第295話 村人転生者、領都学園を見学する (2)
領都学園の冬期休暇、それは
終業式を迎えた学園生はそれぞれの休みを謳歌する。
貴族子弟は実家に帰り社交パーティーへと足を運び、領都住まいの平民は家の手伝いや将来の為に各ギルドに足を向ける。
遠方からやって来た寮住まいの生徒は、学園施設で己を高める者あり、各ギルドで将来の為に働く者あり。
「アハハハ、ベティーも落ち着いて。パーティーの戦力が上がった事を素直に喜ぼうよ。ケイト、これからもよろしくね。
それじゃ今度は俺の番かな?」
冬期休みに入って急にマルセル村に帰る事になったケイト、その知らせに領都に残る事になっていた学園ダンジョン攻略パーティーメンバーたちは、お別れ会を兼ね魔法訓練場に集まっていた。
そして繰り広げられる青春の一幕、あのケイトがこんな学園生活を送り青春を謳歌している。ヨーク村で死に掛けていた彼女の姿を知るケビンは、それだけで涙が止まらなくなる思いに駆られるのであった。
なんて良い話、えっ、ベティーちゃんがケイトの魔法に頭を抱えておられる?
それはいけない、アレン君の良い所を見逃してしまいますよ?
ベティーちゃんとケイトに爽やかに声掛けをして、ファイヤーボールの詠唱を始めるアレン君。
ケイトの所業をスルーって中々の鈍感力。これがハーレム主人公様の実力か!?彼は難聴系勘違いを連発するのか!?
ん?なんかアレン君の周りにキラキラしたエフェクトが発生してない?って言うかなんかいるよね?
「ねぇケイト、アレン君って魔法を撃つ時いつもあんな感じなの?あのキラキラした奴」
「ん、アレンはおかしい。でも周りの皆は気が付いていないっぽい。おそらく魔力視が出来ないとあれは見えない」
ケイトとおしゃべりしている間に撃ち出された大きめのファイヤーボールは勢い良く標的に当たり、“ド~~~~ン”と大きな音を立てて弾けるのでした。
「アレン君、アレン君、ちょっといいかな?」
俺は魔法を撃ち終えたばかりのアレン君に話し掛けます。
「えっと、君はケイトの・・・」
「あぁ、自己紹介がまだだったね。俺はマルセル村のケビン、こっちがアナさん。
今日はケイトの御迎えでね。
それでちょっと聞きたいんだけど、アレン君ってもしかしたらヨークシャー森林国の出身か何か?それかお母さんかお父さんのどちらかがそうだとか」
俺の問い掛けに驚きの表情を見せるアレン君、この反応はまず間違いないかな?
「はい、亡くなった母がヨークシャー森林国の出身でしたが、何故それを?」
「あぁ、それともう一つ。アレン君ってこんな感じのペンダントを持ってない?」
そう言うや俺は胸元からあるペンダントを取り出します。それはマルセル村の為に尽くしてくれたお礼と言ってアルバート子爵様から頂いた祝福のペンダント、ヨークシャー森林国において精霊との契約の際に使われる大切な品。
「はい、持ってます。亡くなる前に母が。
“これはあなたの事を守ってくれる大切な品、このペンダントを身に付けていれば精霊様があなたの事をお守りくださいます”
母が残した最後の言葉です。それ以来このペンダントは俺の大切な宝物なんです」
そう言い胸元から取り出したペンダントを愛おしそうに見詰めるアレン君。ハーレムヒロインズはそんなアレン君に優しげな視線を送ります。
「え~、結論から言います。アレン君には精霊様が付いて(憑いて?)います。正式な精霊契約の儀式はしてないんだろうけど、その辺は精霊様の自由だからね。
恐らくだけど亡くなったお母さんが契約していた精霊様を引き継いだって感じかな?お母さんに代わってアレン君を見守ってくれていたんだね。
良かったね、アレン君」
俺の言葉にお口ポカ~ンとなるアレン君。
そして俺に“この人は一体何を言ってるの?”と言った目を向けるハーレムヒロインズ。
うっ、その白けた目ってちょっと辛辣じゃね?何もおふざけで言ってる訳じゃないのよ?
「お~い、そこのキラキラ~。悪いんだけど姿を見せてあげてくれる?ご褒美はこれでどうよ」
俺はそう言うと収納の腕輪から深皿を取り出し、そこに小瓶に入った光属性魔力マシマシ蜂蜜ウォーターを注ぎ入れます。
するとどうでしょう、アレン君の周りを漂っていたキラキラが深皿の前に移動、ぺろぺろと深皿に口を付けながらそのお姿を顕現させるではありませんか。
それは光輝く白色の狐、その神聖な御姿は正に精霊と呼ぶに相応しいもの。
「おぉ、流石精霊様、お美しくていらっしゃる。
これは以前ヨークシャー森林国の精霊使いだった人に聞いたんだけどね、精霊はその使い手の魔力を増幅したり、使い手の魔力を使って魔法適性にない魔法を撃ったりしてくれるんだそうですよ。
アレン君、試しにさっきと同じ感じでファイヤーボールを撃ってみてもらえる?」
「あっ、あぁ。
“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ファイヤーボール”」
俺の言葉に的に向かい短杖を構えるアレン君。杖の先に集束する火属性魔力、そして・・・。
“ビュ~~~~~~~~~、バンッ”
「「「「・・・・・・」」」」
「ね、割りと普通でしょ?これが精霊の力。ヨークシャー森林国が幾度となく行われたバルカン帝国からの侵略を退けられた理由がこれかな?
ヨークシャー森林国の国民はその全てが精霊使いって言われてるんだよ。
それで重要なのはここから。おそらくこの精霊様、かなり高位の精霊様だね。精霊様って森から離れると力が弱まるって言われてるんだよね。
実際はその力の源である聖霊樹様から離れるとって事なんだけどね。
ヨークシャー森林国はその全土が精霊樹様の支配領域だから十全に力を発揮出来るけど、そこから離れるとその精霊様だけの力になってしまう。
でもこちらの精霊様はかなり強力な支援効果を与えて下さっている、これは相当に優秀ってことなんだよ。
注意して欲しいのはこの支援効果は永続的ではないって事。
精霊様だって力が弱れば支援する事が出来なくなる、アレン君が魔力枯渇を起こせば気絶するのと何も変わらない。
いずれアレン君がもっと強力な魔法を使う様になったり、より複雑な魔法の使い方をするようになった時、この事を知らずにいたら精霊様に無理な負担を強いていたかもしれないって事なんだよ」
俺はそこで言葉を切ると、未だに美味しそうに深皿を舐めるお狐様に視線を落とす。
「精霊様そんなにお腹が減ってたんですか?精霊樹様からの魔力供給がなかったから久々のご馳走なんですか、それはなんとも。
えっと、もっと飲まれます?光属性魔力マシマシ蜂蜜ウォーターはまだありますけど?」
俺の言葉に顔を上げ瞳をキラキラさせる精霊様。無駄にエフェクトの使い方が上手いな、おい。芸達者だぞ、この精霊様。
俺は収納の腕輪から光属性魔力マシマシ蜂蜜ウォーター(大びんサイズ)を取り出し、深皿に注ぎ入れるのでした。
「へ~、アレン君ってお母さん大好きっ子だったんですか~。そんでいつもお母さんに抱き付いていたと。まぁ子供ですし、微笑ましいですよね。
それでお母さんが亡くなってからはお父さんに認められようと一生懸命勉強したと、アレン君って努力家~、流石ですね~」
突然現れた精霊様に未だ信じられないと言った様子のアレン君。そこでアレン君の昔話なんかを精霊様に聞かせて頂いて、実感して頂こうとしたんですけどね。
「やめて~。信じるから、精霊様にお守りいただいていた事に感謝申し上げるから、俺の昔話で盛り上がらないで~~~!!」
アレン君が親戚のおばちゃんに小さい頃の恥ずかしい逸話を聞かされて悶え苦しむ青少年のような状態にですね。
ハーレムヒロインズの皆様は、そんなアレン君の昔話にわちゃわちゃ盛り上がっている様ですが。
「分かっていただけたんなら結構です。俺もそこまで精霊様の事について詳しい訳じゃないんであれですが、精霊様は光属性魔力が大好きです。
生活魔法の<ウォーター>を唱える際に魔力を多く込める事を意識すると魔力水と言うものが作れます。これは魔道具職人の基礎技術なんですが、その応用で光属性魔力を多く込める事を意識すると、光属性魔力水を作る事が出来ます。
生活魔法の<プチライト>を意識しながらやると上手く行きますよ?
魔力濃度は練習あるのみですね、頑張ってとしか。
それでこの光属性魔力水にフォレストビーの蜂蜜を混ぜたものがさっき精霊様が飲まれていたものです。フォレストビーの蜂蜜はモルガン商会で扱ってますから、時々飲ませて差し上げると喜ばれると思いますよ?」
俺はそれだけを告げると、精霊様の頭を優しく撫でるのでした。(毛並みサラサラ、超気持ち良かったです)
その後ベティーちゃんがウインドボール、ローズさんがファイアーボール、ミッキーちゃんがライトボールを撃ってそれぞれの魔法について意見を交わし合っておられました。
「あの、ケビン君とアナさんは何か魔法とかを使えるんですか?折角ですんで良かったら撃ってみませんか」
そう提案してきたのはベティーちゃん。
ほほ~、流石はグロリア辺境伯家が派遣した護衛兼監視役、さり気なく俺の実力を探りに来ましたな?
その姿勢、大変宜しい。やはりお貴族様のお身内はそうでなければなりません。
確かお父上様がグロリア辺境伯様の護衛騎士に就かれているとか、男爵様の御令嬢だったかな?所謂法服貴族と言う奴ですね、武官って言うのかな?よく知らんけど。
「あぁ、俺は魔力適性がないから。アナさんは事情があって教会の鑑定を受けれなくてね、まぁ辺境の寒村じゃ良くある話、まともに村の外に出たのは今回が初めてなんだよね、それまでは家から出る事もままならない身体だったから」
そうなんだよね、隠れ住む種族、隠れ里を作って引き籠ってたくらいだから家から出るのもままならない身体だったんですよ。嘘は言ってないよ?
「そうなんですか、それは残念です」
そう言い残念そうな顔をするベティーちゃん。でも多少の手札を見せておかないと後々身動き出来なくなっちゃうんで披露しておきますか。
「そう悲観する事もないって、こう見えても生活魔法は得意だから。例えば生活魔法の<ウォーター>、諦めずに只管研鑽を積むとこう言う事が出来る様になります」
そう言い俺は的に向かい右手を伸ばし人差し指を向ける。
「“大いなる神よ、我に一条の潤いを与えたまえ、岩をも断ち切る穿孔の刃として、ウォータージェット”」
“ピシュン”
ほんの少し振るわれた指、そこで一体何が起きたのか分からず未だ俺の方を見詰め続けるベティーちゃん。
降ろされる手、それと同時に“ズシャッ、ドンッ”訓練場の地面にずり落ちる斜めに切り裂かれた的。
「「「「・・・はぁ~~~!?」」」」
「それじゃそろそろお
一度モルガン商会にも顔を出さないといけないしね」
俺の声に動き出すマルセル村の面々、俺はハーレムパーティーの皆さんに一礼をするとその場を後に「ちょっと待ってください、あの、僕たちもご一緒してもよろしいでしょうか?」・・・はい?
「あの、御無理を言ってる事は重々承知しておりますが、僕たちをマルセル村に連れて行っていただく事は出来ないでしょうか?
ケイトの魔法やケビン君の生活魔法とは思えない様な魔法、僕たちはもっと強くなりたい、教えを乞いたいんです。
それにこの精霊様の事ももっと知りたい。
どうかお願いします、僕たちをマルセル村に連れて行ってください!!」
そう言い腰を九十度に曲げ頭を下げるアレン君。
マジか~、そこでそう来るか~。アレン君、頭を下げれる系主人公様だった模様。
甘え上手?こうやって次々と女の子を篭絡して行ったの?
ヒロインズの皆さんも慌てて頭を下げてるし。
俺はどうしたものかとケイトを見る。ケイトはコクリと首を縦に振る。
えっ、ケイトさん良いの?マルセル村だよ?最近ようやく自覚したんだけど、あそこ相当おかしい土地よ?
なになに、この馬鹿どもは最近調子に乗ってるから現実を知った方がいいと、ハーレムメンバーの一員と見られるのは大変心外だと。
・・・ケイトさん、色々思う所があるようです。
「・・・分かりました。では寮の方に外出手続きを、正門前に集合といたしましょう。俺たちもそこまでのんびり出来る旅ではありませんのでお早めにお願いします」
俺の言葉に「ありがとう」と礼の言葉を言って訓練場から走るハーレムパーティーの面々。
“折角何の問題もなく領都に来れたのに”
俺は厄介事とまではいかないものの余計なお荷物を抱えての帰村に、大きくため息を吐くのでした。
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