第12話 デス&ゴー

 モーフィアスに出会ってから一ヶ月が経過した。


 その間、俺は限界になるまで呪怨ダンジョンに突入しては死ぬことを繰り返す。


 その成果は徐々に表れて、最初は数回で限界だったのに一週間もする頃には十回は超える数をこなせるようになっていった。


 また特級スキルのおかげで呪殺される度にステータスに僅かな補正が入ることもあり、呪殺されるまでの時間も徐々に長くなってきている。


 もっともそれは、苦しむ時間が長くなることでもあるので嬉しいばかりではなかったが。


(呪われている時間もボーナス効果が発生するから我慢してるけど、そうじゃなかったら地獄だったな。……いや、どっちにしても地獄なのは変わりないのか、くそったれめ)


 そのある種のデス&ゴーをただ只管に繰り返す様はアルバートチャンネルで全て配信してある。


 当初はバカにするコメントなどで埋め尽くされ、それなりの再生数を稼げていた。


 だが次第に飽きられたのか、今ではほとんど再生されることもなくなっているようである。


(まあ配信でDPを稼げたところで、死亡した際のペナルティで消えるからな)


 だったらわざわざ映像を残す必要もないと思ったのだが、後々面白い事に繋がるからとモーフィアスに言われたので、一応その指示に従っている。


「なあ、残り時間は五か月だってのに、まだこれを繰り返すのか?」


 今日も限界を迎えて、自室に戻った俺は部屋の中央で変わらず浮いているモノリスに向かって話しかける。


「まだまだだよ。このペースだと少なくとも最低でも一月、長いと二月はステータス上げに終始しなければならないだろうね」

「はあ、マジでもう止めたいわ」

「おや、それは本気かい?」

「んな訳あるか。これは愚痴だよ、ただの」


 精神的にきつくて止めたい気持ちがあるのは決して嘘ではないし止めたいと文句も呟くが、それでも本気でそうする気はない。


 家族の命が掛かっているのだ。

 この程度の苦しみくらい耐えてやるとも。


「それにしても、いい加減に具体的な目標数値を教えてくれよ」


 ゴールが分かっているのといないのとでは、同じ苦痛を味わってもメンタル的な意味で全然違うのだ。


 あとどれだけ耐えれば良いのか分からないのは、それ自体がメンタルを削ってくるのである。


 だがモーフィアスは何度頼んでもそれを教えてはくれなかった。


「こちらも何度も言っているけど、具体的な数値については教えられない決まりになっているんだ。だから私に言えるのは、目標達成までの大まかな期間だけだよ」


 これはこれまでに何度も繰り返した会話だった。

 分かってはいたが、その結果に溜息を吐くしかない。


(上昇するっていったって、その数値は微々たるもんだし本当に間に合うのかよ……?)


 現在の俺のステータスはこれだ。



氏名 伊佐木 天架

性別 男性

年齢 18歳

レベル 1


HP  17

MP  14

STR 16

VIT 15

INT 19

AGI 15

DEX 13

LUC 19

保有スキル 

特級スキル 『呪殺ボーナス』『ボーナス超強化』『千変万化』

中級スキル 『鋼の心アイアンハート

下級スキル 『斬撃スラッシュ』『軽身』


保有DP 0DP


 特級スキル以外のものは、余っていたDPで買っておいたものの一部だ。

 どうせ死にまくるので、その前に無駄にならないようにと。


 ダンジョンで魔物を倒すと経験値が溜まり、それが一定まで到達するとレベルが上昇する。


 その際に全てのステータスが1上昇する仕様となっている。


 つまり今の俺はレベル1のまま、10レベルほど上がったステータスとなっている形だった。


 レベルは上がれば上がるほど必要経験値が増えていくとのことで、低レベルのままステータスが上昇していること自体はありがたいと思う。


 だけど一月の間にこれだけの上昇で本当に期限までに間に合うのだろうか。


 他のダンジョン配信者の話を調べた限りだと、一月で10レベルはもの凄く早いということでもないみたいだし。


(……だからといって他に方法が思いつく訳じゃないし、こいつに賭けるしかないか)


 ダンジョンからアイテムを現実世界へと持ち帰るためには、大量のDPの他に上級ダンジョンを攻略することなどが必要不可欠。


 それなのにモノリスが現れて半年が経過した今でも攻略されたのは中級まで。


 それこそ上級ダンジョンはただの一つも攻略されていないのだ。このことからも普通の方法では間に合わないのは目に見えている。


(万が一、こいつが俺を騙していたら絶対に許さねえけどな)


 その時は愚かな自分を笑うと同時に、なんとしてでもこいつらに対する復讐を敢行するとしよう。


 そんな不穏な思いを内心で隠しながら、またデス&ゴーと日常を往復する生活が、また一ヶ月ほど経過するのだった。

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