第274話 村人転生者、ロマン装備を作る (3)
「よし、覚悟完了。開幕土下座だな、うん」
事態の収拾はマルセル村に帰ってから、幸い御神木様が結界を張って下さったのでここの様子は周りから見えないですし、もう既に光ってる大樹もありませんし。
目の前に神聖な気配漂う大樹があるじゃないか?
だから結界内なの、誰にも分からないものは無いのと一緒なの。
でも今度御神木様(偽)でも用意しておかないと。
「ところで御神木様、結界の外に以前の御神木様の姿に似た偽物の大樹って作れます?
進んだ先が大森林に繋がる場所の辺りがいいんですけど」
“ワサワサワサ”
「えっ、出来るんですか?眷属が作れるからそいつにやらせると、それじゃ是非。
多分騒ぎを聞きつけて確認させろって連中が出ると思うんですよね。最終的には森に入れないといけなくなると思うんで、よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、樹上からボトリと落ちる
御神木様隠蔽計画、何とかなりそうです。
「そうじゃないですよ御神木様、最強装備の話ですよ。何か脇道にそれまくっちゃってますけど、“ワサワサワサ”えっ?今なら何とかなりそう?それってどう言う事です?
紬を連れて来て欲しいと、了解です」
俺は御神木様に言われるがまま、ブー太郎のログハウスに。そこには部屋の隅で身を縮こまらせている熊親子ともぞもぞ動いてる紬、そして案の定目を押さえて転げ回っているブー太郎がですね~。
ブー太郎さん、お約束は裏切らないんですね。その身体を張ったリアクション芸人魂、嫌いじゃないです。
「ブー太郎、ポーションやるからちょっと落ち着け。クマ子とクマ吉ももう大丈夫だぞ、紬は、ブー太郎が庇ってくれたんだ。ブー太郎、偉いじゃないか。
庇おうとした時目を開けちゃったって、まぁそれは不可抗力?格好いいぞブー太郎」
ブー太郎先生、思った以上に店長さんしていた様です。周りの為に身体を張るブー太郎先生、流石です。
俺はブー太郎の目にポーションを掛け、残りを飲ませると、念の為熊親子と紬にもポーションを与えるのでした。
「御神木様、お待たせしました」
俺が紬を抱えて御神木様のところに戻ると、御神木様の木の葉が小山になっているではありませんか。えっとこれを紬に食べさせろと?
“ワサワサワサ”
新しくなった御神木様の木の葉で更なる強化を施すんですね。
「紬、御神木様が新しい木の葉をくださったぞ。これを食べてから進化を行う、そう言う事ですね、御神木様?」
“ワサワサワサ”
「ちょっと違う?御神木様からもお力をお与えになって下さるんですか?スゲー、御神木様ってそんな事も出来る様になったんですか!?」
“ワサ、ワサワサワサワサ”
御神木様、超ドヤ顔。って言うかまた身体が光ってますから、眩しいですから、落ち着いて下さい!!
そんな感じで俺と御神木様が戯れている間、紬と言えば夢中になって木の葉をむさぼり食べておられます。言葉で表現するならば、“う~ま~い~ぞ~~~~~!!”と言った所。全身から喜びのオーラが迸ってですね、と言うか本当に何か輝いてるんですけど?御神木様、これって大丈夫なんですか?・・・多分?
何分初めてだからよく分からないと、まぁ進化したてですしね、初めては誰にでもありますよね。
俺と御神木様はこの大食い女王の戦いを、おしゃべりをしながらぼ~っと眺めるしかないのでした。
“キュピ~、ゴロンゴロン”
“お腹一杯、もう食べれませ~ん”と言ってゴロゴロ転がる紬さん。
あの~、紬さん?あなた進化もしてないのに身体が大きくなっていませんか?
以前父ヘンリーから聞いたジャイアントキャタピラー並みに大きくなってるんですけど?あなたが食べたのって木の葉ですよね?何でそんなに膨らむの?意味解らないんですけど?
魔物の生態は複雑怪奇、何故か木の葉を食べて巨大化した紬さん。でもこれなら最強生物の抜け殻素材に対抗できる繊維も期待出来るか?
俺がゴロゴロと地面を転がる巨大芋虫を眺めながらそんな思いに浸っていると、パ~~~ッと光り輝き出す御神木様。今度は一体なんだと言うのでしょうか?
“キンコン♪
<長期雇用>対象、個体名:御神木様より<長期雇用>対象、個体名:紬に対し、<精霊契約>の申請がなされました。申請を許可なさいますか?”
「・・・はぁ?<精霊契約>?
御神木様~、なんか紬に精霊契約って奴の申請をしてます?魔物の雇用主の関係でこっちに通知が来てるんですけど。
御神木様と紬の間に繋がりが出来るんですか。それでより存在値が上昇すると、なるほど?
紬はどうする?行っちゃうの?何かお前軽くない?まぁいいけど。
それじゃ一緒に<昇進>もしちゃう?了解。
御神木様、それじゃ紬の<昇進>も一緒に行うんで少し待って貰えます?ブー太郎たちに話をしてきますんで」
俺は急ぎログハウスに向かいブー太郎たちに“今度は紬が<昇進>するぞ~”と伝えるのでした。
先程痛い目に遭ったばかりのブー太郎、ビビるビビる。三体には熊親子の豆腐ハウスに移動して貰って、そこを複合生活魔法<シェルター>で覆い安全確保、終わったら知らせに来ると言い残して再び御神木様の下に。
「それじゃ紬さん、行ってみようか!<対象:紬・昇進>、<シェルター>!」
“ガバッ”
瞬時に展開された土のドーム、憶えていてよかった複合生活魔法、これ一々触腕で土捏ねてってやってたら間に合わなかったと思います。まぁその時は塹壕でも掘って対処したんですけどね、失明はもう嫌でござる。
暫し待ってからドームを<破砕>で壊し、外に顔を出すとそこには・・・繭?
その場にいるはずの紬の進化体はおらず、目の前には何故か俺の身の丈ほどの大きさの巨大な繭が。
「御神木様、一体何が起きてるのか分かります?
ふむふむ、<昇進>が始まって紬が強烈な発光を始めたと思ったら口から糸を吐いて繭を作り始めたと。発光が収まった時には今の状態になっていたと。
うん、意味が分からん」
へ~、でもキャタピラーって繭を作るんだ、初めて知った。と言うか、以前父ヘンリーに聞いた話じゃキャタピラーはあの姿が完成形で変態はしないんじゃなかったっけ?条件が揃わなかったから出来なかっただけ?
やっぱり魔物って分からないわ。
「御神木様、俺ちょっとブー太郎のところに行ってきますね、終わった事を知らせないといけないんで」
俺は御神木様に一言お声掛けすると、ブー太郎たちを覆っている土のドームを取り壊す為に、急ぎ駆け出すのでした。
「で、これが進化した紬。なんか繭になっちゃったんだよね」
“フゴブヒフゴ”
““ガウガウガウ””
御神木様の下に集まった俺たちは未だにピクリとも動かない紬(繭状態)を前に、“へ~、スゲ~”と感想を述べる。
「あっ、そう言えば御神木様、御神木様の進化した時の光って失明するほど強烈だったじゃないですか?森の魔物たちって大丈夫なんですか?ホーンラビットがショック死したりしてません?」
“・・・・ワサ、ワサワサワサワサ”
どうやら結構な頭数が気を失ったり悶え苦しんでいる模様、これはちょっとかわいそうな事をしたかも。
“ワサワサワサ”
突如御神木様が光り輝き出し、そのお身体から光の粒子が森全体に広がり始めました。これって・・・
“フゴッ”
あっ、ひっくり返ってたボアが起き上がって頭振ってる。こっちに気が付いて逃げ出した・・・。まさか広域治癒魔法?えっ、結界内全体に行ったんですか?結界外は被害がない様子だったから放置と。周囲二十キロを検査したんですか?御神木様半端ね~。
って事は今回の件でマルセル村に被害はなかったって事ですね、ほっと一安心でございます。
“ピシッ、ピシピシピシッ”
音を立て、縦に真っ直ぐ亀裂の入る繭。
“ベキベキベキッ、ガバッ”
流れる様な白く美しい髪、額から伸びる二本の金色の長い髪、あれは触覚か?襟元には白いファーの襟巻の様なもの、背中に伸びる長いマントの様なものは羽?美しいスタイルのその女性は、ゆっくりと瞼を開くとこちらに顔を向ける。その瞳は黒曜石のように黒く、人のそれとはまるで違うもの。
彼女は俺の姿を認めると、美しい唇をゆっくりと開き。
“キュイ~~~~~”
「“お腹減った~”ってそこ台詞違うから、折角の神秘的な雰囲気ぶち壊しだから~~!!」
幾ら姿が変わろうとも、紬は紬だったようです。
“モシャモシャモシャモシャ”
小山に積まれたご神木様の木の葉、それを只管にむさぼる美しい人“紬”。
何故か人型になっちゃったんですけど?これって一体?
‟ワサワサワサ”
御神木様と繋がった影響なんですか?御神木様も人型を出せるんですか?スゲ~。
“モゴモゴモゴモゴ”
地面から伸びた数本の御神木様の根っこ、絡み合い交じり合い、それは一体の人型を顕現させる。
その姿は森の偉丈夫、壮年の木こりと言った風体の男性が、一人佇んでいるのでした。
「・・・ケビン、・・・どうだ?」
「マジですか、御神木様、声が出せるんですか?人と変わらないじゃないですか」
「練習、・・・必要。話す、・・・難しい」
「そりゃそうですよ、十分練習してください。あっ、ブー太郎が話し相手になりますんで、クマ子とクマ吉も頼むぞ?」
“フゴフゴフ~”
““ガウガ、グガグガ””
任せろとばかりに返事をする三体、御神木様の事はこの三体に任せておけば大丈夫だろう。
問題は・・・。
“ムシャムシャムシャムシャ”
「お~、紬~、食べ終わってからでいいから取り敢えず服を着ようか?思いっきり人型だから、細部まで人って何でなん?区別付かないから。
服装は動きやすいツナギ姿でどうよ?こんな感じの奴、色合いは白でいいんじゃない?髪色とも合うし」
俺はそう言うと収納の腕輪からポンポコラクーンの時に着ていたツナギを取り出し、紬に見せるのでした。
“キュイッ、キュキュ~♪”
お腹も膨れた様で早速ツナギを作り始めた紬、中空に向け晒された紬の掌からは無数の糸が飛び出し、まるで3Dプリンターの様に服が形作られて行く。
“キュイキュイ?”
「ボタンですか?御神木様の枝から削った奴がありますんで、それで。それと背中のポンポコ建設のロゴは無しでお願いします」
“キュイ~”
「えっ、ロゴが欲しい?それじゃケビン建設で、マークは御神木様の木の葉でいいんじゃないかと」
“キュキュ~♪”
何故か大喜びの紬、こいつもロマンが分かる部類なんだろうか。
良いよね、ロゴ。企業もののTシャツってなんか楽しいもんね。
“キュキュッキュ~♪”
完成~と言って掲げられたものは背中にケビン建設と刺繍されたツナギ。確りご神木様の葉っぱのマーク付き。でもこの葉っぱのマーク、どこかで見た事がある様な?
あっ、薬師ギルドのマークじゃん。見つかったら商標がどうのって言われちゃう?
一着だけだし問題ないよね、今度新しいマークを考えないとな~。
で、早速お着換えして貰ってって、背中の羽が邪魔じゃん。
収納可能なの?あなた様と同じじゃん、便利な身体だな、おい。
ボタンを留めて、これでOKです。
「・・・じゃないよ、糸だよ糸、最強生物の素材に対抗する為の糸だよ!
なんかあっち行ったりこっち行ったりで中々先に進めないんですけど~!!」
思わず叫び声を上げた俺は悪くないと思います。
“キュキュッ!!”
両手の拳をギュッと握り気合いを入れる紬。見詰めるは中空、開いた両の掌を向け細い繊維を創り出す。その繊維たちが縒り合い紡がれる一筋の流れ。
金色に輝くそれは美しい芸術。糸、それは素材にして完成品、その美しさは全ての人々を魅了する。
これは行ける、だがこの糸に相応しい素材となると・・・。
スライム液は大福から貰って来たから大丈夫として、魔力水は闇属性魔力マシマシマシマシウォーターで行けるはず。
問題は墨、余程の素材じゃないと対抗出来ないか。
煤は御神木様に樹脂を貰ってそれを燃やして作るとして、膠?最強生物の脱皮革から取れるの?
まぁやれるだけやってみるか。
夢は大きく、されど高く果てしなく。
夢のロマン装備へ向けて一歩、また一歩。
俺は御神木様と紬に礼を言うと、金色の糸と御神木様の樹脂を収納の腕輪に仕舞いその場を後にするの“キュイ?”・・・紬も一緒に帰るの?
“キュイキュイキュ~♪”
ウッ、そんなつぶらな瞳(全部真っ黒ですが)で見詰められると断れん。アナさんのところには既にキャロルとマッシュ、月影がいるからな~。ベネットお婆さんに頼んで・・・
“キュキュ~♪”
“パ~~~~ッ”
突如発光する紬、するとその光が収まった時、そこには前よりも若干大きくなった芋虫の紬が姿を現したのでした。
「変身・・・だと!?」
キャロルとマッシュに続き再び現れる変身魔物、クッ、これは燃える!!
“キュッ!”
“バサッ”
「ウイングモードだと!?」
背中から伸びる四本の
「フライングキャタピラー!?カッケー!!」
俺が歓声を上げていると、次の瞬間。
“キラキラキラ”
光の粒子を纏い姿を消す紬。
「ス、ス、ス、ステルスモードだと!?うっひょ~~~~!!
紬先生、最高です!!」
超絶進化を遂げたキャタピラーの紬、その向かった先は<仮性心>の夢を詰め込んだファンタジーな存在であった。
俺は再び姿を現し頭の上にパイルダーオンした紬を優しく撫でると、御神木様やブー太郎たちに手を振り、スキップでマルセル村へと帰るのでした。
村で待つアルバート子爵やあなた様への説明と言う名のお説教が待っている事など、忘却の彼方に置き去りにして。
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