第293話 村人転生者、夜のお散歩に出掛ける

村人ケビンは思う、“創作物に出て来るハーレム系主人公様ってスゲー”と。

アナさんと向かった領都グルセリアでのお買い物、出鼻をくじかれる形でのパトリシアお嬢様との合流、そして街中でのケイトとの遭遇。

・・・めっちゃ疲れたわ、洒落にならんわ、俺ってどこの主人公様?とか勘違いしそうになったわ。

在りし日の記憶にある主人公様方、サブヒロインに強引に連れて行かれたお祭り会場でヒロインとばったりなんてあるじゃん?あれっておかしいよね?

周辺地域のお祭り、同年代の若者だったら行くでしょう。ばったり会うって当たり前じゃん、無論会わない事だってあるけどさ。

今回の場合はケイトさんですわ、この長期休みは寂しく学園寮で過ごすと思いきやケビン君との不意の遭遇、しかもマルセル村への御迎えときたもんだ。

聞いてないわ、驚くわ、嬉しいわってテンション上げてたらアナさんにパトリシアお嬢様の登場って意味解らんわなそりゃ。

闇属性魔力駄々洩れ、魔力の腕輪さん大忙し。収納の腕輪さんは俺からの魔力供給だし、黒鴉は収納の中だしね。

いくら何でも街の買い物に帯剣ってのもね~。そんなの冒険者くらいよ?物騒じゃん?

魔力の腕輪さんにはどうやったら労を労えるのか、神具だから光属性魔力を与えたら回復する?今度あなた様にでも聞いてみよう。


まぁそんなんで大変不機嫌になられたケイトさんですが、そこは社交界の華パトリシアお嬢様。

「まぁ、あなた様がお爺様から伺ったマルセル村のケイト様ですのね。大変優秀な闇属性魔導士であらせられるとか。学園で勉強しマルセル村でケビン様のお役に立てるように頑張っていらっしゃるだなんて、なんて健気なんでしょう。

それ程強く思われてるケビン様が羨ましいですわ。是非私ともお友達になって下さいませ」


社交慣れしていないケイトをころっと篭絡、ケイトが腰のポーチから取り出したビッグワーム干し肉(ピリ辛風味)を受け取った際も。

「まぁ、これが話に聞いたビッグワーム干し肉なのですね?クンクン、これは大変人気の高いピリ辛風味ではございませんの?このような素晴らしいものを頂いてもよろしいのですか?本当にありがとうございます。

屋敷に戻りましたら家族と共にいただかせてもらいますね」(ニッコリ)

って感じで感激をアピール。

アナさん、ケイト、共に大変仲の良い関係を築かれておられました。


・・・お貴族様のコミュ力って怖い。

えっ、高位貴族の御令嬢様って皆こうなの?ジミーにジェイク君、君たち大丈夫?

特にジェイク君はエミリーちゃんの腹パンが、・・・エミリーちゃんも篭絡しちゃうから大丈夫なのかな?

いずれにしろよき出会いがある事を祈ろう、ジェイク君の身の安全の為に。


そんなこんなで街でのお買い物を楽しんだお三方、ブラッキーの<業務連絡>で聞いていたアレン君のハーレム主人公っぷりも見ることが出来、俺的にも大変満足のいく休日と相成りました。

これも全てパトリシアお嬢様のお陰、このお礼はいずれまた、ホーンラビットの二期生をご紹介すると言う形でお返しさせて頂きます。


――――――――――――


「団長、第三騎士団総員揃いました。いつでも突入できます」

「そうか、だがあまり気負い過ぎるな、この作戦に時間が掛かる事は始めから分かっている事だ。

討伐班はオークが出現し次第これを討伐、ドロップアイテムは回収班に任せて周囲の警戒を怠るなよ。捜索班は油断せず怪しい箇所を片っ端から当たれ。

過去のダンジョンコア発見報告からもその状態は様々、洞窟の最奥に鎮座していたものや隠し部屋の宝箱に入っていたもの、ダンジョンボスと呼ばれる魔物に守られていたものなど複数の報告例が上げられている。

このゴブリンダンジョンからはコアらしきものの発見情報が上がっていない事から隠し部屋説が濃厚だ。どんな仕掛けで隠し部屋が用意されているのかは皆目見当もつかん、注意深く捜索に当たる様に、以上だ」


「「「了解しました」」」


人々の寝静まる深夜、領都の外れの森の中に佇む洞窟の前に集まる多くの兵士。

彼らは団長と呼ばれる者の指揮の下その洞窟、通称ゴブリンダンジョンと呼ばれる低階層ダンジョンへと侵入していく。


そしてそんな様子を気配を消し眺める一つの影。

この私ケビン君なんですけどね。

えっとこれって一体何?今年になってからオーク階層の出現でにわかに注目される様になったゴブリンダンジョン、小金目的の冒険者の来訪でダンジョンも賑わい冒険者ギルドもお肉屋さんもニッコリ、ダンジョンコアも冒険者たちが垂れ流す余剰魔力にニッコリって言ういい循環が続いていたんですけどね、何か聞こえてきた話ぶりだとダンジョンコアを探してるって感じ?

あんなものどうしようって言うのさ、魔石と違って利用法なんて確立してないんじゃないの?


「団長殿、捜索の方はいかがですかな?」

団長と呼ばれる者に声を掛けて来たのは、いかにも魔法使いか研究者と言った紺色のローブを羽織った男性。


「これは魔導士殿、わざわざ足をお運びいただきありがとうございます。魔導師殿の御助言の通り、現在の最下層である第四層を中心に捜索を行っておりますが未だ発見には至りません。

本日は第三層、こちらも冬場の階層変動で生まれた新階層になりますのでそちらの捜索に当たらせようかと」

団長は魔導士の訪れに礼をし、作戦の進歩状況を説明する。


「なるほど、確かに二つの階層が同時に現れた例は報告されていませんからね、可能性はあるかもしれません。ただダンジョンは未だ分かっていない事の方が多い。

幸いここのダンジョンはそこまでの広大さはありません、じっくり取り組みましょう。

それでも見つからなければ第一層、第二層も捜索範囲に入れるしかありませんが、それは第三層の捜索が終わってからでもいいでしょう」


「そうですね、第一層と第二層は第三層・第四層に比べれば本当に狭い。捜索も容易ですからな。

しかし人工ダンジョンですか、確か学園にあるものがそうだとか。ですがその成長にはそれなりの期間が必要との事だったはずですが」

現在ダンジョンコアの捜索を行っているここゴブリンダンジョンは嘗て不人気ダンジョンと呼ばれ、領都のお荷物と揶揄される場所であった。

だが現在オークの出現する新階層が出来た事でその評価は一変、中堅冒険者の良い稼ぎ所として、冬の領都の食糧事情を変えるかもしれない猟場として注目されている人気ダンジョンに生まれ変わっていた。


「団長さんの懸念も分かります。人工ダンジョンの作製にはその核となるダンジョンコアが必要、そしてその育成には少なくとも十年の月日を有していた。

だがそれは半世紀以前の話です。人工ダンジョン作製技術は日々様々な副次的発見を持って進化しています。

現在では約二年で有用なダンジョンへと成長させる事の出来る技術が確立しています。

そして一つのダンジョンコアから作り出せるダンジョン数も以前の二~三カ所であったものが六ケ所に増えました。

詳しい製法は機密となるためお教え出来ませんが、これは画期的な技術革新の賜物なのです。

タスマニア閣下はこのダンジョンの活用を持ってグロリア辺境伯領の活性化を図るおつもりの様です。現在の様な学生の育成ばかりでなく、新兵の訓練や冒険者たちの訓練施設として、いずれは冬場の食糧確保の為の生産基地としてもお考えなのでしょう。

難を言えばダンジョンに出現する魔物を選ぶことが出来ない点ですが、これは今後の研究課題と言った所でしょうか」

魔導師はそう言い腕組みをする。確かに魔物の選定が自由に出来る様になれば産業の発展や食料確保の点からも大いに活用されるべき施設となるだろう。

団長はこの計画の発案者である次期当主の深謀に唸りを上げる。


「では魔導士殿はこちらのテントに、兵士たちの報告を聞き捜索の助言を頂ければと思います」

団長はそう言い魔導士をテントへと案内する。グロリア辺境伯領の未来の為に。


・・・ってダンジョンコアさん狩られちゃうじゃん。ダンジョンマスター殺されっちゃうじゃん。

でもダンジョンの養殖?前にザルバさんに聞いた学園ダンジョンが人工ダンジョンだったって話だっけ?学園の生徒はそのダンジョンで手に入れたアイテムを購買で売って生活費に充てるとかなんとか。生徒の育成も兼ねた上手いやり方だと感心したもんだけど、それを領地運営に組み込むって、かなり大胆。

場所によってはダンジョン都市と呼ばれる冒険者の街もあるけど、今回の計画はより領民の生活に密着した形でのダンジョン運営、一攫千金よりも生活物資や素材を求めてと言った所かな?

初期投資は大変だけど長い目で見れば十分回収できる見込みのある計画だって事は学園のダンジョンが証明してるしね、悪くない視点だと思います。


ただまぁそれってのはあくまで人間側からの都合、ダンジョンコアがどう思っているのかは分からない。って事でやって来ましたマスタールーム。

「ダンマスちわっす、ケビンで~す」


“ギャウギャ、ウギャウギャ”

“うわ、びっくりした”ってそれだけ寝こけてたらそりゃ驚くっての。

このダンジョンマスター、人を駄目にするソファーに仰向けになって高いびき掻いてやんの。危機意識ゼロ、最近ダンジョンに来る冒険者が増えて経営が上手く行ってるもんだから余裕をかましていた様です。


「ダンマス久し振り、なんか部屋の内装が変わった?床も平らになってるし岩場のゴツゴツした感じもないし、めっちゃ快適空間になってるじゃん。

まぁそれは良いんだけどさ、なんかダンジョンコアを狙ってる連中がわんさと押し寄せてるって知ってる?

今第四層と第三層で隠し部屋の捜索を行ってるみたい。いずれここも見つかっちゃうと思うんだけど?」

俺の言葉に目を見開くダンマス、いそぎダンジョンコアに触れ第四層と第三層の様子を映し出し始めました。


「うわ~、訓練された兵士の蹂躙って酷。出現したオークが集団に取り囲まれて瞬殺じゃん。戦闘時間稼げないじゃん。

こんなのやられたらダンジョン側が赤字にならない?」

“ウギャギャ~”

頭を抱えるダンマス。しかも目的が自身の命だから目も当てられない。


「それでどうする?連中の目的は人工ダンジョンの核にするのに必要なダンジョンコアを手に入れる事。ダンジョンコア的には増殖のチャンスとも言えなくもないけど、その辺の感じ方は俺には理解出来ない話だから。

ダンジョンコア的に取れる手段は三つ、一つはこのまま連中に捜索をさせて発見されて人工ダンジョンの核となる事、連中の話では六つくらいに分裂出来るらしいよ?

もう一つは徹底抗戦。結構な量の魔力を渡してあったはずだから魔物を大量出現させるなり階層をどんどん増やすなりして連中を翻弄するって手も取れるんじゃない?

んで最後は引っ越し。ダミーのダンジョンコアでも作ってダンジョンマスターと一緒に逃げる。そんでまた別の土地でダンジョンを作ったら?

連中はダンジョンコアさえあればいいんだから、ちゃんと人工ダンジョンの核になりそうな偽物さえ用意しておけば捜索なんてしないでしょう。連中はここのダンジョンが目的なんじゃなくって、単にダンジョンコアが目的なんだから」


“グギャグ”

“ポワンッポワンッポワンッ”

俺の言葉に悲しげな声を上げるダンマス。ダンジョンコアの光もなんだか寂しそう。


“グギャ、グギャギャグギャ”

「えっ、ダンマスってダンジョンから出れないの?ダンジョンコアが持ち出せるんだからてっきり出れると思ってた。でもそれってどう言う事なの?」


“グギッ、グギャギャグ”

「ふむふむ、ダンジョンコアからある一定の距離以上離れる事が出来ないと。

・・・それってダンジョンコアと一緒なら問題なくね?試しにやってみる?

ダンジョンコア、悪いんだけどダミーコア作ってくれる?魔力が必要なら渡すから」


“ポワンッポワンッ”

「今までの貯蓄が有り余ってるから余裕なんだ、それじゃよろしく」


“ピカ~~~~”

光り輝くダンジョンコア、そしてその光が収まった時、ダンジョンの床にダンジョンコアと全く同じ光る球体が現れるのであった。


「おぉ~、これが偽装コア。えっ、違う?新しいダンジョンコアを作ったの?ダンジョンコアって作れるんだ、そうやって子供のコアを増やすと、なるほどね。

でもこれってどうやって外に運び出すのよ。

宝箱に入れておくの?そうすると勝手に人間が持って行くと。そう言えばさっきそんな話をしていた様な?だったらそれですべて解決?

いや、念のために逃げれるなら逃げておいた方がいいな。それじゃダンマス、ダンジョンコアを持ってくれる?ちょっと俺の影空間に入れるかどうか試すから」

そう言いダンマスと共に影空間に潜り込む俺氏。


「どうよダンマス、平気そう?」

“グギャ、グギャギャウ”


「大丈夫そうならいいんだけど。それでダンジョンコアは?問題なさげ?」

“ホワンッホワンッホワンッ”


「ならいいや。それじゃ一度ダンジョンから出てみるね、何かあったらすぐ知らせて欲しいからダンマスとダンジョンコアに<短期雇用契約>を結ぶよ。

契約内容は特に決めないけど、<業務連絡>ってスキルで俺に連絡出来るから。何か異変が起きたら連絡してくれる?」


“グギャギャグ”

“ホワンホワン”


俺はダンマスとコアに<短期雇用契約>と唱えると、契約を結び一度影の外へ。

マスタールーム内に濃厚な闇属性魔力を広げダンマスの私物を全て収納、部屋に残された台座に魔力の触腕で新しいダンジョンコアを載せ、その場を後にするのでした。


月明かりに照らされた道を宿屋に向かい一人歩く。

闇夜に浮かぶ建物群のシルエットが、自分が今領都にいるのだと言う事を教えてくれる。

ダンマスとダンジョンコアからは“全然問題ない”と言う<業務連絡>を受けている。殆ど思い付きの賭けだっただけに、上手く行って本当に良かったと胸を撫で下ろす。

領都は変わる、人工ダンジョンを取り入れた新しい形のダンジョン都市へと。

この試みが上手く行くかどうかは分からない、そしてその衝撃がどの様に波及していくのかも。


“願わくばその影響がマルセル村に及びませんように”

ケビンは空に浮かぶ月を眺め、そう祈らずにはいられないのでした。

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