第11話 幕間 僅かな兆候

 アメリカのホワイトハウス。


 そこで大統領と政府高官は秘密の会話を行なっていた。


「特級スキルが買われただと? それは本当のことなのか」

「間違いありません。しかも複数、購入されているようです」


 買われた特級スキルは、呪殺ボーナスとボーナス超強化、そして千変万化というものとのこと。


 とりあえずそれらは我々が欲していたものではないので、その点に関しては安堵する。


(それにしても、いったいどこの誰だ? それにそんなDPを獲得するなんてどうやって?)


 我が合衆国でも特級スキルを始めとした高ポイントのスキルやアイテムは早めに手に入れようとしていた。


 なにせこれらのアイテムやスキルなどの能力の一部は、難しい条件をクリアすれば現実世界へと持ってくることも可能と分かったからだ。


 だが現状ではそれらを購入する段階までも辿り着けていない。


 なにせ有用そうなものはどれも超高額で、大量のDPが必要だったからだ。


(最初は組織的に一人にDPを集めようとしたが、それは失敗したからな)


 アイテムの中にはエリクサーという、あらゆる傷と病を癒す霊薬や若返りの効果が秘められた薬まであったこともあり、我が国ではどうにかして誰よりも先にそれらを手にできないかと考えた。


 そして多くのダンジョン配信者に対して、金銭の報酬を対価としてDPを譲渡してくれるように依頼した。


 基本的に譲渡は不可能なDPだったが、配信している者を対象にスペシャルギフトという形でなら送ることが可能だったから。


 そうしてこちらの手の者にDPを集約して、必要な物を手に入れようと画策したのである。


 だがこの組織的なDP譲渡行為など、サイトの運営を妨げるような特定の行いは神サイト上で禁止行為として周知されていた。


 それでもバレなければ問題ないと強行した結果、DPを集めた配信者はチャンネルが削除されたばかりか、モノリスに触れてもダンジョンに入れない出禁扱い。


 更には集めたDPも全て没収されてしまうこととなる。


(あれは痛手だった。既に他の配信者に金銭を支払った後だったから、我々は金だけ失った形になったからな)


 そのせいでダンジョンの重要性に気付いた各国でのDP獲得レースにおいて後れを取る始末。


 もっともそれは我が国だけではなく、少なくとも中国とロシアなども同じようだったが。


(抗議しようにも、相手はどこの誰かも分からない謎の運営。これでは圧力の掛けようもないし、何より下手なことをしてもっと重い罰則をされてはたまらない)


 なにせ大統領である自分の秘匿されている連絡先に、かの神サイト運営から一通のメールが送られてきていたからだ。


 次はこの程度では済まない、という内容で。


 結局、地道にDPを稼ぐしかない。各国がそういう結論に至るのは自然な事だった。


 そう気づけない奴らは例外なく痛い目を見ることになったので。


 だが地道に稼げるDPは限られている上に、ダンジョン攻略で死亡すると一定の割合で失われるペナルティもあるからだ。


 だからといってダンジョン攻略をしなければDPは稼げない。


 そういった事情もあってどこの国でも特級スキルを購入できるまでのDPを貯めるのは、少なくとも数年先になると予測されていた。


 だがその予測はこうして覆されてしまった。


 それはつまり、どんな手段かは分からないが、今からでも大量のDPを稼ぐ手段があるということに他ならない。


「DPを稼ぐためには神サイトで配信する必要があるはずだ。その中で怪しい奴はいなかったのか?」

「それが今も監視をしているのですが、それらしき人物は見当たらないのです。最近ネットなどで噂になっている人物を探してみても、妙な行動をとっている人物で今回の件とは関係なさそうでしたし」

「妙な行動?」


 聞けばそれは確かに妙な行動ばかりで、この件に関係あるとは思えない者ばかりだった。


 とある女性配信者が話題作りのために全裸でダンジョン攻略する映像を流そうとしてチャンネル停止処分されたとか。


 新米配信者らしき人物が雑魚であるグリーンスライムと死闘を繰り広げたとか。


 ダンジョンカメラ以外でダンジョン内の映像を録画しようとして、規約違反で罰則を受ける配信者が出たとか。


 はたまたダンジョンに入る度に死んで、突入することを繰り返すという意味不明な行為をする人物のことなど様々。


 ただ総じてレベルが低いか、頭がおかしいような行動ばかりであった。やはりどう考えてもこれらの奴らが関係あるとは思えない。


「だとするとダンジョン配信以外でDP以外を稼ぐ手段があるのか……?」

「それについては調査中となっています。ですが今のところは芳しくはないですね」


 それはそうだろう。なにせその方法がないかについては、随分前から我々でも調べていたことだからだ。


 そしてその結果、ないという結論に至っているので。


「我々が見落とした何かがあるのかもしれない。神サイトの監視も継続して行い、同時に引き続き調査もしておいてくれ。それとこれらのスキルの効果は?」

「購入画面で確認できていたのは、呪殺と呼ばれる状態異常関連に対する補正。ボーナス効果に対する補正。それと変装できるスキルのようです。なお、購入後は売り切れ表示となって内容も確認できなくなっていました」


 前もってアイテムやスキルなど、購入画面で確認できる内容を調査させておいて正解だったようだ。


 でなければその僅かな情報すら掴めていなかったことになるのだから。


「改めて購入画面で確認できた情報は収集して、現実世界でもその情報を保管するように手配してくれ。それと我らが求めるものについては再度、情報を確認するように」

「畏まりました」


 本来はもっとダンジョンなどに労力を避ければよいのだろうが、国のトップとしてやることは他にも山ほどある。


 また選挙対策なども必要なので、そればかりに専念している訳にもいかないのが辛いところだった。


(永遠の薬。それが不老不死の効果を持っているのなら、なんとしてでも手に入れなければ)


 古今東西、数多の人間が求めても手に入れられなかった伝説の中にしかない決して死なないというある種の現象。


 それを手に入れられるかもしれないとなれば、欲する権力者などはそれこそ山ほどいることだろう。


 かくいう私もそうなのだから。


(ダンジョンは宝の山。その宝を手に入れたものが今後の世界の動向すら左右しかねない、か)


 一部の者がネットで面白半分に流した噂とされるそんな文章。それが現実になろうとしていることに興奮と恐怖を感じながら、私は次の大統領としての演説の準備に取り掛かるのだった。

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