第19話 モノリスショッピング
DPを使って様々な物が購入できることは知っていた。
「だけどこういう形だとは思わなかったな」
自分の部屋にあるモノリスに触れてそのショップを利用してみたところ、なんと購入したものがモノリスからにゅっと飛び出てきたのだ。何の前触れもなく突然に。
(いやまあモノリスを利用して買った物が宅配便で届いてもそれはそれで怖いんだけどさ)
ちなみにやろうと思えば時間指定もできるとのこと。
その場合は何分後とかにモノリスから出てくるのかを設定できる感じらしい。
つまり設定する時間によっては周囲に誰もいないモノリスから急にリンゴとかが出てくる訳だ。
(突然現れるリンゴとか、どんな種類のホラーだよ)
手にしたリンゴを色々な角度から確認しながらそんなことを考える。
「一応確認するけど、これって食べても問題ないんだよな?」
「勿論だよ。果物に限らず食材などは基本的に採れたての状態で作られるからね。むしろ普通のスーパーなどで売っているものより新鮮だと思うよ」
「ふーん」
採れたての状態で作られる、という些か以上におかしな言葉にツッコミを入れたい気持ちもなくはなかったが、もはやそういうものなのだろうと割り切ることにした。
(ダンジョンなんて死んでも死なない意味不明摩訶不思議な空間を作り出せるのなら、他の物だって作れて不思議はないだろうしよ)
だからその言葉を信じて手にしたリンゴを齧ってみると普通に美味しかった。
信じられないほど美味とかではなく普通に甘いリンゴである。
てかむしろ採れたての状態なせいかちょっと固いくらいだった。
「ああ、ちなみに今後は色々な種類を増やす予定だよ。果物なら特定の産地の物とかも順次追加する感じだね」
「それって本物との違いは?」
「ないよ。味も見た目も匂いも、全て同等の物が作られる。大きさも指定されない限りは一定にするつもりだしね」
つまり特定の農家が生産する果実などと酷似した物を買いまくって市場に流したら、その本物の商品価値は著しく下がるということではないだろうか。
有名な果物のシャイニーマスカットとかをDPで量産して売りさばくとかでもかなり儲けられそうだし、悪用しようと思えば幾らでもできそうなのが怖い。
モーフィアスの性格上、それで現実世界への影響が出ても知ったことではないと言いそうだし。
この数ヶ月の付き合いでそのくらいのことは分ってきているので。
(まあ今の俺はそんなことするつもりもないし、他の奴がやっても止められないのなら心配するだけ無駄か)
今回のリンゴもあくまでショッピング機能がどういう物なのか確認するために買ったに過ぎない。
なにせ俺の目的である癌をも治す薬を手に入れるためには大量のDPが必要不可欠なのだ。
その状況で無駄な物を購入している暇などありはしない。
(アルバートチャンネルは今のところ順調そのもの。この調子で稼げるうちに稼ぎたいな)
今のところ雑談配信でも視聴者は大量に釣れているしギフトも次々送られてきている。
たぶんこのペースならアルバートが世界一のダンジョン配信者として認められる日もそう遠い事ではないだろう。
だがタイムリミットである数ヶ月後までにそれが可能かと聞かれれば、確実にそうだと言い切れない。
話題になっても一過性の人気で終わる配信者も数多く存在しているし、俺以外でも人気のダンジョン配信者は数多く存在しているのだから。
(今は俺の異常なまでの強さをアピールすることでより多くの人に興味を持ってもらって、そこからいかにファンを作って固定できるかだな)
DPを継続的に稼ぐためにもファンは大事だ。その獲得の為なら良い人の振りをすることだってやってやる。
(ダンジョン配信者にとってDPを稼ぐことが最も重要なことだからな)
そのためにも強さ以外でもアピールできるポイントを作っておきたいところである。
なお、この辺りのノウハウについてはダンジョン以外の配信者のステップアップ方法とかをネットなどで調べたものだ。
一応モーフィアスなどと相談して、今のところはその方向で問題ないだろうという意見をもらえているのでこの方針でたぶん大丈夫だと思う。
「それで次は何をするつもりなんだい?」
「とりあえず別のダンジョンのタイムアタックに挑戦するよ。タイムアタックなら他の配信者と下手な遭遇をせずにやれるからな」
強さという点に関しては、現状では他の追随を許さない俺だ。
それだけでも大きなアドバンテージがあるのだから、それを活かさない手はあるまい。
「まあいいんじゃないかい。でもどんなに凄い事でも、あまり同じ内容を続けていると人は飽きるものだよ」
「その辺りは俺も分かってるよ」
同じコンテンツだけで永遠に人気を保てないのなら、その時は別のもので勝負する。
そのためにこうして色々と確認しているのだから。
「とりあえず今の俺の要望としては、ロッカールームで雑談配信が行なえるようにできないか? 毎回そのためにタイムアタックに挑むのは面倒だからな。それとモノリスショップで買える果物とかは、多少熟した状態とか選べるといいな。柔らかいのが良い人とかもいるし」
「なるほど、上に伝えておくよ」
そんなこんなで今後の配信方針などを運営側であるモーフィアスと相談しながら、その日の夜は更けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます