第320話 村人転生者、四天王から誘われる

「「「うぉー---!!」」」

格闘舞台上で行われた一瞬の攻防、ともすれば勝利者であるケビンの一方的な戦いに見えるかもしれないそれ。開始即決着と言う結果だけを見ればそうとしか見えない戦いの中に込められた、高度な駆け引きと技術の応酬。

だがそこは目の肥えたマルセル村の住民たち、日頃から大福先生と戦闘狂馬鹿(鬼神ヘンリー&剣鬼ボビー)の戦いをつぶさに見続けて来た彼らには、この戦いの濃密さとそんな戦いを繰り広げた客人の研鑽された武の素晴らしさが伝わったのだろう。

皆が席を立ち、来訪者である二人の客人に拍手と喝采を送る。


「いや~、お客人、素晴らしい戦いでした。

私はこのマルセル村の領主、ドレイク・アルバート子爵と申します。私もこれまで多くの剣士の方の戦いを見て来ましたが、その中でも十指に入るのではないかと言う名勝負でした。

こちらの席にお座りになってどうぞ宴をお楽しみください。

ガーネット、お客人にワインをお持ちして」


村の代表でもある領主ドレイク・アルバート子爵は、宴の席に華を添えてくれた不意の来訪者を席に招く。正体不明の人物の訪れなど訳アリの村人だらけのマルセル村にとっては些細な事、その人物が村にとって害悪であるのか否か、それだけが重要だと言う事をアルバート子爵はよく心得ていた。


未だ放心状態の冷めやらぬゼノビアとメルルーシェは、アルバート子爵に促されるまま酒宴の席に戻る。そして先程まで自身が立っていた格闘舞台では、ゼノビアに敗北を刻み付けたケビン少年が村の大人二人に勝負を挑まれていた。


「クックックッ、ケビンよ、見せ付けてくれるではないか。あの様なおいしい獲物を独り占め、この滾る血潮の責任を取って貰わんとの~」

「そうだな、目の前であんなものを見せられたんじゃ仕方がない、お前も男なら諦めろ」


そう言い大振りの木剣を構える彼らから発せられる強烈な覇気、それはこれまで経験したあらゆる戦場でも感じた事の無い程の濃密で濃厚な殺気。

強大な力を持つ魔物跋扈する暗黒大陸において、民を守り、国を守り、軍を率いて来た自分が怯えている?

背筋を流れる汗は身体を動かしたから出ているのではないと、その冷たさと身体の震えが分からせる。

ゼノビアはふと隣の部下に目を向ける。どんな時でも沈着冷静で、あらゆる困難を共に乗り越えてきた盟友にして頼れる参謀。そんな彼女が奥歯を鳴らし怯える子供の様に身を縮こまらせる。


「う~わ、この酔っぱらいども、さっきの戦いに当てられて目が逝っちゃってんじゃん。俺はお祭りを楽しみたいの、戦いたいなら二人でやってよ、場所は譲るから」


「ほう、二人でヤッていいんじゃな?随分と気前がええの、流石はマルセル村の最強じゃ。

気前がいい序にお主は魔力なし、覇気無しの無し無しじゃからな?

お主にはちょうどええ制約じゃて」

「因みに俺たちはありありのマシマシだからな?」


二人の大人、いや、修羅は木剣を構え唸りを上げる。

立ち昇る覇気と魔力、それらは反発する事なく互いを助け、新たなる力を戦士に与える。


「「<覇魔混合>食らえ理不尽!!」」

それは二匹の修羅が辿り着いた一つの答え。

<覇気>と<魔力>、決して交じり合わぬ二つの力、ならば無理に一つにしなくてもいいのではないか?

縒り合わせる、より強靭な一本の糸を作る様に、その紡がれた糸を織り込み一枚の布を作る様に。

異なる力は互いを助け、全ての技を更なるステージへと引き上げる。


「ふざけるな~~~~!!そんなん死ぬわ~~~~!!」

心からの叫びを上げるケビン、彼は咄嗟に収納の腕輪からあるものを取り出した。

それは棒、真っ直ぐに伸びた紺色の棍棒。艶光つやびかりした円柱は、美しい軌道を描き木剣の軌道を受け流す。


「我は<棒>、我は<自然児>。無軌道にして無限、ただあるがままに。

それは流れる水の如く、時に激しく、時に静かに。

始まりは終わりへ、全ては静寂に帰結せん。

<流麗流水、終結の舞>」


それは美しい舞であった。力と力、技と技とのぶつかり合いと思われた戦いは、激しく、そして静かに終わりを迎える。


「「グホッ」」

刹那の間合いで打ち込まれた棍棒は、正確に修羅の鳩尾を捉え、その動きを止める。


“タンタンッ”

無防備な後頭部を襲う打撃、一切の行動を封じられた修羅に成す術は無い。

崩れ落ちる二体の鬼、だがそれを成したケビンもまたタダで済むはずも無く、その場に膝を突き息を荒げ棍棒に寄り掛かる。


興奮し立ち上がる観客、会場の男衆は皆手にヨシ棒を持ち格闘舞台へと殺到する。


「「「ウォ~~~!!理不尽、覚悟~~!!」」」

「お前らはオーガか~~!!この脳筋が~~~!!」

ケビンは棍棒を収納の腕輪に仕舞うと、ヨシ棒を二本取り出し迎撃を開始するのだった。


“何だ!?我らは一体何を見せられているのだ”

ゼノビアの混乱は加速する。これまで絶対的な強者であると自負してきた自身を剣技を持って打ち負かした少年、だが心のどこかにあった“それでも我が本気を出せば勝負になるまい”と言う驕り。それは目の前で繰り広げられたゼノビアの力を遥かに凌駕する戦士二名を相手に棒術のみで打ち負かした少年の姿に、脆くも打ち壊された。

そんな高度で激しく、そして静かな戦いを制した少年に集団で挑む男達、その悉くを沈めて行く少年。

身体の奥が震える、これは恐怖、これは歓喜。自身の後継者としてこれ以上ない人材の登場に、内なる感情が爆発する。


「メルルーシェ、やったぞ、ついに見つけたぞ。彼だ、あの少年こそ我が後継ぎに相応しい。魔王軍四天王絶剣のゼノビア、その座を任せられる者、それは彼以外にあり得ない!!」

興奮し、目を爛々と輝かせるゼノビア。

そんな彼女の事を見るマルセル村の者達は思う、“うわっ、この人ケビン君の同類だ。この歳で魔王軍四天王って。そっか~、拗らせちゃったのか~”と。

その後も部下のメルルーシェに何やら語り掛けるゼノビア、そんな彼女は気付かない、自身が村の子供を含めた全ての村人からとても生暖かい視線で見詰められていると言う事に。


―――――――――――――


マルセル村の春祭り、今年も無事に開催出来たことは大変喜ばしい事なんですけどね?

あの戦闘狂共の暴走はどうにかならんもんなんでしょうか?

毎回よ、毎回。あの方々酒が入ると必ずと言っていい程襲い掛かって来るのよ?

シルビーさんとイザベルさんなんて、すでにお祭りの名物とか思ってるのよ?

「やっぱりこれを見ないとお祭りに来たって感じがしない」とか言うくらいよ?


まぁマルセル村の人間が酒が入ったらどうなるのかって事ぐらい予想して、今回は格闘舞台なんて物を用意させて頂きましたけどね?

舞台から落ちたら負け、テンカウントで負け、負けを認めたら負けって言うルール。

某天下一を決めるあれですね。


お陰で混乱なく酒宴を執り行う事が出来ていたんですけどね、なんか特別ゲストが来ちゃいまして。

魔の森方面から人が来るって絶対ヤバい奴じゃん。最初はバルカン帝国かヨークシャー森林国かって思ったんですけどね、斜め上の暗黒大陸って。

白の考察も堂に入ってたよな~。アイツってば脳筋に見せ掛けて実は頭脳派だし、地頭めっちゃいいんだよな。ジミーにしろ白にしろ、生まれ持った才能の格差って悲しいよね。兄と呼ばれる者としては超プレッシャーです。


そんで全身鎧に包まれた中から現れたのがホーンラビット族って、マルセル村の村人にクリーンヒットよ?テンション爆上がりよ?

警戒?そんなものホーンラビット族様の前には無意味でございます。だってホーンラビットはビッグワームと並ぶマルセル村の象徴なんだもん。

言うなれば天使様が舞い降りたに等しい状態、お祭り騒ぎに火が付いたって奴ですがな。


そんな御方々に勝負を挑まれたら、応えない訳にはいかないでしょう。でも怪我をさせる訳にもいかないしってんで、団子先生にお願いしてお相手になって貰ったって訳でございます。

団子先生、事の起こりや気配を読むのが天才的なのよ。流石ホーンラビット、警戒心の塊ってのは伊達じゃない。しかも団子先生、隙に入り込むのもめっちゃ上手。

力じゃなくタイミングで倒しちゃうって言うね、どこの達人?って領域。


そんでメルルーシェさんの大体の力量が分かったところで、白との対戦となったんでございます。

白も強くなったよな~。大福チャレンジ四つ首単騎討伐者だもん、そりゃ半端ないわ。

無駄のない、それでいて自然な身のこなし、ブレの無い重心移動から繰り出された木刀による突き、完璧でございました。


そう言えば最近父ヘンリーとボビー師匠も大福チャレンジに挑戦したがってるんだよな~、大人げないと言うか何と言うか。

既に本体に挑んでるアンタらじゃ直ぐにクリアしちゃうっての。スライム大福本体って、身体の大きさって言う制約がない分ヒドラモードより強いのよ?

本当にこの戦闘狂共は。


で、おまけの様に御指名を受けたケビン君がお相手をってところでゼノビアさんが選手交代の申請をですね。

二人の関係性からゼノビアさんの方が強いって事は分かっていたんで、ちょいと予測の上方修正をしつつお相手をしたって訳でございます。

別に見世物って訳でもないんで派手な打ち合いは無しで、相手の飛び込みざまに足元を引っ掛けて体勢が崩れた所で首筋に木刀を当てたってだけなんですけど、あの状態から反撃に転じようとしたところは流石でしたね。


そんな高度なやり取りを見ていた酔っぱらいどもが俺にも戦わせろってなもんで襲って来るし、<覇魔混合>っていつの間にあんなとんでも技術を編み出してるんだって話ですよ。覇気と魔力って基本混ぜ合わせる事なんて出来ないんよ?全く種類の違う別物だからね?

戦闘中に覇気で身体能力を高めながら魔力による攻撃を行ったりするけど、覇気と魔纏いを同時に行ってもあんなに効果を高める事なんて出来ないからね?それぞれ違う力だから互いを補助する程度に収まっちゃうって言うね。

あの二人が繰り出した技って完全に別ものだったから、大福チャレンジの八つ首ヒドラを完封出来るレベルだから。

そんな相手に魔力と覇気禁止って、俺に死ねってか。あれでもう少しあの二人が<覇魔混合>を使いこなしてたら負けるところだったわ。


ですんで今回は生まれ持った本来の才能、<棒>と<自然児>の能力をフルに発揮してみました。

だってあんなの俺の力じゃ勝てないもん。棒先生と自然児先生に身を任せて流れる様に棒を振るったってだけでございます。

まぁ全身ボロボロにはなりましたけど。うん、まだまだ鍛え方が足りなかったかな?

魔力枯渇筋トレを頑張らないと。癒しの覇気を併用すると筋力の付きがいいって言うのも最近分かりましたんでね。

目指せ、オーガの肉体!!


で、その後興奮して襲い掛かってきたお馬鹿なオーディエンスをボコって宴の席に戻ったんですけどね。


「ケビン少年、是非我が魔王軍に来てくれないか!?我の魔王軍四天王の座を引き継げるのは君しかいない!!」などと仰る御方がですね~。

いたのかよ、自称魔王。システム魔王は生まれてない筈だから完全に勘違い野郎じゃん、超恥ずかしい奴じゃん。

ってか周りのお姉様方がニマニマした顔でこっちを見てるんですけど?

“お好きなんでしょう?”って止めて?凄いいたたまれなくなるから。


「オホンッ、えっと、ゼノビアさん、メルルーシェさん。先ずは俺の事を評価し、お誘い下さったことを感謝いたします。

その上で申し訳ありませんが、このお話はお断りさせて頂きます。

単純に興味がないというのが最大の理由ではありますが、いくつか考察をお話しいたします。

これは先ほど白もお話ししていましたが、お二人は暗黒大陸と呼ばれる所謂迫害されし民の最後の楽園から来られたものかと。その装備と身のこなし、初めてお会いした時の印象の通り軍籍の方だったんですね。

暗黒大陸は大変強い魔物の溢れた大地であるとか、そんな場所で己を鍛え牙を磨き続けた者たち、国王の指示の下ついに立ち上がったと言った所でしょうか。


お二人の今回の来村はその為の敵情視察の一環かと。

虐げられし者に開放を、愚かで残忍な普人族共に鉄槌を。

そう言って人を集め指導し、軍を起こした、違いますか?

強い魔物が跋扈する土地なら魔物の軍団なんかも作られているのかもしれませんね。この国でもそうですが、テイマー職の者は肩身が狭い。魔物と交流もしくは従える力を持った人々がいたのなら、迫害され暗黒大陸に流れ着いてもおかしくないですから。


話は少しズレますが、魔王様と言う存在は三種類に分類出来ると言う事をご存じでしょうか?

一つ目は厄災の魔王様。

強大な力を持ち本能のままに暴れ回る正に厄災。暴食の魔王然り、ゴブリンの魔王然り。全人類の敵として全ての人々を不幸に叩き落した存在。


二つ目は虐げられし魔王様。

その者自体は決して魔王でもなんでもない、ただその存在は為政者にとって不都合であった。

ではどうすればその者を排除する事が出来るのか、敵は強大、ならば同じく力を持つ者、勇者をぶつければいい。

オークの魔王と呼ばれた心優しき指導者、種族に関わらず平和に暮らしたいと思う者たちを受け入れ続けた英雄。勇者に敗れるも最後の最後まで配下の者を逃がそうとした悲しき戦士。


三つ目は自称魔王様。

魔王と言う言葉は人々にとって恐怖と力の象徴、己が存在をより強く、より大きく見せる為にはこれ以上ない敬称。


暗黒大陸に覇を唱える程の国を作り、軍を養う程の経済力と生産性を齎した者がなぜ魔王と名乗るのか。理由は簡単、その方が国を維持し易いからです。

移民の国は決して一枚岩ではない、迫害されし者が必ずしも善人であるなどと言う事は有り得ない。

その残虐性や暴力性から国を追われ土地を追われた者たちは、更なる強大な力によって支配体制に組み込まれる。その為の魔王でありその為の魔王軍。

魔王軍自体そうした者の受け入れ先であり力の象徴、その最たるものが魔王軍四天王。


覇を唱えるのなら唱えればいい、戦乱に身を置くもまた人の本質。そこに各人の理想があり利害の一致があるのなら、協力し戦うのもまた良し。

ではあるもののその戦により傷付く者は?失われる命は?

戦士ゼノビア、信念の下に戦う者よ。果たしてその戦いの先に望む大地は広がっているのか?


まぁそうは言うっても俺の手は短いですから?このマルセル村で精一杯。

この村に住み続けたい、帰りたいと思える故郷とする事が俺の使命であり俺の信念。

もしゼノビアさんが魔王軍に居場所を失ったのならいつでもお越しください。マルセル村は移住者を募集しておりますので」


俺の言葉に唯々呆然とするゼノビアさんとメルルーシェさん。

アルバート子爵様、「だからケビン君はどうしてそう為政者の視点で物事を語るんだい?爵位いる?」ってなんでそうなるんですか!!

「あのケビンがあんなに難しそうな事を、あの子も大人になったって事なのね」ってメアリーお母様、何故そこで涙ぐむ!

周りの大人の反応に、“俺の事を何だと思ってたんですか!”と疑問を呈したいケビンなのでありました。

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