攻略対象外のサブヒロインを主人公とくっつけたい男の話
国産タケノコ
第1話 サブの時代に終わりを告げて
サブヒロイン。それはメインヒロインの枠を外れたおまけポジション。
サブヒロイン。それはゲームによっては申し訳程度に攻略対象となるポジション。
サブヒロイン。それは時に負けることすら許されないポジション。
サブヒロイン。それはひとえに不遇なポジション。
メインヒロインにも入れず、お情けでルートを貰ったかと思えば淡白なシナリオとあっけないエンディングでプレイヤーの心に一抹の消化不良を起こす。
挙句の果てには、攻略ルートが存在しないことすらある不遇っぷり。世の中には負けヒロインと呼ばれる者たちがいるが、考えようによってはまだ負けられるだけマシなのである。サブヒロインは、戦いの土俵にすら立てないことがあるんだから……!
そんな不遇なサブヒロイン。しかし、それは時としてメインヒロインすら凌駕する魅力を持つ。
メインヒロインは脚本家の都合上ある程度決まったキャラ付けがされているが、サブヒロインにはその縛りが存在しない。故に、時には脚本家が好き勝手した結果、メインヒロインより人気になってしまうこともある。
このように、恋愛シミュレーションゲームには、往々にして魅力的なサブヒロインが存在する。隣の芝生は青いように、攻略対象外だからこそ魅力的に見える可能性も否めない。たしかに否めない。
だが、彼女は違う。彼女は恋愛シミュレーションゲーム、通称ギャルゲー(全年齢版)のサブヒロイン。しかし、彼女はその域をもはや凌駕していた。
一目見た時から世界に光りが満ちた。彼女の明るさに触れれば、今まで悩んでいたことが全部些末事のように思えた。救いと慈愛の女神とは彼女のためにあった言葉。
画面越しに主人公と会話をしているだけで、画面の外にいる俺が惚れてしまうほどに。こんな子パッケージにいたっけな? とか確認して、姿を見つけられなくて絶望したのは今でも鮮明に覚えている。
彼女はメインヒロインの一人、桜野姫花《さくらのひめか》の親友ポジション。
栗色でサラッとしたセミロングの髪。あどけなく、幼さが残る顔立ちは誰かれ問わず人目を惹く美貌も兼ね備えている。
誰にでも分け隔てなく接し、持ち前の愛嬌のおかげで、クラス内外を問わず人気を博している最強の女神。たしかに、メインヒロインを張れるようなクセはないかもしれない。だが、それがいい。これは個人の趣味嗜好だ。俺はそれが好きなんだ。
アニメでも、ゲームでも、誰を推すかは個人の裁量に委ねられる。アイドルとかはそれでたまに喧嘩になったりするけど、ギャルゲーの世界では喧嘩にならないと信じたい。
ただひとつ文句があるとすれば、それは彼女の立ち位置にある。
彼女はあくまでサブヒロイン。メインヒロインである桜野姫花のおまけ扱い。どこまで行っても主人公とは仲のいい友人止まりだ。
何度ルート分岐を探しても出てこない。攻略サイトを徘徊しても、攻略のこの字すら出てこない。
どう見ても一番可愛い女の子(俺目線)なのに攻略できない。
極論、このゲームは俺にとってクソゲーであった。
なにかのバグで攻略できないだろうか。そう考えて共通ルートを周回すること幾何ヶ月。ついにはどこにもルートは存在しなかった。
このクソゲーが! とディスクを割って捨てたのが大体15年前。
そして、ついにこの時が来た。
真新しい制服に身を包み、俺はこれから3年間世話になる学園の校舎を見据える。
「……ったく……赤ちゃんからやり直しさせるなよ……」
今まではふざけて、今死んだら有名人の赤ちゃんに転生できるかも? とか思ってきた俺であるが、実際にそれが自分の身に起こると軽くホラーだった。
そう、俺は今2度目の人生を送っている。
それも、かつて攻略しようにもできなかった最愛の女神がいるギャルゲーの世界にだ。
今まで信じ切れなかったけど、ようやく確信できたのは、さっき俺の横を通り過ぎた女神を見つけたから。まだ俺という存在は彼女に認知されていない。でもそれでいい。
「やっと……やっとだ」
全てはここから始まる。
前世の死因とか、俺は誰だったのかとか、抜け落ちている記憶はたくさんある。ゲームの内容すらもほぼ覚えていない。かろうじて覚えているのは公式HPのキャラ紹介くらいだ。最初から完全にアドリブ勝負。だが、それがどうした?
それでも消えずに残っている記憶があった。赤ちゃん時代、初めて口にした言葉は”ひかり”。あの時の、なんと反応していいかわからなそうな両親の顔は忘れない。両親の名前は加奈子と大輔。かすりもしていない。
前世では、ゲームという決められたプログラムに沿って進む物語を見守るしかなかった。
だが、今は違う。この世界に、俺は自分の足で立っている。
自分で考え、自分の意志で行動できる。だったらやることはひとつしかない。
2度目の人生。エクストラステージ。失うものはなにもない。なら、後悔しないように生きるだけだ。
「俺が……絶対に君をハッピーエンドへ導いてみせる」
全ては彼女が幸せにしている姿をこの目で見るために。
だから……絶対に作ってみせる。
俺が、君と主人公のハッピーエンドを!
それが俺、
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