第307話 王都高位貴族、マルセル村の視察を行う
「伯爵様、伯爵様、伯爵様」
遠くより聞こえる声に、徐々に意識が覚醒する。
「う、うむ。その方はマルセル村の。我は一体・・・」
「伯爵様、よかった、意識が戻られたんですね。伯爵様は魔物の試しを受けられて気を失ってしまわれたのです。所謂魔力枯渇と言った状態だったのでしょう。
伯爵様は魔力回復が素晴らしいのか気付け薬で目を覚まされた様ですが、他の方はまだ。
このお茶を飲まれればもう少し気分が良くなるやもしれません」
そう言い背中に武器を背負った村の青年ケビンが、湯呑みを差し出してくる。
あれは先程頂いた蒸し茶と言うものか、魔力枯渇から回復したばかりだからかやけにおいしく感じる。
「してあの魔物はどうしたのだ?あれは我の・・・」
「伯爵様、いけません!まだ試練は終わってはいない、今そんなことを言ったら・・・」
“ブオッ”
再び襲い来る強大な存在感に、悲鳴を上げる暇もなく失われる意識。
どこか遠くで“ハイ、二回目~”と言う声が聞こえたような気が・・・。
「伯爵様、伯爵様、伯爵様」
遠くより聞こえる声に、徐々に意識が覚醒する。
「う、うむ。その方はマルセル村の。我は一体・・・」
「伯爵様、よかった、意識が戻られたんですね。伯爵様は魔物の試しを受けられて気を失ってしまわれたのです。所謂魔力枯渇と言った状態だったのでしょう。
伯爵様は魔力回復が素晴らしいのか気付け薬で目を覚まされた様ですが、他の方はまだ。
このお茶を飲まれればもう少し気分が良くなるやもしれません」
そう言い背中に武器を背負った村の青年ケビンが湯呑みを差し出してくる。
あれは先程頂いた蒸し茶と言うものか、魔力枯渇から回復したばかりだからかやけにおいしく感じる。
「大丈夫ですか伯爵様?伯爵様は大事なお役目でこのマルセル村にお見えになったはず、目的を前に御倒れになられては、マルセル村の者として申し訳なく」
「うむ、心配を掛けた、礼を言おう。してマルセル村の視察、そうであったな。
我の役割はその実態の調査、魔物を使役すると言ったものではないのであったな。
我は魔物の威容に動転し、目的を見失っていたやも知れぬ。
ケビンとやら、礼を申す。
そしてその方と魔物との繋がりを裂く様な真似をしたこと、深く詫びよう、この通りだ、許せ」
そう言い深く頭を下げるエラブリタイン伯爵に、慌てて頭を上げる様に声を掛ける青年ケビン。
「そのようなもったいないお言葉、このケビン終生の誉れでございます。
またお方様方のお役に立てなかったことを深くお詫びいたします、申し訳ございませんでした」
自身の過失ではない事であっても身を弁え謝罪の意を示すケビンの態度に、殊勝であると気を良くするエラブリタイン伯爵。
「本日はお疲れでございましょう、あと一杯のお茶をお飲みになってから、お休みになられてはいかがでしょうか?
一月にも及ぶ長旅は、思いのほか疲れが溜まっていたのやもしれませんので」
「であるな、今はその言葉に従うとしよう。マルセル村の視察は明日以降執り行うものとする。
アルバート子爵殿、その様な取り計らいで頼む、我は少々疲れが出た様なのでな」
「はは~、ではお部屋の方にご案内いたします」
アルバート子爵の案内で村役場の来賓室に向かうエラブリタイン伯爵、その後姿を見送った後ケビンはボツりと呟く。
「光属性マシマシ聖茶と魔力枯渇のコンボだと、二回から三回でいい感じに性格が変わるな。欲が引っ込んで本来の目的、本人にとっては建前の目的が前面に出ると言った感じかな?
今回は被験者が結構いたからな、なかなかいい結果が得られたって事で。
でも流石は大貴族、欲の皮の張り方が半端ないですこと。他の被験者は大体一発で上手く行ったんだけど、二度目も少し怪しかったって感じだったんだよね。
まぁダメ押しで光属性マシマシ聖茶を飲ましておいたから今頃使命感に燃える誠実な貴族にジョブチェンジを果たしている事でしょう。
ただこれがどこまで持つかって事なんだよね~。
こればっかりは予測がつかない。聖茶自体新しい商品だからな~、しょうがないっちゃしょうがないんだけど」
ケビンは背後を振り返り虚空を見詰める。それは失ってしまった絆に対する後悔か、それともこの理不尽な世界に対する諦念か。
「大福、緑、黄色、お疲れ~。実験終了、ご協力ありがとうございました。
そんじゃ<長期雇用契約:対象:大福・緑・黄色>っと。
今回の件はこれで終了かな、また似たような案件が発生したらご協力をお願いします。
緑と黄色は明日から厩の建設があるんで建設予定地の地ならしをお願いします。
大福はジミー達とケイトのお友達の相手かな?
聞いたら<魔力纏い>を身に付けたみたいなんだよね、凄い才能だよね。だもんで魔力球合戦 辺りから相手してあげてくれる?」
““キュワキュワッ””
“ポヨンポヨンポヨン”
“了解、任せておいて~”とばかりに返事をして去って行く魔物たち。
ケビンはそんな魔物たちを見送った後その場に残るメイド二名とエラブリタイン伯爵の従者一名に向け言葉を掛ける。
「さて、王家はアルバート子爵家と決別をお望みの様だ。まぁこの様な辺境の地、王家にとっては然して興味も湧かぬどうでもよい地であるのだろうが、それは我々とて同じ事。
眠れるドラゴンは眠らせておくに限る、そうはお思いになりませんかな?」
ケビンはそれぞれに対し目を向けてから言葉を続ける。
「まぁこのような事態は想定内、その為の独立でもあり自治領への参加。
アルバート子爵様は仰っていませんでしたかな?ここアルバート子爵家はグロリア辺境伯家の寄り子であると。
今回の事態、その全てを包み隠さずグロリア辺境伯家にご報告申し上げたらどうなるのか?
王家はオーランド王国北西部地域の独立がお望みか?であるのならば我らアルバート子爵家騎士団並びにその領民は全力でその独立にお力をお貸しせねばなりません。事と次第によってはエラブリタイン伯爵様のお望みの通り、大福と緑と黄色の雄姿を王都でお見せ出来るやもしれません。
それはグロリア辺境伯家、ランドール侯爵家と言ったオーランド王国北西部地域の指導者たちの意向によるものと思いますが。
少なくともこの一件によりアルバート子爵家が王家の意向に従う事は無くなったとお考えいただきたい。
今回このような形で事を丸く収めたのは全てアルバート子爵様の恩情、皆様方がこうしてお話を聞いている事も含めてです。その事はエラブリタイン伯爵並びにその配下の方々の様子からお判りいただけたかと。
我々は戦う必要すらないんですよ、処分すればいい、それだけなのですから。
ガーネットさん、リンダさんの滞在は許可します。そちらとしても何も情報が入らない事は不安でしょうから。
ただし今後同様の事態が発生した場合、それが王家や宰相閣下、影の皆さんのあずかり知らないものであったとしても、我々は王家からの攻撃とみなします。
その対象は勿論、王家に対しても明確な形での報復行動に出ます。
私はやりますよ、徹底的に。
この村の安寧を脅かす者を、愛する故郷を脅かす者を私は許しはしない。それが何者であろうとも必ず見える形で報復する。そこに老若男女の区別はありません。
お年寄りであろうと赤子であろうと、その全てです。
これは私の決意、私の誓い。
あなた方ベルツシュタイン家の者が“王家の剣”である様に、ケビン・ドラゴンロードは“マルセル村の棍棒”、マルセル村に仇なす者はそれが何者であろうと叩き潰す。
それが出来ないとお思いか?」
“グオウン”
突如吹き上がる強大な覇気、完璧にコントロールされたそれは目の前の三人を気絶させることなく、その強大さを見せつける。
「あなた方にはこの事実を正確にベルツシュタイン卿に伝え願いたい。“眠れるドラゴンの安眠を邪魔するな、二度目は無い”と。
ガーネットさん、リンダさん、必要とあらばどちらかが王都に戻りますか?その許可は私の方からアルバート子爵閣下にお伝えいたしますが?」
「いえ、必要ないかと。こちらの者は我々の上司に当たる者、その発言の信憑性は我々よりも高いものかと」
「であればよろしい。さぁ、二人はメイドの仕事に戻ってください、エラブリタイン伯爵様の従者のお方はその使命をお果たし下さい。
明日はマルセル村の視察、ヘルザー・ハンセン宰相閣下にどの様な使命を言い渡されたのかは分かりませんが、その御役目をお果たし下さい」
そう言うやケビンは踵を返しその場を後にする。
その場に残された王都諜報機関“影”の面々は、その圧倒的存在を前に唯々立ち竦む事しか出来ないのであった。
―――――――――――――
「アルバート子爵殿、滞在中のご協力、心より感謝する。そして、マルセル村の青年ケビンよ、案内ご苦労であった。
そなたの父ヘンリー殿の様にアルバート子爵家に仕え、故郷マルセル村の為に尽くせよ?」
「はは~、もったいなきお言葉。このケビンそのお言葉を生涯の宝とし、アルバート子爵家並びに故郷マルセル村の為に全力を尽くしたいと存じます」
エラブリタイン伯爵様ご一行がマルセル村に到着して三日目の朝、伯爵様方は王都に戻られる為のご挨拶を述べられているのでした。
伯爵様の目的は王家の諜報員たちが上げた情報の検証、その主たる目的である多頭ヒドラと二体の地這い龍の検証はすでに終わっている為、翌日はホーンラビット牧場の見学とビッグワーム干し肉工場の見学。
幾ら冬眠中とはいえ、その巣に潜って角無しホーンラビットを捕まえて来た時にはひどく驚かれておりましたが、眠そうにしながらもなすがままにされる角無しホーンラビットを見てこの畜産方法の有用性に酷く関心なさっておられました。
ボビー師匠の訓練場で身体を動かす老人たちや、訓練に励む村の若者たちの姿に我が目を疑ったり、礼拝堂の光のギミックに喜ばれたりとすっかりマルセル村を満喫なさったことと思います。
「このマルセル村はよい所であった。何より村人一人一人の表情がいい、皆が村を愛し人生を楽しんでいることが見て取れる。我の領地でそのような領民を見る事が出来るのかと問われれば、はなはだ疑問であることが情けない話ではあるのだがな。
アルバート子爵殿、その方の領地運営はこのような狭い地域であるからこそ成功していると言われればそうなのであろうが、多くの点で参考となった、感謝する。
いずれ王都で会う機会があれば、また話を聞かせてもらいたいものだ」
「エラブリタイン伯爵様にそのようなありがたいお言葉をお掛けいただき、このドレイク・アルバート、感涙の想いでございます。
エラブリタイン伯爵様が無事王都に御戻りいただける様、マルセル村の領民一同心よりお祈り申し上げる次第でございます」
「うむ、ではな。達者で暮らせよ」
エラブリタイン伯爵は馬車に乗り込むと、意気揚々と王都に向かい出発していく。
マルセル村の者たちは伯爵様ご一行の旅の安全を祈りつつ、いつまでも手を振り続けるのでした。
「・・・はい、皆さんお疲れさまでした~。
え~、今後もマルセル村では似たような形での高貴なるお方様方のご訪問が予測されます。そうした場合は今回同様焦ることなく落ち着いた行動を心掛けてください。
要は観光客の皆様方をお迎えする手順と同じです。
今後ともマルセル村の発展の為、一致団結して頑張って行きましょう」
「「「応~~~~!!」」」
辺境の村人たちは強かでなければ生きてはいけない。辺境の寒村マルセル村は多くの村人の努力の下、今日も平和で牧歌的な雰囲気に包まれているのでした。
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