第299話 ハーレム主人公(偏見)、マルセル村に滞在する

「そう言う訳でこちらのダンジョンマスターさんとダンジョンコアさんをお連れしたんですよ。ですんで御神木様にダンジョンの作成許可を頂きたいと思いまして。

ダンジョン内はブー太郎や熊親子、グラスウルフ隊の戦闘訓練に使って貰おうかと。

中で魔力を使った攻撃を行って貰うとそれがダンジョンのご飯になるらしいんで、魔法訓練にもいいかなって。

普通はただ侵入しているだけでも垂れ流しの余剰魔力で結構なご飯になるらしいんですけど、うちの連中って体外に余剰魔力出さないじゃないですか。魔力隠しは大森林で生き抜くための基本技術ですからね。

だもんで戦闘訓練がいいかなって。魔法訓練場も完備して貰う予定です」


「そうか。私は構わないが根を張っているところは避けて欲しい。畑の先の土地であれば問題ない」


マルセル村に接する魔の森、その奥に広がる閉ざされた結界領域。許可の無い者は近付く事も認識する事すら出来ないそんな場所で、清浄なる土地の主御神木様にお伺いを立てる俺氏。

まぁ連れて来ちゃいましたしね、ダンジョンマスターってダンジョンコアと一緒ならお引越し出来たのね。この事はダンジョンコアさんも知らなかった事実みたいで、ダンジョンから出られた時は偉く驚いていました。

これはコアさんの仮説なんですが、影空間に入っていた事が良かったのではないかとの事。

通常ダンジョンマスターが倒されコアが何者かに触られた場合、その触った者が次のダンジョンマスターとして登録されます。その為冒険者たちは一度コアを破壊し、その機能を停止させてから持ち帰ると言った手段を取ります。

コアが破壊されるとダンジョンマスターも死亡する為、ダンジョンマスターたちは必至にコアを守るという訳です。

またダンジョンマスターが生きているうちはダンジョン内よりコアが持ち出せないようにもなっていますし、ダンジョンマスターが勝手にダンジョン外に出れない様にもなっています。それだけダンジョンマスターとダンジョンコアとの結びつきが強く、ダンジョンが一つの生き物として成立している証左でもあります。

ではダンジョンコアとダンジョンマスターが一緒であればダンジョンを出る事は可能なのか?これは結果的に可能であると証明されました。

互いに引っ張り合う両者が揃う事でダンジョンの結界を越える事が出来たという訳です。


ではなぜ今までこうした事が行われなかったのか?

理由は二つ、一つはダンジョンから出る事で魔力供給が失われてしまうから。

例えダンジョンを出る事が出来てもダンジョンと言う身体を失ったダンジョンコアは魔力を得る事が出来ませんし、ダンジョンコアと結びつきの強いダンジョンマスターも同様。

結果時間と共に魔力を失い、干からびて死んでしまうと言った事が起こると推測されるそうです。

もう一つがダンジョンマスターの魔力消費、通常ダンジョンマスターはそのダンジョンの中核でありより強い魔物が採用されています。その為その存在を維持する為の魔力量も膨大、身体であるダンジョン内部であれば然して問題ないその維持費も、外部に出た途端非常に大きな負担となる訳です。


で、今回、ダンジョンマスターたちがいたのは俺の影空間、言わば魔力空間の中。

疑似的にダンジョン内部にいるのと変わらない状態であった事。そしてダンジョンマスターが魔力消費の少ないゴブリンであり、ダンジョンコア自体も数百年分の維持魔力を蓄えていた事。

これらの点が上手く作用し無事ダンジョンから出る事が出来たのではないかとの事でした。

更に言えばダミーコアとして新しく生み出したダンジョンコアにダンジョンを任せた事でゴブリンダンジョンがそのまま維持され、ダンジョン崩壊が起きなかったことも要因の一つではないかとの事でした。


なんにしてもダンマスとコアは無事に脱出出来たって訳で、目出度し目出度しって事です。


で、御神木様の結界領域内に新しいダンジョンを作れば下手に人間に狙われる事もないと。ダンジョン維持に必要な魔力はブー太郎たちに魔力訓練をさせれば回収出来るので無問題。


「それじゃ早速ダンジョン予定地に行こうか。そんでもって今回は地上部に建物を立てて、そこから地下ダンジョンに入って行くって形で設計して貰える?

俺が外壁を作るからその内側全体をダンジョンの地上階って扱いにすればダンマスも自由に外に出れるんじゃないかなと思うんだけど、どうよ?」

“ポワンポワンポワン”


俺の問い掛けに、“それなら可能”と返事をするコアさん。

それじゃ早速とばかりに建設予定地の木々を伐採&収納、触腕を使って根っこも残らず回収です。そんでもって特殊生活魔法<防護城壁>っと、出入り口付近はやや太めの柱にしてございます。


「それじゃ後はコアさんとダンマスに任せるわ。こっちの条件はさっき言った奴だから、ウチの魔物たちが訓練用に出入り出来る出入り口とダンマスの住まいを立ててくれればいいから。ダンマスも庭いじりで野菜とか育てたら?花を育ててもいいけど。

折角安全な結界領域に来たんだから少しは楽しまないとね」


“ギャウギャ、ウギャギャウギャ、ギャウ”

“ポワンポワンポワン”


ダンマス、コアさん、共にここの土地に大変満足されているご様子。凄い感謝されちゃいました。

こっちとしては近所にデパートを誘致出来た事で大変満足しております。

ダンジョンの方が落ち着いたらお布団様をですね。それと商品カタログを是非いただきたい。

あ~、夢が広がリングですな~。

俺はダンマスに別れを告げ、ブー太郎たちに後を頼むと、スキップをしながらマルセル村へと戻るのでした。


―――――――――――


「ん、ここがボビー師匠の訓練場。今は農閑期だから村人がみんな集まってる」


ケイトに連れられやって来たそこは、マルセル村の剣術指南役ボビー師匠の訓練場。

ボビー師匠と言えばグロリア辺境伯家とランドール侯爵家との戦争で大活躍し、領都グルセリアで起きたスタンピードをたった五騎で制圧した英雄“アルバート子爵家騎士団”の中の一人。

二つ名は“剣鬼ボビー”、領都では知らぬ者のいない憧れの人物。


「うむ?おぉ、ケイトではないか、久しいの。何やら背が大きくなっておらんかの?それにすっかり垢抜けた都会の女性と言った雰囲気を纏っておる。

領都では充実した日々を送っておる様じゃの、結構結構。

して、後ろに居る見慣れぬ者達はお主の友達かの?」


「ん。学園ダンジョンの攻略パーティーメンバー。

私のお守り役のベティー、盾役のローズ、回復役のミッキー、ハーレム野郎のアレン、アレンの世話係の織絹さん」


「ちょっ、ケイト、俺の紹介が酷くない?俺ケイトに何かした?

あっ、はじめまして、アレン・ロナウドと言います。パーティーメンバーのケイトにはいつもお世話になっています」

「そう、私はいつもお世話を焼いている。そしてアレンはハーレム野郎、私もハーレムメンバーの一員と見られるのは大変心外、謝罪を要求する」


「だから俺はハーレム野郎じゃないと。

その、領都学園でケイトとケビン君の強さを目の当たりにしまして、是非教えを乞いたいと思いお伺いしました。

何卒僕たちに修行を付けてくれないでしょうか、よろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします」」」

そう言い頭を下げるアレンたちに困惑するボビー師匠。


「のう、ケイトよ。ケビンの奴は何と言っておるんじゃ?こ奴ら見たところまだ“魔纏い”も覚えておらん様じゃが」

「ん、ボビー師匠が通常の“魔纏い”を教える分にはいいんじゃないかって言ってた。普通の習得手順で覚えたのならそれは才能だろうからって」

ケイトの言葉に腕組みをし暫し考え込むボビー師匠。


「ふむ、なるほどの。ケイトのパーティーメンバーとあれば、それくらいの距離感がちょうどよいやもしれんの。

よし、分かった。お主らは学園の生徒とあれば既に魔法の訓練は始めておるのであろう?であればそれぞれの得意属性は分かっておると言う事じゃな?」

「はい、俺たち全員ボール魔法とアロー魔法は習得しています」


「よし、であるのならば基礎は出来ておると言う事じゃな。

お主らには“魔纏い”を覚えてもらおうかの。と言うかそれを覚えておらんとこの村で暮らすにはちときついからの。

ほれ、周りの者をよく見て見るのじゃ」


ボビー師匠に促され練習場に目を向けるアレンたち。


「この糞ジジイ、エールの作製にどれだけ麦を使ってるんだい、少しは食料の事も考えろ~、この呑んだくれ~~~!!」

“バシバシバシバシバシバシ”


「喧しい、お前には亭主の顔を立てて温かく見守ると言った優しさが無いのか、優しさが。そんなんだから白髪が増えるんだこのオーガ婆~~~!!」

“ドカドカドカドカ”


「こんの~、女性には決して言ってはならない事を、今日はとことんまで分からせてやる。

ケビン君直伝、“明鏡止水”“金剛無双”発動!」

それは流星、村のお婆はこの瞬間輝ける星となった。


「ば、馬鹿野郎、それは何時だかケビンがボビー師匠を吹き飛ばした“対魔境剣術”じゃねえか!?ウギャ~~!!」

“ドドドドドドドドドドドドド、ドッカーン”


「「「「・・・・・」」」」


「まぁ、ちょっとしたじゃれ合いじゃの。他の連中も似た様なものじゃからの。

マルセル村の冬は寒いでの、皆“魔纏い”で身体を覆って寒さをしのいでおるんじゃ。

剣術は冬場に身体を鈍らせない為の運動かの。

この辺には大した娯楽もないでの」

そう言いニヤリと笑うボビー師匠。

あれがただの村人の冬場の余暇、見るからにお爺さんお婆さんと言った村人が、一騎当千の戦いを見せる、それがマルセル村。


「まずは“魔纏い”じゃ、お主らはこの地に住み暮らす訳ではあるまい?ならばさほど時間も取れんでの、剣術を基礎から教えるよりもそれぞれに応用の効く技術を教えた方が良かろうて。

ただしこの“魔纏い”は強力な武器にもなる技術、無暗矢鱈に人に教えてはならん。

気軽に人に教えその相手が誰かを傷付けたら、それはお主らが誰かを傷付けた事と何ら変わらんのじゃ。

技術とはそれだけ危険で責任を必要とするもの、その事ゆめゆめ忘れるでないぞ?」

「「「「はい、ボビー師匠」」」」


「うむ、よろしい。先ずは己の魔力を感じる事からじゃ。ここでは邪魔になるからの、訓練所の端に移動するぞい」

こうして俺たちのマルセル村修行が始まった。

俺たちは学園において一目置かれるパーティーであった。俺たちは優秀であると思っていた。だけどそれは間違いだった、俺たちはここマルセル村ではその辺のお婆さんやお爺さんにも劣る存在であった。

俺たちは絶対強くなる、そしていつか世界へ。


―――――――――――


「ん、彼らがマルセル村の子供たち。あの大きい子がケビンの弟のジミー君。

また背が伸びた?あれでまだ十歳、将来は大勢の女性を泣かす事間違いなし。

隣の子がジェイク君、彼も十歳、ケビンよりも大きい。彼も将来有望、でも女性を泣かせる事は出来ない。

側にいる女の子はエミリーちゃん、十歳。三人は幼馴染、昔からずっと一緒。

そしてジェイク君はエミリーちゃんの物、これは決定事項。逆らったらエミリーちゃんに撲殺される、これも決定事項。

その隣の二人は知らない、多分新しい住民」


マルセル村の側に広がる草原、ボビー師匠より“歳の近い年代の子供たちの姿を見るのも勉強になる”と勧められやって来た俺たち。こんな場所で一体何が始まると言うのか?


「ケイトさん、お久し振りです。領都学園はいかがですか?マルセル村と違って大勢の人の中では大変ではありませんでしたか?」(ニコッ)

話し掛けて来たのは先程紹介されたジミー君、背が大きく引き締まった肉体、そして子供とは思えない爽やかでありながら色気のある甘い笑顔。パーティーメンバーが全員顔を赤らめて・・・。


「あっ、あの、私ミッキーって言います。よろしくお願いします!」

「私はローズだ、堅盾士の職を授かってる。ジミー君と言ったか、学園に興味があるのなら少しお話しを」

「ミッキー、ローズ、少し落ち着きなさい。ごめんねジミー君。私はベティー・スワイプ、ベティーって呼んで。

何か困った事があったら私に言ってね、力になれるかどうか分からないけど相談には乗れると思うの。領都の学園では・・・」


「ジミー君、始めるよ~」

「あっ、ごめんね、皆が呼んでるから。フィリー、悪い、今行く~。

それじゃケイトさん、また後で」


「ん、頑張るといい」

ケイトに挨拶をし草原へと戻って行くジミー君、その後ろ姿を残念そうに見詰めるパーティーメンバーたち。


“ポンッ”

「アレン、あれが真のイケメン。アレンの目指すべき姿。

世界は広い、アレンはまだまだ、精進あるのみ」


肩に乗せられたケイトの手、そして向けられる同情の眼差し。

なんかすっごいむかつくんですけど!!


「アレン様、大丈夫ですよ、織絹はアレン様について行きますので」

「織絹さんは良い人、大切にするといい。アレン、強く生きろ」


「うが~、なんか超腹立つ。ケイトの其の勝ち誇った顔は何、めっちゃ笑顔、超笑顔。なんか“アレン、ざまぁ”って顔してない?俺ってなんか悪いことした?」

「俺様モテモテって顔がむかついてた、私までハーレムメンバー扱いされる事が気に入らなかった。アレンの“ざまぁ顔”が見れてとっても満足♪」


草原で戦闘訓練を始めたジミーに歓声を上げる三人の少女、地面に両手を突き落ち込むアレン、そんなアレンを慰める織絹、そして満足気に微笑むケイト。

寒風吹きすさぶ枯草の草原には、今日も若者たちの元気な声が響くのであった。

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