第317話 村人転生者、もの作り(ロマン)に励む

“ガチャ”

「ただいま~」

玄関扉を開け、帰宅を知らせる声を掛ける。


「ケビン、お帰りなさい。そろそろ夕食が出来るから部屋に荷物を置いて手を洗っていらっしゃい。

それとヘンリーとジミーにも声を掛けてくれる?二人とも裏庭にいると思うから」

「うん、分かった」

台所から漂う胃袋を刺激する香り、今晩のおかずは癒し草とビッグワーム干し肉の野菜煮込みの様だ。味付けはシンプルな岩塩にも関わらず根菜類とビッグワーム干し肉から良い出汁が出て、何とも言えない味わいを醸し出してくれる。

春を先取りした様な癒し草の若芽を加える事で、味により一層の深みを出している工夫が心憎い。


俺は部屋に荷物を置き、脱いだ上着をハンガーに掛けると、父ヘンリーと弟ジミーを呼びに裏庭へと向かうのであった。



“スー--ッ、スタンッ、スタンスタンッ”

音も無く振るわれるジミーの木刀、対してそれを最小限の動きで受け流す父ヘンリー。決して激しくはない、だが緊張感に包まれ研ぎ澄まされた駆け引き。

ジミーの打ち込み、その一刀一刀が目的を持ち、それでいて次に繋ぐ布石にもなる必殺の一打。

対して父ヘンリーのその巌のような身体からは想像も出来ない程の繊細な動き、滑らかでいて優雅、まるで舞の様な足捌きは見る者の心を魅了する。

それは完成された一つの世界、この語らいを止める事はその美しい世界を終わらせてしまう事。


「二人共、ご飯の用意が出来たってよ~。井戸で手と顔を洗ってから来てね~」

だがそんな事はドラゴンロード家においては関係ない。

今は夕飯の時間、それを遅らせて迄、母メアリーの怒りに触れて迄行わなければならない訓練などこの家には存在しないのだ。


「フゥ~、ジミー、ここ迄だ。無駄のない動き、勝負の流れを作り出す剣捌きも申し分ない。身体が大きくなるのに伴い地力も上がって来ている。

これまで積み上げてきた下地が確り活きていると言っていいだろう。

恐らく対人戦においてジミーの右に並ぶ者は数える程しかいないかもしれない。

だが世の中は広い、それでも届かぬ遥かな高みに至った者、有り得ない程の理不尽な存在などゴロゴロいる。

それは常に大福に挑み続けているお前なら言わずとも分かると思う。

だがそれは幸せな事、己の全力を賭して尚届かぬ相手がいる、ならばそこまで上り詰めればいい。

俺はジミーが羨ましいよ、俺にその環境があれば今よりも更に強くなっていただろうからな。


来年の授けの儀を迎えた時、ジミーは更なる飛躍を果たすだろう。授けの儀とはそれ程に大きな影響を齎すもの、その事はケビンの奴を見ても明らかだろう。

そうなった時、ジミーは俺を越え遥かなる高みに至るはずだ。本当にお前たちは俺をどこまでも嬉しい気持ちにさせてくれる、お前たちの様な息子を持った事を心の底から誇りに思うぞ」


そう言いジミーに優し気な笑みを向ける父ヘンリー、そしてそんな父の言葉に嬉しそうに笑みを返す弟ジミー。

それは心温まる親子の交流、剣を通し互いに向き合ったからこそ分かる男同士の語らい。

でもお父様、それって獲物を見つけた時の肉食獣の笑みですよね?ジミーもジミーで好敵手を見つけた飢えた狼みたいな笑顔なんですけど?


蛙の子は蛙。この修羅の親子はずっと井の中に押し込めておいた方がよくない?大海に放ったら海が大荒れになっちゃうよ?

自ら井の中に残りたがっている蛙代表のケビン君としては、“二人共自重して、マジで”と思わざるを得ないのでした。


「それでは頂こう。日々の恵みに感謝を」

「「「日々の恵みに感謝を」」」

「マンマンマンマンマンマ!」


旨そうな匂いが立ち昇る食卓、ご飯を前に匙を振り回して興奮するミッシェルちゃん。離乳食も終わり、通常のおかずも食べれる様になった妹ミッシェルは食欲大爆発!

自分で匙を使い思う存分食べる食事に大変満足なさっておられます。

片やお食事係の仕事を解雇された父ヘンリーは物凄く寂しそうにしておりましたが、ミッシェルが掛けた「パッパン」の一言に大興奮。

今ではその食事風景を眺めるだけで堅パン何枚でも食べれますと言った状態になっておられます。

その事に対抗心を燃やしたのは母メアリーと弟ジミー、一生懸命ミッシェルちゃんの世話を焼き、「マンマ」「ニッチャ」と言うお言葉を給わっておられました。

ん?俺?俺はね・・・。


「ん!ケビ、じゅ!ケビ、じゅ!」

・・・え~、翻訳いたしますと、“ケビン、水持って来て、水!”って事になるんですけどね?ミッシェルちゃん、まだ言葉が自由じゃないですから。

でもこれに周りの大人げない方々が嫉妬しましてね?

「何でケビンだけ名前なのよ!」って知らんがな。俺だってお兄ちゃんって呼ばれたいわ!

まぁそんなこんなで楽しい夕餉となるのでございます。



夕食後、自室に入り部屋に吊るされているヒカリゴケの苔玉に魔力マシウォーターミストを吹き掛ける。これは苔玉を使っていて気が付いたのだが、吹き掛けるミストに込める魔力量を増やすと苔玉の光が強くなる。で、調子に乗って魔力マシマシにするとボンと弾けて部屋中がヒカリゴケだらけになってしまう。

いつかのヒカリゴケ洞窟で黄色がやらかしたあれである。

電飾ケビン君再び、何事かと駆け付けた父ヘンリーとジミーが大爆笑、あの時は母メアリーに怒られたっけな~。部屋の片付けが終わるまでご飯抜き!!って言われて速攻掃除したのはいい思い出です。


苔玉に照らされた部屋の中、ベッドに腰を掛けここ暫くの事を振り返る。

アルバート子爵様から申し付けられていた街道整備が終わり、お馬さん方から要望のあった厩も完成し、村の衆および従業員様方への覇気の指導もあらかた目処が立ち、領都から訪れて来ていたケイトのお友達も送り終わった。

物の序に“顔無し”の呪物コレクションをごっそり持ち帰れたのは最高の収穫だった。

あんなもの誰も興味なかったからか、はたまたその存在を知らなかったからか、隠れ家の秘密部屋には誰も近付いた痕跡がなかったんですよね。

あの建物の所有権がどうなってるのか気になる所ではあるんだけど、やたらに関わらない方がいい案件なのでこれ以上は突っ込まない事にしよう。


で、その収集物の確認もあったんですけどね、それよりも最強装備ですよ、ロマンですよ、ロマン。密かに繰り返してた考察と検証、ついに辿り着いた最強生物の新事実(仮説)。結果的にドラゴンの膠の作製に成功したんですべてよしって事になるはずだったんですよ。

でもそれを食べちゃうんだもん、黄色と緑の馬鹿~~!!

何でも美味しく頂くビッグワーム、その性質は進化しようが確り受け継がれてしまったみたいです。

まぁ災い転じて福となしたのは、黄色が以前ヤバいポーションを作り出した能力で膠も作れるようになったって事なんですけどね。

だったらもっと早くと思わなくもないけど、普通膠を作り出すなんて事を魔物はしないからね?その存在すら知らないんじゃない?皮ごと美味しく消化しちゃうだけだから。

その完成品を味わったからこその作製って事なんだと思います。

二匹揃って“またあの料理を作ってくれ”って言ってる辺り、図々しいと言いますか何と言いますか。

緑と黄色には畑の件でお世話になってますからね、時間が出来たら作る事に致しましょう。


全ての材料が揃った事で早速インクの作製と魔道具作製用インク(闇属性タイプ)の作製を行い、甕一杯に作った魔装具作成用インクの中に予めベネットお婆さんと紬に作って貰っていた最強装備を投入。確り漬け込んでから魔道具作成スキルで<着定>を行ったと言う訳です。 

追加装備としては仮面ですかね?やっぱりフードの下の仮面は重要でしょう。

仮性心を擽ります。


で、完成したこれらの品をベネットお婆さんの所にお持ちしたって訳です。

まぁ結果はね~、まさか紬がリュックに精霊の楽園を造っちゃうとは思わんやん?

これどうするのよって思ったんですけどね。

あのリュック、普段使い出来ました。要はあれって精霊の楽園へのゲートを固定しただけで、<ホーム>って唱えなければただのリュックなんですね~。要するに従魔の指輪と一緒。外に出る呪文も<オープン>で全く同じって言うね、もしかしなくても従魔の指輪って精霊領域を参考に作られてるでしょう?

これダンジョン産なんだよな~。お布団様もそうだけど、ダンジョンアイテムってマジで謎だらけです。

俺がホームと唱えた瞬間をその場で見ていたベネットお婆さんによると行き成り姿を消した様に見えたそうです。で、しばらく経ったら突然現れたんだとか、これって一種の瞬間移動じゃないんだろうか?

精霊様ってスゲ~。


まぁ混乱は多々ありましたがお披露目は無事終了、紬には今度光属性用の最強装備を作って貰うって事で計画を進める事になりました。デザインは無論ベネットお婆さん。

ベネットお婆さん、「なんかワクワクするね~」と言って超ノリノリ。仮性の心が分かって来ているみたいです、素晴らしい。


「さて、今日もやりますか」

俺はそう言うと立ち上がり、棚に飾ってある七つの石の箱の一つを手に取った。

この石の箱、素材は最上生物の垢すり岩。いくつか持ち帰った岩の欠片を基に作り出したものです。そんで一カ所丸いガラス玉が嵌め込まれている場所、ここに手を置いて掌から光属性魔力を注ぎ入れます。

これは何をやっているかと言えば実験ですね。

前にあなた様に精霊とは何かと言う話を聞いた時、自然発生系の精霊は各属性の魔力が溜まったところから生まれると言う話を伺い、更にはこの魔力が溜まったところから魔力結晶と言うものが生まれると言うお話をですね。

だったら人工的にその環境を作ってみましょうと言うのがこの実験道具。このガラス玉、礼拝堂で使ったものと同じガンガン魔力を注いで溶かしたガラスで作った魔ガラスって奴で、めっちゃ丈夫。そこに魔力が一方通行に流れる様に魔方陣を<着定>してあります。

この魔方陣は割と基本的なもので、多少複雑な魔道具には必ず使われているものらしいです。


垢すり岩には土属性・基本属性以外の魔力の干渉を弾く性質がある為、理屈で言えば魔力が溜まるはず。土属性・基礎属性も一緒に実験するのは出来たらいいなって言う淡い期待ですね。

今のところ結構な濃度の魔力を注ぎ入れても支障は出ていません。

で、最近何かちゃぷちゃぷと液体の様な音がですね?これって実験失敗?

魔力結晶までの道程は、まだまだ厳しい様です。

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