第301話 転生勇者、プレイヤーキャラと出会う

「敵ヒドラ、沈黙確認。状況終了、三つ首ヒドラの討伐を確認しました」

「「「「よっしゃ~~~、三つ首ヒドラ、討ち取ったり~~~~!!」」」」


枯草の揺れる寒風吹きすさぶ草原に、俺たちの歓喜の叫びが響く。

“大福チャレンジヒドラに挑戦”、それは戦いの場を水辺から草原へと変えた。

理由は簡単、水ヒドラだと風邪を引くから。

去年中々勝てない水ヒドラに寒い時期になってもしつこいくらいに食らいついていたら、オーガの幻影を纏ったマリアお母さんに怒られたっけ。

あれはな~、本気で怖かったんだよな~。

魔力は感情に大きく作用されるとは言うけれど、怒りの具現化、ス〇ンド?

オラオラオラオラってされちゃうの?トーマスお父さんに助けを求めるも、さっと目を逸らされたもんな~。

声には出さず口パクで“マリアお母さんには逆らうな”って、何の助けにもならないから~。

以来冬場の大福チャレンジは禁止されていたんですけどね。


この夏はいいところまで行ったんですよ、七つ首までクリアって凄くないですか?

でも八首八尾の水ヒドラが凶悪で、尻尾ブンブン魔法バンバン、あんなん勝てるか~ってレベルなんだもん。

結果八つ首はクリアならずだったんだけど、そうしたらケビンお兄ちゃんが「大福チャレンジ七つ首まで行ける実力があるんならそろそろ大福本体のヒドラに挑戦してもいいんじゃね?」とか言い出しまして。

本体ヒドラ、漆黒の巨大魔獣、水属性火属性禁止(風邪防止と火事の防止の為)での一つ首からの挑戦と相成った訳でございます。


この大福本体ヒドラが強い強い、パワーが段違い。水ヒドラはケガ防止の意味もあり吹き飛ばされることがあってもケガの心配はなかったんですが、本体ヒドラは油断すると骨折じゃすまないってレベル。

これまでとは緊張感が全然違います。より実戦に即した感じの対戦相手って事なんでしょうか。

まず一つ首に挑むもボロボロにされて全員救護班として控えて居たキャロルとマッシュのポーション治療を受ける羽目に。エミリーはほぼ初めての危機感を伴った痛みに最初こそ怯えていたものの、すぐに気持ちを切り替え大福ヒドラを睨みつけながら立ち上がっていました。

ジミーは普段見せる甘い笑みはどこへやら、ヘンリー師匠を彷彿とさせる獰猛な笑いを浮かべていらっしゃいます。

フィリーちゃんとディアさんはそんなジミーを見てキャーキャー嬉しそう。

・・・えっ、二人とも大福が怖くないの?自分たちが弱い事はよく知っていると、どこまで食らいつけるかは今後の創意工夫、死なないのならそれでいいって覚悟が決まっていらっしゃるんですね、そうですか、分かりました。

ゴブリンの呪いに掛けられたと言う壮絶な過去を持つお二人、この程度ではへこたれない様です。


そうして挑み続けて本日三つ首ヒドラの討伐に成功したと言う訳です。

めっちゃうれしい。今夜はホーンラビット干し肉でスープを作ってもらおう、そうしよう。


俺たちがそうやって喜んでいると、何やら気の抜ける様な声でケビンお兄ちゃんが祝いの言葉を掛けてくれるのでした。


「ジミー、お疲れ~。三つ首倒したって凄いじゃん。三つ首だよ?三つ首。

こないだ白がズタボロにされてた奴だよ?

これがパーティーの結束力、絆の力って奴なのかね~。

それじゃそろそろ魔物の方もパーティーの力を使うって事で、緑と黄色を「「「勘弁して下さい、今は大福ヒドラに挑戦と言う事で一つ」」」・・・もう、甘えん坊さんだな~」


俺たちが速攻お断りの言葉を入れたのは言うまでもありません。大福プラス緑に黄色、縮小版地這い龍の参戦?死ぬわ、確実な死が待ってるわ!!

分かるよ、実戦では複数の敵を相手にしなきゃいけないだろうし、強敵一体をパーティーで取り囲める事なんてまずないだろうと言う事くらい承知しているよ?

でもハードル上げ過ぎですから、そう言うのはもう少しレベルを下げてお願いします。これって甘えでも何でもないからね?僕たちにとったら死活問題なの!!


ケビンお兄ちゃんはそんな感じで僕たちと軽く会話した後、鬼人族の蒼雲さん白雲さん親子と共に僕たちの訓練を見学していたケイトさんたちの方に向かっていくのでした。


「ねぇジミー、さっきケイトさんに声を掛けてたけどあの人たちって誰?多分ケイトさんのお友達か何かだとは思うけど」

「あぁ、なんでも領都学園には授業の一環で学園ダンジョンに潜るって言うのがあって、そのダンジョン攻略パーティーの仲間らしいよ?

アルバート子爵様のところから帰ってきたケビンお兄ちゃんが教えてくれたんだ。ボビー師匠の訓練場にも通う事になるだろうから気に掛けて欲しいって。

“魔力纏い”は一般冒険者が“魔纏い”を習得する手順でボビー師匠が教えるみたい。

僕たちに聞かれたら“ヨシの素振り”を教えてやれって言ってた」


「“ヨシの素振り”ってあの・・・」

“コクリ”

思い出される苦しい記憶、あの終わる事のない空しい日々、振るたびに“ポキッ”って折れちゃうんですよ、“ポキッ”って!!


「あの人たち、持つかな・・・」

「さぁ、でも本来“魔纏い”は銀級冒険者でも中々身に付ける事の出来ない高等技術らしいから。ボビー師匠に言わせればあのヨシ振りの訓練方法も画期的って事らしいし、根気さえあれば半年以内に身に着くだろうだってさ」


「あの“ヨシの振り”を半年・・・俺だったらその前に心が折れると思う」

「ハハハ、頑張って欲しいよね、俺は絶対ごめんだけど」


互いに顔を見合わせ乾いた笑いを浮かべる俺とジミー。

あの訓練は一生涯忘れる事の出来ないトラウマだもんな~。


「お~い、ジミー、ジェイク君、エミリーちゃん、フィリーちゃん、ディアさん、ちょっとこっちに来てくれる?」


俺たちがそんなおしゃべりをしていると、こちらに呼び掛けるケビンお兄ちゃんの声。


「訓練中に悪いね、ちょっと紹介しておこうと思って。こちらケイトのお友達で領都学園で学園ダンジョンの攻略パーティーを組んでるメンバーの方々。

暫くマルセル村で訓練をしたいって事なんでよろしくお願いします。

ケイト、それぞれの紹介をお願い」


「ん。こっちの呆けてる三人が回復役で治癒術師のミッキーと壁役で堅盾士のローズ、統率役兼前衛で剣士のベティー、火力担当で元ハーレム野郎のアレン。

で、こちらはアレンの保護者の織絹さん」


「ケイト、紹介が辛辣、元ハーレム野郎って最初からハーレム野郎じゃないから」


「・・・こうやって鈍感系を気取った嫌な奴、周りから何を言われても“そんな事ないですよ”って受け流す。難聴系じゃないだけまだまし。

そんでそのハーレムメンバーがさっきみんなしてジミー君にメロメロになった。

アレンざまぁ」


「だからそれ止めて!?俺ケイトに恨まれるようなことした?」

「アレンのハーレムメンバーと見られる事が既に害悪、アレンは断罪されてしかるべき。今日はとってもいい日、凄いすっきりした」


そう言いサムズアップするケイトさん。それ教えたのケビンお兄ちゃんでしょう、ケビンお兄ちゃん超笑顔だし。


「ブホッ、ケイトちゃん言う言う。まぁこれはアレン様が悪かったね、無自覚とはいえアレン様は女性に粉掛け過ぎたって事さ。でもなんやかんや言ってこうして気に掛けてくれるんだ、いいお友達じゃないか。

アレン様にはもったいないくらいだよ」

「そんな~、織絹まで。俺ってそんなに調子に乗ってたの?自覚無いだけで結構嫌われてたとか?」


「男子の人気はほぼ絶望的、ヘルマン子爵家のバーナード様以下。バーナード様はああ見えてそれなりに人望がある、馬鹿だけど」


何かショックを受けた顔になるアレンさん。領都学園ってところも色々あるんだろうな~。

でもアレンに織絹、どこかで聞いたことがあるような。それに鬼人族の女性、アレン・・・。


「あの、すみません。こんな事を聞いていいのか分からないけど、アレンさんの職業って魔法使いか何かなんですか?あまり剣士って感じはしないんですけど、どちらかと言えば中衛から後衛よりって言うか」


「あぁ、俺かい?期待させちゃって悪いんだけど俺は<商人>なんだ。ただ何故か強力な魔法が撃ててね、それでパーティーの火力役をやってたんだよ。

けどその原因もケビン君が解明してくれたんだけどね。

どうも俺には精霊様が付いてくださっていたらしくって、精霊様のお力で魔法の威力が増幅されていたらしいんだ。

俺がマルセル村に同行したのは、そうした事もケビン君に教わりたいって言う思いがあったんだよ」(ニコッ)

そう言い爽やかに笑うアレンさん。

・・・ってやっぱりそうじゃん、商人のアレン、従者の織絹、“赤髪のジェイク”に並ぶ人気プレーヤーキャラ、“冒険商人のアレン”じゃん。

って事はあれですか、バルカン帝国の軍人キャラ、“策略のホーネット”も実在しちゃったりするんですか?それぞれのシナリオがごっちゃになってる?

全シナリオ共通イベント魔王軍襲来も起きちゃったりするの?勘弁して~。


「そうそう、精霊様だよ。フィリーちゃんとディアさんにちょっとみてもらいたかったんだよね。

アレン君って火属性以外の魔法適性ってある?」

「いや、火属性だけだけど、それがどうかしたの?」


「大福~、ちょっと的やってくれる?火事が怖いからすぐ消す感じで。

それじゃ悪いんだけどあそこの黒い的に向かってボール魔法を撃ってみてもらえる?いつもの感じで」

「あ、あぁ。“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ファイヤーボール”」


アレンの眼前に生み出された火球、それは魔法名の宣言と共に的に向かい撃ち出される。

“バシューーーー、ズド~~~~ン”

轟音を立てて大気を揺らすアレンの火属性魔法。初歩のボール魔法とは思えない威力に、周囲の者の表情は驚愕に染まり、染ま・・・る事は無く、冷静な分析が始まる。


「大体通常のファイヤーボールの三倍から四倍の威力かな?速度はなかなか良かったと思うんだけど」

「そうだね、ジェイクのファイヤーボールの威力が行き成り上がって困惑していた頃くらいの威力はあるんじゃないかな?

あの時は地面に穴が開いたもんね」

「うん、懐かしいね。あの後皆で魔力属性検査をしたんだよね。私が光属性魔法を使えるって分かった時は驚いたもん、良く憶えてる」


「ディア、どう思います?下級精霊にしては勢いがあるような気がするんですけど」

「そうですね、ただ力に揺らぎがみられますし精霊も姿を現しません。もしかしたら本契約がまだなのでは・・・」


「すみません、アレンさんにお聞きしますが精霊契約の儀式をされた覚えはありますか?」

フィリーちゃんからの質問にアレンさんは首を横に振る。


「さっきも言ったけど俺は精霊の事自体ほとんど知らないんだ。それこそケビン君に教えてもらうまで俺に精霊が付いているって事自体知らなかったくらいなんだ。

だから精霊契約と言われても正直何の事だか分からないんだ」

そう言い肩を竦めるアレンさん。その態度に自らの考えに確信を持つフィリーちゃんとディアさん。


「おそらくですがアレンさんは精霊と仮契約をした状態のままなんだと思います。これは精霊側から行われるもので、気に入った人間を一方的に守護し、その人物を見極める期間と言われています。

本来であれば精霊契約の儀式を行い本契約となるのですが、アレンさんはそれをなさっていないのでしょう。

仮契約、しかも森から遠く離れた異国の地であれだけの力を行使するとなれば、余程高位の精霊様ではないかと。

本契約を結べばより強力な精霊魔法も使える様になりますが、幾つか問題が。


まず本契約はヨークシャー森林国においてでしか出来ないという事。そしてもう一つ、ヨークシャー森林国の国民以外に精霊契約の儀式は行わないと言う事です。

ヨークシャー森林国において精霊様とは共に暮らす友であり、国家防衛の要。

その精霊様を他国の者に引き渡すなどという事は考えられない。

一度精霊契約を行えば基本的にその契約主が死ぬまで共にあるのが精霊様です。

それはたとえ国外に出ようとも変わらない。ただしその契約主が死亡した場合は精霊様は精霊樹の御許に戻ると言われています。

極稀に他国の人の世に残る精霊様もおられますが、その場合野良精霊となって力を失われてしまうと言われています」


「あ~、それだったら一度見てもらった方がいいかも。精霊様、お姿を現していただけますか?光属性マシマシ蜂蜜ウォーターを差し上げますんで」

ケビンお兄ちゃんの呼び掛けに姿を現す精霊様。他人の精霊様をモノで釣る、流石ケビンお兄ちゃん、相変わらず想像の斜め上を行かれますこと。


“コトッ”

ケビンお兄ちゃんの差し出した深皿の水を嬉しそうにぺろぺろ嘗める精霊様、その光景に「やはりケビン様はケビン様でいらっしゃる」とどこか諦めた様な声音で呟くフィリーちゃんとディアさん。


「あぁ、やはりそうですね。精霊樹様との繋がりが残っていらっしゃらない。この真っ白なお身体がその証拠、繋がりが強いほど緑色の線が御身体に現れるのです。

こちらの精霊様の状態は野良精霊となります。魔法行使の際に顕現なされないのも、お力を温存する為ではないかと。

本契約をして契約者との繋がりが強まればもう少し強いお力も使えるのでしょうが」


なるほど、それでゲーム内ではヨークシャー森林国での覚醒イベントがあったのか。

確か王家に関係する重要な商談を成功させるとその報酬として覚醒イベントが起きるんじゃなかったかな?

もうゲームの知識は殆んど覚えてないから何の役にも立てないけど。

“主人公キャラだし何とかなる、頑張って”としか言えないよな~。


「ふむ」

フィリーちゃんの話を聞き、何やら考え込むケビンお兄ちゃん。

あっ、俺これ知ってる、またケビンお兄ちゃんが碌でもない事をする前兆だ。村長さんの胃薬摂取量が増える奴だ。


「“御神木様、ちょっとご相談が。こちらにお呼びしますんで来てもらえます?人型の方でお願いします”

ちょっと人を呼ぶから待っててくれる?<出張:御神木様>」


突然草原の大地に浮かび上がる光輝く魔法陣。ケビンお兄ちゃんは「光と風、紬と同じかな?」などと呟いておられますが、これって一体!?

眩いばかりの光の集束、その明かりが収まったとき、そこには一人の壮年の偉丈夫が佇んでいるのでした。


「ケビン、一体どうした?何か相談事との話だが」

「あぁ、まずは見てもらった方が早いかと。こちらの精霊様なんですけど精霊樹様から長い事離れてしまっていて、精霊樹様の力を失ってしまっているんですよ。

それでこちらの人間と精霊契約を結びたいらしいんですが、ヨークシャー森林国では外国人の精霊契約を認めていない様でして、どうしたものかと」


「うむ、少し待て、私はその“人と精霊との間に結ばれる精霊契約”とやらが分からない。今、そこの精霊から知識を貰うとしよう」


その壮年の偉丈夫はそう言うと、深皿に顔を突っ込む白い狐の頭に手を載せられました。


「ほう、そう言う事か。許可を与えているのは精霊樹であると。であれば私が代わりに許可を与えよう。精霊よ、この葉を食べるといい」

そう言うやその御方は掌に緑色をした楓の葉の様なものを出し、顔を上げた精霊様に分け与えられました。

一瞬ブルリと身を震わせた精霊様、次の瞬間その白いキャンパスに美しい緑色をしたツタ模様が現れるのでした。


「で、契約主はそちらの人間か、名は何というのか?」

「は、はい、アレン、アレン・ロナウドと言います」


「うむ、ではアレン・ロナウドよ、そこの精霊に名を付けよ、それで互いの繋がりはより密接になろう」

「ではシルクと。遥か東方の地より運ばれる美しい生地の事です。俺はいつかこのシルクの買い付けに東方の地を訪れたいと思っているんです」


「うむ、思いの籠った名だな、強い力を感じる。では精霊よ、その名を受け入れるか?」

“キャンッ”


「よろしい、双方の合意の下精霊と人との契約を許可する。互いにより良い関係を築かん事を」

その御方がそう宣言すると、精霊様が光の粒子となりアレンさんの身体にまとわり付き、先程よりも大きくより精悍な姿でアレンさんの隣に現れるのでした。


「ケビンよ、これでよいかな?」

「はい、お世話になりました。近々そちらにお伺いいたしますので」


「うむ、楽しみにしていよう」

「ありがとうございました。<送還>」

ケビンお兄ちゃんの言葉に再び光に包まれてから姿を消す御方様、あの御方様は一体。


「「「ケビンお兄ちゃんだから仕方がない」」」

未だ事態について行けず放心状態のフィリーちゃんとディアさん、そして虚空を見詰めただボ~ッとするアレンさん。

俺は後で三人にこの呪文を教えてあげようと、固く決心するのでした。

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