子犬系男子の萌え袖を引き千切って五厘刈り。

村上嘘八百

子犬系男子の萌え袖を引き千切って五厘刈り

 おかしい。あまりにも気持ち良すぎる――。






 僕は目の前で絶命した子犬系男子にめがけて唾を吐く。五厘刈りで仰向けに倒れた子犬系男子の萌え袖は無惨にも引き千切られていた。まぁ五厘刈りにしたのも萌え袖を引き千切ったのも僕なんだが――。




 所々剃り残しのある哀れな五厘刈りの頭に唾が付くと、僕は思いっきり射精した。気持ち良すぎて射精した後は生まれたての子鹿のように膝が震え、その場に倒れた。




「馬鹿がよ。二度と汚ねぇマッシュにしてんじゃねーぞ――」




 僕が子犬系男子を狩りを始めたのは二年前だ。だいたい千人以上の野良犬共を闇に葬ってきた。クソゴミどもが――女に可愛いと言われることに命を賭けやがって。そのお前の賭けた命を僕が刈り取ってやんよ。




 街には犬っころ共が蔓延っている。奴らはピカピカに光るネオン街や無駄にうるさい所を好むのだ。だが生息地が分かっているのは都合が良い。犬っころ共を見つけやすいし、闇討ちしやすい場所を事前に調べられる。




「かぁるーあミルクでぇあたまがぁぼーっとしゅるーからぁどこか『ゆっくり出来る所』行きたいな」




 女に向かってわざとらしく作ったトロン顔で話す犬系男子が僕の目の前を横切った。前半何言ってるか分からねぇのに肝心の所はハキハキ喋りやがって――。今日はこいつにするか。




「ちょっとぉコンビニ行ってくりゅからまぁっててー」




 ――好都合だ。コンビニから出るタイミングで攫ってしまおう。人混みもあるから声を出させないように一瞬で拘束しなければならない。




「いらっしゃいませー。商品をお預かりします。袋はお付けしますか?」




「――うん」




「お会計が六百三十二円です!」




「これで――。あ、あとタバコ」




「あ、はい。どちらでしょうか?」




「あれ。あぁ違う違う八ミリのやつ。ソフト、それ二つ」




 性欲バカに限って女以外にはこんな態度ばっかり取りやがる。まぁそっちの方がこちらとしても一思いにやれるから良いが。店員さんのイラついた思いも乗せて盛大に葬ってあげるとしようか。




 僕は犬っころがコンビニを出たタイミングで背後に張り付いた。耳元でバリカンの音を鳴らしながら――。




「可愛い顔してるねぇーチンコ生えてんの?」


「え? 誰だあん――」




 僕は犬っころをビルの裏に連れ込むと、目にも止まらぬ速さで手と足を縛り頭に袋を被せ自分の車に乗せた。




 僕は車を走らせ高速に乗り山に向かった。犬が後ろの座席でワンワン吠えていたので軽く頭頂部をバリカンで五厘刈りにしてやったら静かになった。




 周りからどんどん明かりが無くなり、高速なのに車さえも通らなくなった。僕は高速を降りると目的の山に向かう。この山は僕が犬共を粛清する為に購入した山だ。本当はもっと近くで始末したいが、人通りがなく一番近い山がそこだった。




 山の頂上に着くと車を止め、後部座席から犬っころを引きずり出す。地面に投げた瞬間、浜に打ち上げられた魚みたいにビチビチと暴れたので、袋を脱がし片方の側頭部をバリカンで五厘刈りにしてやったら痙攣して静かになった。バリカンで五厘刈りにされて軽く気絶しているようだ。




「こ、ここはどこ!?」




「お前かぁるーあミルクでぇあたまがぁぼーっとしゅてるんじゃねーのか? その割には、ちゃんと喋れてるんじゃねーか? あん?」




「カルーアミルクで酔うはずねぇーじゃん!」




 意識が戻ったのか大声を出し始めた。あまり喋らせても面倒くさいので僕はいきなり犬っころの萌え袖を引き千切った。




「んぎぃやぁぁぁぁぁぁ!」




 雷鳴の如く轟いた犬っころの叫び声が僕の耳を愛撫するように纏わりついた。僕はあまりの快感に勃起した。




 萌え袖を地面に叩きつけ先日買った革靴で踏みつける。犬っころはその場で横になり痙攣していた。もう一つの萌え袖も千切り捨てると、犬っころはまた魚のようにビチビチ跳ねた後に痙攣して静かになる。




 僕の股間も犬っころたシンクロするように痙攣していた。こんな奴とシンクロしているなんて心外だが、生理現象な為致し方がない。




 あぁ出そうだ――そろそろフィナーレといくか。




 僕は犬っころの襟足から前髪までを一直線でバリカンで五厘刈りにした。こういった何よりも髪が大事な奴らは、バリカンで五厘刈りにすることで絶命するのだ。その証拠に目の前の犬っころは瞳孔が開き、体中の力が抜けていた。




 僕は最後の飾付けに入る。仰向けで絶命している犬っころの頭に唾を吐きかける。まばらに剃られた五厘頭に大きな唾が付くと僕は思いっきり射精して、その場に座り込んだ。




 もはや薬物よりも気持ち良いのではないかとさえ思った。頭が真っ白になり膝は震えて白目をむいていた。もはやキメセクを超えた何かだ。悪い人達に勧めたら流行るに違いない。しかしこの快楽を独り占めしたいとも思う。狩猟なり漁なりに言えることだが、やはり狩り過ぎは生態系を崩してしまう。これは僕一人の中で留めておこう――。










◆ ◆ ◆










 金曜日の夜――。僕は原宿にいた。原宿といえば若者の街と言われ、竹下通りなんかは若者でごった返している。カラフルな街にカラフルな人々が入り混じり、ピカソの絵画のような得も言えぬ雰囲気がそこにはあった。




 時計はまだ二十時を回ってないのでお店も開いていて、昼と変わらず人も多かった。




「はっしょこぉらりもんちゅもぉろんろーくだちわってお?」




 目の前の女に話しかけながら解読不能な言葉を話す男がいた。格好はやはり女に可愛いと言われることに命を賭けていそうな見た目だ。糞みたいなパーマをかけたマッシュの髪を早く五厘にしてやりたいと鼻息が荒くなる。




「お兄さん僕とデートしよ――」




 犬っころに声をかけた、その刹那――。僕の目の前から一瞬で消えた。最初からそこには居なかったようにも思った。左右を見渡しても犬っころは居ない。今、見ていた犬っころは幻か? そう言われても疑わないほど一瞬で消えた。




「最近、東京界隈で噂になってる有名な子犬狩りってのはテメーだな? やっと会えたぜ」




「お前は何者だ……?」




「俺は『湾湾帝国わんわんていこく』の総長、ミッチーっつーもんだ。俺の部下が世話になったな」




 『湾湾帝国』だと――。湾湾帝国とは原宿を拠点に女を喰い物にしている奴らだ。僕が子犬系男子狩りを始めた一つの理由でもある。




 僕には三年前、大切な彼女がいた。僕の仕事が安定したら結婚しようと誓った大切な彼女が――。




 しかし、その幸せも長くは続かなかった。




『湾湾帝国』のミッチー――。




 彼女を――僕を――僕達を――。




 めちゃくちゃにした張本人だ。










◆ ◆ ◆










 行き交う人達は僕達に目もくれず歩いていく。普段は街を照らすネオンの光は、不気味に僕とミッチーを照らしていた。




「場所を変えようか。ここだとお互い都合が悪いだろう?」




「――分かった」




「僕が用意した車に乗りなよ」




「僕がそんな怪しい車に乗るとでも思ってるのか?」




「大丈夫だよ。僕だって組織を束ねるトップ。不意打ちみたいな汚い真似はしないさ」




 どうやら嘘はついていないらしい。僕は言われた通りに車に乗り東京を出た。目的地に着くまでお互い喋らず、僕は窓の外を見ていた。




「着いたよ。ここなら誰も来ないから邪魔されることもない」




 僕が降りた場所は大きな倉庫が立ち並ぶ港だった。夜だということもあり人の気配はなく、海風の音と潮の香りだけが僕達を包んだ。




「改めまして湾湾帝国のミッチーだよ。君の名前は?」




「名乗る必要はないだろ。どーせお前はここで死ぬんだ」




「つれないねぇー。じゃどうして俺達を狙うんだ?」




「復讐の為だ」




「復讐?」




「俺の彼女はお前らに乱暴されて富裕層専門の風俗に行かされた。やっと彼女と会えた時、彼女は目の光を失っていた」




「あぁーまさかあの女が君の――」




 ミッチーは悪魔のような笑みを浮かべながら片手で目を覆った。




「その女を風俗墜ちさせたのは僕だよ」




 今にも大声で笑いそうな表情だった。肩が小刻みに震え、口元も痙攣しているように見える。




「なんだと――」




「あの女、服を脱がせようとするとキャーキャー誰かの名前を叫んでたよ。覚えてないけど、もしかして君の名前だったり?」




 怒髪天を衝くでは表せないほどの怒りが全身を駆け巡った。握った拳からは血が出て真っ赤に染まっていた。




「お前を殺す」




「やってみなよ」




 僕は思いっきり踏み込むと一瞬にしてミッチーとの距離を詰めた。あまりの速さにミッチーは驚き体制を崩す。




 右のポケットからバリカンを取り出し、頭にめがけて手を伸ばすとミッチーは紙一重でそれを避けた。流石に組織を束ねているだけあって他の奴らとは一味違うようだ。




 僕はもう一つのポケットから素早くバリカンを取り出して追撃しようとすると、そこにはミッチーの姿はなかった。




 速い――。僕の反応が遅れた。




「しま――」




「遅いよぉー。頭ぼぉーっとしちゃってんのかなぁ?」




 ミッチーはポケットから素早く何かを取り出したが、僕には何も見えなかった。




「ガハ――」




 僕は吐血し、その場に膝をつく。自分でも何が起きたか分からず、地面が鮮血で染まったのをぢ呆然と眺めていた。




「何をした?」




「髪を触ってごらん」




「髪だと?」




 僕は恐る恐る自分の髪を触る。いつもと髪の毛の感触が違った。何だかフワフワしているし、異常なほど指に絡まる。髪を触った手が少しベタつき良い匂いを放っていた――。




「これは――」




「君の髪型をゆるふわパーママッシュにしてやったのさ! 良く似合ってるよ」




「くっ――」




 あの一瞬で、しかも激しく動いている僕の髪をゆるふわパーママッシュにしただと――? しっかりコテで巻かれてワックスで綺麗に整えている。こいつ――強いぞ?




 僕は手に持っていたバリカンで自分を五厘刈りにして一命を取り留めた。髪型をあのままにしていたら蓄積ダメージで倒れてしまう所だった。




口元の血を拭い、僕はまたミッチーとの距離を詰める。




「ワックスが付いた髪をバリカンで刈ったんだ。毛が刃に絡まって、そのバリカンはもう使えないだろ? 僕の勝ち――」




「バリカンなんていらないさ」




「何っ!?」




 僕はミッチーの目の前でバリカンを捨てると、そのまま手でミッチーの髪の毛を掴み思いっきり引き千切った。




「んんんんんほぉぉぉぉぉぉ!!!!」




 ミッチーは髪を引き千切られたと同時に断末魔を上げ、その場に倒れ込んで仰向けで痙攣した。力任せに引き千切られた頭部は考えられないくらい赤くなっていた。




 日々、犬っころ共の萌え袖を引きちぎっていた僕の腕力は考えられないほど付いていたのだ。髪の毛くらいどうってことはない。




「や、やるじゃないか。まさか手で髪の毛を引き千切ってくるとは――。乱暴な男は女子から嫌われるぜ」




「お前は犬だから大丈夫だ。もう終わりとは言わないだろ?」




「まさか。僕も本気で行くとしようか――」




 初めてミッチーの方から距離を詰めてきた。やはりトップを張るだけあってスピードは他の犬と桁違いだ。しかし僕も数多くのトレーニングを積んでいる。僕は後ろにステップしてミッチーと距離を取った。




「君ならそうしてくると思ったよ」




「何だと?」




 ミッチーは僕に向かって親指と人差し指を交差する。巷で流行っている『キュンです』サインだ。僕は無性にイラつき、無意識に距離を詰めてしまった。




「しまっ――」




「はは! 思惑通りだ!」




「なんてね――」




 僕は素早く反撃の姿勢を整えミッチーの攻撃を避けると、そのままミッチーの髪の毛をまた引き千切った。




「はぁーーーーーーーーん!」




 またしてもミッチーは仰向けで痙攣した。一回目が頭頂部、二回目は側頭部の髪を引き千切った為、ミッチーの髪型は現代芸術のような形をしていた。




「どんだけ策を練っても所詮は犬だな。人間様の知恵に勝てるはずがない。さぁそろそろ終幕と行こうか――」




「ま、まて!」




 僕は倒れていたミッチーの両腕にある萌え袖を豪快に引き千切った。服の繊維が弾け飛び花火みたいだった。




「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――!!!!!!」




 僕は絶命したミッチーの禿げた頭頂部にめがけて唾を吐くと素早くズボンを脱ぎ、エロマンガみたいな射精をした。強敵とのバトル、積年の恨み――その二つが重なり『快楽』では言い表せないほどの気持ち良さで白目をむいて僕も痙攣した。快楽の果てに行った気分だった。




 やっと――やっとだ。




 僕はやったんだ。あの時から止まった時計の針が動き出したような気分だった。




 僕はその場に大の字で倒れる。大量のほぼ固体のような精液が鈍く宙を舞う。




 あぁ――疲れた。少し寝ようかな――。




「あっれぇーミッチーちゃん負けちゃったのぉ?」




 誰かも知らない声に僕の眠気は覚め飛び起きた。いや『誰かも知らない声』だからではない。異様な殺気と、その男の声からは想像できない匂いだ。










「よくも僕の友達をやってくれたね。どーも初めまして『化粧系男子』のリ・田中です」






 この男は最近、東京の街に勢力を広げている『仮面武道会』のリ・田中だった――。










 やれやれ。まだ神様は僕を休ませてくれないみたいだ。




 僕は立ち上がりポケットからメイク落としを取り出すと田中に向かって距離を詰めた――。

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