち誇った顔を、大人になりきれない子供の力で絶望色に染め上げてやる。覚悟しろよ?
「30秒やる。好きに逃げろ。瞬殺してやるよ……!」
鳴らないくせに腕をポキポキさせながら言えば、子供たちは楽しそうな声を上げて一目散に散って行く。
どこへなりとも行くがいい。俺の視界に入ったやつは全員狩り殺す。
その笑い声を、悲鳴に変えてやる。ムーブが完全に悪役のそれ。
「えっと……大丈夫?」
まだ隣に残ってる星宮が申し訳なさそうに笑う。
「なにが?」
「ほら、急に鬼ごっこに巻き込まれて」
「ふ、俺は勝てない戦はしない主義だ。あいつらに現実ってやつを教えてやる」
「えっと……子供相手にムキになり過ぎないでね?」
冷静に返される。大丈夫、半分は冗談。もう半分は……ね?
「星宮は逃げなくていいのか? 俺は楽なところから攻めるぞ?」
「もしかして、御門君はか弱い乙女を率先して捕まえる酷い男の子だったのかな?」
「この世は弱肉強食。手を伸ばせば届く距離に獲物がいれば、そこを攻めるは定石」
「なるほど、じゃあ私も逃げないとね!」
星宮は軽やかな足取りで俺から距離を取った。
なんでここに星宮がいるんだ? とか訊きたいことはある。でも、そこは踏み込み辛いラインだよなぁ。なんとなく当たりは付いてるし。
それよりも、今は俺を煽ったクソガキに社会の厳しさを教えてやらねばならない。
もうすぐ30秒。さあ、狩りの時間だ。
「よし、行くぞ!」
時間になり、獲物を狩る狼の足を力強く踏み出す。
瞬間、踏み出した足に稲妻が走り、衝撃が全身を駆け巡る。
「あひっ!?」
そう、俺は忘れていた。ミジンコ並みのプライドに火が灯ったせいで、とても肝心なことを忘れていた。ここに来るまでに、俺の足はとっくに限界を迎えていたんだと……。
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