第4話 事前準備と警戒すべき点
そうと決まれば早速行動だ。
そう考えた俺はすぐにダンジョンに潜ろうと考えたのだが、モーフィアスにそれは止められる。
「待ちたまえ。半年である程度の成果を出すためにも、何の準備もなく闇雲に潜るのは禁物だよ。それに君はダンジョンの仕組みについて、どれだけのことを知っているのかな?」
「仕組みって言われても、詳しいことほとんど知らないな」
死んでも入り口に戻るとか、所謂ネットで広まっている知識程度しか分からない。
「ならまずは基本的なことについて教えよう。基礎が分からなければ、応用なんて不可能だからね」
そうしてモーフィアスはダンジョンのシステムについての説明を始める。
「まずダンジョンにおいて最も重要なのは
「ああ、それくらいなら」
DP、それはダンジョンで特定の行動を取るなどして稼げるポイントのことである。
それを稼ぐ方法は本当に色々あって、一番分かり易いのは魔物を倒すこと。
これは魔物ごとに決められたDPが自動で討伐した者に与えられる形だったはず。
あるいはダンジョン内に点在している宝箱などからも得られることがあるのだったか。
そうやってダンジョン配信者は色々な手段を駆使してDPを稼ぐ。
何故ならそれがダンジョン攻略するために必要不可欠だからであり、それを消費することで様々な物が購入可能だからだ。
(確かDPで金塊を購入した配信者もいるって話だし)
スキルや一部のアイテムなどの現実世界に存在しないものは持ち帰れないが、それ以外の現実世界にあるものなら購入可能で持ち帰れるとネットでも書いてあった。
「稼いだDPを使ってモノリスでは色々な物が購入できる。スキルであったり、傷薬のようなアイテムだったり、あるいはダンジョンカメラの性能を上げる特典など、本当に様々なものがね」
「それも凡そのことは把握してるよ。購入したものでもスキルなどは現実世界に持ち帰れないことも。まあでもカメラの機能云々については知らなかったな」
「カメラの性能向上などは実際に配信してみないと、その効果を実感しにくいからね。ただの視聴者でその辺りのことに興味のある人も多くはないだろうし、あまりその情報が広まっていないんだろうさ」
「その辺りも詳しくならないとだな。今後は俺にも必要な知識だろうし」
ここまでDPを稼ぐ方法を幾つか上げてきたが、最も効率的に稼げる方法は、なんとダンジョン配信することなのだ。
正確には、神サイト上で作った自らのチャンネルでダンジョン配信や動画の映像を投稿すること。
その視聴者数などによって月初めに神サイトから功績に応じたDPがどこからともなく自動的に振り込まれる形だとか。
なお、その功績の内訳は、チャンネル登録者数、配信の同接数、動画の再生回数などで色々な項目を鑑みて決められるらしい。
つまり分かり易く言えば、人気があって人に見られる配信者ほど、より強く貴重なアイテムが手に入るようになるのである。
また、それ以外でも視聴者からDPが贈ることも可能とかで、容姿端麗なことを売りに稼いでいるダンジョン配信者もいるのだとか。
こういった事情もあってダンジョン攻略を行なう人は、そのほとんどがダンジョン配信や動画投稿などを神サイトでやることになる。
まあ中にはそれをしない変わり者もいるらしいが、それは少数派なので今回は省いた方が賢明だろう。
「とにかく早く効率的に強くなって、ダンジョン攻略を行なうためには配信で人気になるのが良いということだね。でも今の君が何の対策もせずに配信をしたらどうなると思う?」
「どうなるって、最初の内は特に話題にもならないんじゃないか?」
その辺りは他の通常の動画サイトと同じだ。
新米の配信者など、特別な理由がなければ誰にも見られないし、そう簡単に人気者にはなれない。
余程の幸運に恵まれでもしない限りは、同接が二桁に乗ることもないだろう。
だから俺のことが知られるにしても、それはずっと先となるはずだ。
「普通ならね。だが君は運営側の私がサポートするのだよ? そして期限がある以上は君ものんびりしている暇はない。つまり流れる映像はどれも普通のものでは済まないだろう」
「そうか。新米のくせに変に活躍すれば、目立つことは避けられないってことだな」
ダンジョンで活動する際にダンジョンカメラは全員に付いていく。
そしてその行動を余すことなく撮影されて、神サイトとモノリス上で強制的に放送されるのだ。
だからこそ他の人に攻撃するとか、下手な行為は中々できないようになっているのだった。
今のところはそういう行為の抑止になっているカメラだが、俺が変なことをすればそれも映されてしまう。
そうなれば目を付けられるのも、想像以上に早くなるかもしれない。
「それじゃあどうやっても俺のことが世間に知られるのは避けられないってことか。まあでも、それが必要なら受け入れるさ」
ネットを通じて世界中に顔を憶えられるのは気が進まないが、それしか方法がないのなら仕方がない。
だがモーフィアスが心配しているのはそこではなかった。
「いや、ダメだよ。前にも言っただろう? ダンジョンの有用性に目を付けて独占しようとしている奴らがいるって。準備が出来てない状態で君が有名になれば、君の家にあるモノリスのことが発覚するのも時間の問題だろう。だから少なくとも、そいつらに対抗できるようなこちらの準備が整うまでは、正体不明のままでいるのがベストなんだ」
モノリスがバレれば、そいつらは適当な理由をでっちあげて君から取り上げようとする、とモーフィアスは断言した。
それはモーフィアスにとって困る状況らしい。
「じゃあどうすればいいんだ?」
「それは考えてあるよ。木を隠すなら森の中。まずは多くの新米が潜るダンジョンへといこう。勿論その前に少しだけやることがあるけどね」
そうやって自信を覗かせるモーフィアスの作戦に俺は耳を傾けるのだった。
◆
その日、一つの生放送が神サイトに掲載された。
その映像の再生時間は僅か数秒ほど。
内容は、目出し帽を被った何者かがダンジョンに入ったかと思えば即座にUターンしてダンジョン外へ出ていく、それだけの映像だ。
短過ぎる上に映っているのが誰かも分からない。
そもそも何が起こったのか把握するのも困難な意味の分からない映像だった。
神サイトではダンジョンカメラで撮影された映像が強制的に流されて、その映像は何もしなければ一週間はサイト上に残っている。
だが逆に言えば、その期間を過ぎれば映像は消えてしまう。
配信のアーカイブが回れば、サイトから報酬として得られるDPが増えるので、大半の人は消えないように処理をしている。
だがその映像はあえてその処理をしなかったことにより、数少ない例外として一週間後に完全に消滅してしまった。
その間に神サイトのコアなファンが、その動画が消えるまでに再生することも何度か起こったようだが、そんな意味の分からない映像では誰も興味も示さない。
誰かが配信しようとして失敗したのか。そんな風に思われて誰も興味を示さなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます