第18話 幕間 正体不明の男と日本政府の反応
日本に存在している下級ダンジョンのタイムアタック。
それを常識外れという枠すらも超えて、理解不能な速度で更新してみせた人物である謎の男アルバート。
その存在はネット上で瞬く間に広まると同時に、世界各国から注目を集めることとなった。
そして当然ながらそれは日本政府でも同じである。
「三嶋総理、この人物は何者なのでしょうか?」
「それは私が聞きたいくらいですよ、木崎大臣」
難しい顔をして例のダンジョン配信を見返している外務大臣に私は苦笑いを浮かべてそう答える。
このアルバートという男はその正体が謎に包まれている。
少なくとも日本政府が調べた限りでは何も分からなかったという結論しか今のところ出ないくらいに。
「その様子だと渡航履歴などでも正体は掴めなかったみたいですね」
「はい。少なくともここ数ヶ月以内に入国したアルバートという人物を調べましたが、どれもこの動画の人物ではありませんでした」
「それは困りましたね。今でも世界各国から彼が何者なのかと質問攻めになっているのに」
入管の記録を調べてもダメだったとなるとこちらとしてはお手上げである。
(現状では彼がどこの国の人間なのかどころか、日本のどこにいるのかも把握できないとは)
驚愕の配信が行なわれた翌日にも下級のスライムダンジョンに現れるという情報は得られていた。
他ならぬ当人がまたそこに現れると宣言したのだから。
だからこそ、そのダンジョンへと繋がるモノリス周辺には何人もの人員を配置していたのだ。
アルバートという人物が現れたら接触、あるいは保護するために。
だがそれは失敗に終わった。それもいつ彼がダンジョンに入ったのか、そして出てきたのかも全く分からないという形で。
「ダンジョンに出入りする際にはモノリスに近寄らなければならない。だからその際に最低でも接触くらいはできると思っていたのですが、いったい彼はどうやってその警戒網から逃れたのでしょうか?」
「分かりません。少なくともあのような外見をした人物が該当のモノリス周辺に現れていないのは確認が取れています」
「だけど実際には彼はダンジョン内に現れた」
ダンジョン内で手に入れたスキルやアイテムは条件を満たさなければ現実世界では効果を発揮できない。
そしてその条件を満たした者がいないことは、実は神サイトで間接的に確認ができるのだ。
(あちらのスキルなどを現実世界でも使えるようになるのには上級ダンジョンをクリアする必要がある。だけどその記録に名を連ねる者がいない以上はその可能性はないはずだ)
タイムアタックのレコードのように、上級以上のダンジョン踏破者の名前は神サイト上で表彰される形で掲示されるのだ。
勿論それはチャンネル名のような形で偽名も可能なのだが、それが偽名でも掲示されてない以上は誰も上級ダンジョンをクリアしていないことに他ならない。
だから仮に透明になれるようなスキルをこの人物が有していたとしても、現実世界ではそれを使うことはできないはずだった。
「こうなったら次からはロビーにも人員を配置しますか?」
「そうしたいのは山々ですが、それは運営を怒らせる可能性があります。それにダンジョン配信以外の目的でダンジョンに人を送り込むことになるのですから、規約違反と取られる可能性もあり得るでしょう」
神サイト上での規約に、適した目的以外での入場は禁止というものがあるのだ。
(あちらの解釈次第で幾らでも適用できる範囲が変えられそうな規約だとしても主導権が運営にある以上、こちらは従う以外に方法はない)
これらのことからも分かる通りダンジョン及び神サイトを運営している存在は、どうもダンジョン攻略や配信を行なうことを推奨しているようで、だからこそそれを妨害する動きを非常に嫌っているようなのだ。
それは日本政府が一部のダンジョンを封鎖しようとした際に、どこからともなく送られてきた警告のメッセージなどから分かっていることだった。
そんな面倒な制約があると分かっているのに日本政府がダンジョンに注目している理由は単純に、そこに他では得られない価値があるからだ。
具体的には、日本では得られない資源がそこで獲得できるのではないかと考えられているからである。
(DPを直接的な金銭に変えることはできないが、それでも金や銀などの資源は手に入ることが分かっている。そしてその資源の種類も段々と増えていっている)
まるでそれらを餌にしてダンジョンに人を呼び込むかのように。実際それは欲深い人間に非常に効果的であり、日本だけでなく世界各国で十分な効果を示していた。
そしてこの先で、仮に原油などの日本では採取不可能な資源がDPで手に入るようになれば、ダンジョンの価値はそれこそ天井知らずとなるだろう。
今はDP的に獲得できる資源の量は高が知れている。配信者個人が金を稼ぐため換金する分としては十分でも国で利用を考えられる量とは程遠い。
だがダンジョンに人を呼び込もうとしている神サイトの運営の傾向から考えて、それらの問題はいずれ解決されるのではないかという見方が濃厚だった。
その時のためにもDPを稼げる人材の確保は急務であり、このアルバートという人物はその条件を満たしているのはほぼ間違いない。
あるいはそれこそ我々が知らないDPの稼ぎ方も知っている可能性すらあった。
どうやったのかは皆目見当もつかないが、周囲が驚くような圧倒的な力を手に入れているのは間違いないのだし。
「とりあえず今後も接触を図るのは当然として、今後も継続して彼の動画を調べるようにしてください。何か情報が掴めるかもしれません」
恐らく世界各国が行なっているだろうが、だからこそ自分達もそれを怠る訳にはいかないのだった。
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