第294話 村人転生者、領都学園を見学する
「へ~、学園の施設ってこんな風になってるんだ。
ねぇケイト、食堂ってどうなってるの?大講堂みたいな感じ?そんでもって空中に燭台が浮いてるとか?
森にジャイアントスパイダーが隠れ住んでたりしないの?隠し部屋に住むフォレストスネークとか、動き出す絵画とか飛び回るレイスとか・・・」
如何にもっぽい制服、そして短杖。
“エク〇ペクト・パト〇ーナム”とか言いたい、めっちゃ言いたい。
歴史ある魔法レンガ作りの重厚な建物、腰に剣を提げる学生や短杖や長杖を持つ生徒たち。本日は終業式と言う事もあり、多くの馬車が学園正門前に車列を作る。
彼らは貴族子弟や有力商会子弟の御迎えか。
社交シーズンが始まる冬の季節は、彼らにとっての戦いの季節でもあるのだ。
「ケビン、そんなに気になるんなら今からでも遅くない、学園に来るべき。そして私と同じ机を並べる」
学園内の様々な施設や生徒たちの様子に目をキラキラさせている俺に対し、ジト目を向けるケイトさん。イヤイヤケイトさん、そうじゃないんですよ。
これは言わばテーマパークに来た観光客の気分。たまに来るから楽しい、普段見れないものを見るからうれしいんであって、そこに参加したい気持ちは大して無いんです。
夢の国は夢であるから楽しいのであって、スタッフになりたい訳じゃない。
そんな事を言っても理解していただけないのが悲しい所ですが。
「ハハハ、それはない。だって学園に来たら大変そうじゃね?あんなのとかいるし」
俺がそう言い顔を向けた方向、そこにはケイトのパーティーメンバーであるミッキーちゃんをナンパするお貴族子弟様。(偏見)
「なぁミッキー、これはお前にとってもいい話なんだぞ?
バーナード様はお前の治癒術師としての腕を大そう買っておられる。お前だって両親に立派に巣立ったところを見せてやりたいだろう?
それにヘルマン子爵領領兵団と言えばグロリア辺境伯様の寄り子衆の中で最も精強と謳われる兵団だ。その一員としてヘルマン子爵家にお仕えできるなど、誇らしくそして心強いじゃないか。
どうだ、この長期休みを利用して一度ヘルマン子爵領を訪ねてみては」
集団の交渉役の様な男子生徒が言葉巧みにミッキーちゃんに迫る。命令ではなくあくまで勧誘、集団で取り囲んではいるものの別に強要はしていませんよと言ったスタイルは、中々に貴族らしくて小憎らしい。
ここは貴族の御狩場、優秀な平民はすぐに目を付けられる。そんなストレスの溜まりそうなところにわざわざ通う?それってどんな罰ゲーム?
自分はごめん被ります。ケイトは・・・がんばって、応援してるから。
「ん、ちょっと行って来る」
そう言い騒ぎの中心に単身乗り込むケイトさん、そこに痺れる憧れる。
いよ、ケイトさん、格好いいぞ!
「ケ、ケイト~」
「ん、ローズはどうしたの?一緒じゃないの?」
さっと集団に割り込んだケイトさん、すかさずミッキーちゃんと合流です。
「う~、はぐれちゃって~」
「ミッキーはすぐにどこかに行ってしまうってローズが心配していた。ミッキーは今度から腰にロープを巻いておくといい」
「え~、それじゃお馬さんと一緒じゃない、ケイトちゃん酷い」
「酷くない、現実的な判断」
どうやらミッキーちゃん、この手の事態の常連のご様子。ケイトがめっちゃ呆れています。腰にロープ巻いとけって結構辛辣です事。
「おうおうおう、お前何邪魔してくれちゃってんだよ。どう見ても今ミッキーと話をしていたのは俺たちだろうがよ。横から急に飛び出してきて何をほのぼのとした空気を「ん。ビッグワーム干し肉ハーブブレンド」あっ、これはこれは、いつもありがとうございます。これって炙って食べると美味しいんですよねって違~~う、そうじゃないから、俺は別に干し肉が欲しい訳じゃ「ごめん、ピリ辛味はベティーが全部食べてしまいました。次の入荷は休み明けになります」ベティー・スワイプ、あの女食べ過ぎだ~~って違うから、そうじゃないから。
俺たちはミッキーの勧誘をね?」
「ミッキー、どこに行ってたのよ。随分探したのよ?ってヘルマン子爵家御一行様じゃありませんか、また懲りずに勧誘ですか?
私達は用がありますので、この辺で失礼してもよろしいでしょうか?」
「ローズ~、怖かったよ~」
「怖かったよ~じゃないでしょう。毎回どっかにいっちゃうんだから。ケイトもどうもありがとう。そう言えばベティーが探してたわよ?」
「ん、分かった。合流する」
短い会話の後、颯爽とミッキーちゃんを連れ去るローズさん。そして残されたヘルマン子爵家御一行様。
「なっ、行っちゃったじゃないか、どうしてくれるんだよ。折角バーナード様がお声掛けして下さったと言うのに」
「ん、本人にその気がないのにいくら頑張っても無駄、他の人材に当たる方が有意義。そしてあなたのツッコミ力は素晴らしい。是非アルバート子爵領で農作業に勤しみませんか?アルバート子爵領では移住者を募集しております。
只今短期入村体験を「ってなんで俺が農家にならないといけないんだよ。アルバート子爵領とか言って要はマルセル村じゃん、畑のお肉の名産地じゃん。
俺にビッグワーム干し肉業者になれって言うのかよ~~~~!!」
素晴らしいツッコミ力、やはり逸材、バーナード様が羨ましい」
ケイトはそう言うと俺に向かい目配せをします。俺は無言で頷くと、ケイトの元へと向かうのでした。
「ヘルマン子爵家の皆様方そしてバーナード様、お初にお目に掛かります」
突然声を掛けて一礼をする俺に訝しみの視線を送る皆様方。
そしてコイツは一体何者だと言った視線をケイトに送る。
「ん、彼は私の想い人、そして相思相愛、この“絆の腕輪”がその証拠。
だからごめんなさい」
「そうなんだ、それは残念って違うから、何で俺が勝手にフラれたことになってるの?えっ、俺って告白とか意思表示とかしてないよね?別にお前に好意なんかってなんで皆して同情の視線を送る?“ポンッ”って肩を叩くな肩を、無理すんなよって違うから~~~!!」
最高です。何この逸材、ケイトがサムズアップする気持ちが良く分かる、本当マルセル村に来てくれないかな~。
俺は収納の腕輪から新作の角無しホーンラビットの燻製を取り出しヘルマン子爵家の皆様にお渡しする。
「これはマルセル村の新作、角無しホーンラビットの燻製になります。未だ試行錯誤の品なため販売はまだ先となりますが、自信を持ってお出し出来る味に仕上がっております。今後ともケイトとマルセル村をよろしくお願いします。
素晴らしい側近をお持ちのバーナード様が本当に羨ましい。彼は逸材、今後ともよい関係を続けられますようお祈りいたします。
ケイト、行こうか」
「ん。あなたは逸材、でも恋愛は別、本当にごめん」
そう言い彼らの前を去る俺たち。背後から聞こえる「だから違うから~~~!!」
と言うツッコミに“彼は最高だ”と改めて思う俺たちなのでありました。
―――――――――
「ケイト、あなたがケビン君と一緒になってボケに回っちゃ駄目じゃない。さっきの彼、二人が去った後地面にへたり込んでたわよ?」
「ん、師匠、それはすまなかった。彼のツッコミはボケがいがある。ちゃんと拾ってくれるのは助かる」
「だよね~、あんな逸材中々出会えないよね。彼は、彼は・・・名前なんて言うの?」
「ん?ツッコミ君?名前・・・」
「あなた達あれだけ揶揄っておいて名前も知らないの?それは流石に酷いわよ?」
「「大変申し訳ありませんでした」」
出会いは突然である。素晴らしい出会い、だがその出会いに浮かれ相手の名前を聞き忘れるとは。どうやら俺氏、相当に学園と言うテーマパークに浮かれている様です。
だって面白いんだもん。
ロマン詰まる学園内、いくら生徒関係者とは言え普段は見て歩く事など叶わず、終業式の後くらいしか見て回る事は許されていません。
要するに年に一度の御開帳?これは楽しまねば。
で、俺とケイトとアナさんの三人がどこに向かっているかと言えば魔法訓練場ですね。なんでもベティーちゃんと約束していたとか。さっきローズさんが探していたと言っていたのもこの事だったそうです。
「ケイト遅い。終業式が終わったら訓練場ねって言ってたじゃない」
「ごめんなさい。ケビンと師匠に学園を案内してたら遅くなった。決して忘れていた訳じゃない」
「ふ~ん、それじゃなんで目を逸らす?ちょっとこっちを見なさいケイト!」
同年代の女子とわちゃわちゃするケイトさん。なんだかとっても楽しそうです。
この世の全てに絶望し、死んだ目をしていたケイトがあんなに元気よく。
やばい、思わず涙が出そう。やっぱりケイトは学園に来てよかった、色んな人と触れ合う事でどんどん己を取り戻して行っている。
俺はマルセル村では与えてあげる事の出来なかった友との語らいをするケイトの姿に、目頭が熱くなるのを止められないのでした。
「ねぇケイト、あなたの彼氏、こっち見ながら泣いてるんだけど、大丈夫?
何か辛い事でもあったの?」
「ん、ケビンのあれはいつもの事。何か一人の世界に浸っているだけ、気にしてはいけない。
それより要件を言う」
ケビンの様子に“この人大丈夫?精神的に追い詰められてるとか?”と大変失礼な事を考えていたベティーは、ケイトの言葉に“あれは見なかった事にしよう”と気持ちを切り替え、話を進めるのでした。
「これから長期休みに入るじゃない?ケイトは寮に残るって話だったから休み中も学園ダンジョンに入れると思っていたんだけど、急にマルセル村に帰る事になっちゃったし。
だからお別れする前にパーティーメンバーで魔法の訓練をしようと思って。
私達は皆領都に残る予定だから」
「ん、流石はパーティーリーダー。気遣いの出来る女は良い妻になるとセシルお婆さんが言っていた」
「ブッ、何言ってるのよ、私とアレンは別に」
「これは一般論、誰もアレンの事とは言っていない。ベティーの乙女心炸裂、ヒューヒュー」
「な、ケイト~~~!!」
「お~い、ベティー、ケイト、お待たせ。でもケイトはマルセル村に帰っちゃうのか。寂しくなるけど大好きなお父さんに会えるんだもんな、それを邪魔しちゃいけないよね」
女の子たちのわちゃわちゃ、そして颯爽と現れる主人公様。
アレン君爽やか、超爽やか。入学式の時に見たあのおどおどした感じがすっかり鳴りを潜めて、とっても男らしいと言うか頼もしさすら感じる。
これは観察しがいがあると言うもの、ハーレム主人公様はこうでなければ。
・・・ジェイク君、君に足りないのはこの爽やかさだと思うぞ?でも仮に爽やかさがあってもエミリーちゃんが許さない?ケルピーすら屈服させる黄金の右が。
ジェイク君のハーレム主人公への道は、果てしなく険しい様です。
「それじゃ早速始めましょう。先ずはケイトからね、ダークボールとダークアローの連射をお願い」
「ん。」
ケイトはベティーの指示に従い練習場の標的に向かい手を翳して小声で詠唱を始める。
「あっ、ケイト、詠唱短縮解禁で。ザルバさんがアルバート子爵家騎士になったからもう貴族の勧誘を気にしなくてもいいぞ。何か言われたら“アルバート子爵家に何かございますか?”とでも言ってやれ。
それと弾数は二十発迄解禁で」
「!?ん♪
<ダークアロー><ダークアロー><ダークアロー><ダークアロー><ダークアロー><ダークボール><ダークボール><ダークボール><ダークボール><ダークボール><ダークアロー><ダークアロー><ダークアロー><ダークアロー><ダークアロー><ダークボール><ダークボール><ダークボール><ダークボール><ダークボール>」
“バビュ~~~~~~~~~~~~~~~ズバズバズバズバズバドッドッドッドッドッズバズバズバズバズバドッドッドッドッドッ”
うん、見事な連射。勢いもちゃんと落としているし問題ないでしょう。
短縮詠唱だから合間が無い様に見えるけど的に向かう速度は控えめだし、これなら多少評価が上がるくらいで・・・あら?ベティーちゃんが何故か頭を抱えていらっしゃる。
「ケイト~~~~!!あんた短縮詠唱の事隠してたでしょう、それに何あの魔法弾の数、行き成り倍って、普通そんなに言われてすぐに魔力量は増えないから、努力して少しづつ伸ばすものだから。
あなたこれからはちゃんと働きなさいよね!
それと命中精度良過ぎ!!全弾同じ場所ってどうなってるのよ、いつもはもっとばらけてるじゃない!」
「ん、いつもは動く的を想定して撃っている。ゴブリンの棍棒を持つ手元だけを狙うのは結構難しい。厳しい想定の無い訓練に上達はない」
そう言いどうだとばかりに胸を張るケイトに、再び頭を抱えるベティーちゃんなのでありました。
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