第258話 村人転生者、酔っぱらいの愚痴を聞く (3)
“マスター、お代わりちょうだ~い!”
頭にキンキン響く呼び声(思念)に、無言で光属性マシマシマシマシ蜂蜜カクテル(キラービーバージョン)の入った甕をテーブルに置き、その隣に木製のお玉を置く俺氏。
酔っぱらいは“よそってよ~、マスターのけちんぼ~”とか思念を飛ばして来ますが、こっちは今それどころではないので取り敢えず放置で。
「どうやら召喚術は“田舎暮らし(生活)”に内包された様ですね。これでしたら鑑定でバレる事もないでしょう。それと<魔力枯渇状態異常完全無効>に<魔力状態異常完全無効>、<魔力超回復>ですか。新たに<魔力支配>に統合されるスキルが凄まじいのですが?
<身体支配>に統合されたのが<剛腕剛脚>、<鉄壁無双>、<体力超回復>、<身体超回復>ってどんな地獄の修行を繰り広げたらそんなスキルに目覚めるんですか?ケビン君は一体何を目指しているのですか?
まぁそれは置いておきましょう。肝心なのは<召喚術>と<魔物の雇用主>の<出張>と言うスキルです。
“管理者権限、スキル詳細”」
スキル詳細
<召喚術>
召喚の魔法陣により対象に呼び掛け召喚を行う事が出来る。対象が召喚に応じるか否かは任意であり、不特定多数の者を強制的に召喚する事は出来ない。
また召喚主は対象がその場に存在する限り魔力を消費し、その消費魔力は対象の存在値の大きさに比例する。
召喚者は対象を任意で送還する事が可能である。
特記事項:
対象は召喚主を攻撃または害する事が出来ない。召喚主は対象を攻撃または害する事が出来ない。召喚主が対象に他者に対する戦闘行為を依頼し、対象がそれに応じた場合はその限りではない。
「・・・これって結構使い勝手が難しいスキルですね。要するに<魔物の雇用主>の召喚版、しかも対象は不特定多数じゃないって事はあらかじめ特定する必要があるって事ですよね?」
「そうですね。対象が我々の様な聖なる側に偏っていない分様々な可能性がありますが、簡単ではないでしょう。それにもし召喚中に魔力枯渇を起こしたらどうなるのか、おそらくは自動的に送還されるのでしょうが、召喚者が何らかの形で命を落としたり気を失った場合など、検証が必要なスキルではありますね」
本部長様は中空に浮かぶステータス画面を見ながら考え込まれます。
召喚中常に魔力を使うと言った文言は、おそらくスキルとなった事で予め用意しなければならない聖域や魔法陣と言った条件が緩和された分、魔力で補う様になったと言う事なのでしょう。
逆に言えばそれらの条件を揃えてしまえば、現在この場にいるあなた様や本部長様の様に魔力消費無くお呼びする事が出来ると言う事でもあります。
それは土属性魔法の<クリエートブロック>と生活魔法の<ブロック>によるレンガ作りとの関係と似た様なものなのでしょう。
スキル詳細
<魔物の雇用主・出張>
長期雇用契約を結んでいる魔物に呼び掛ける事で、出張業務を行って貰う事が出来る。その場合雇用魔物の承認と出張手当(日当)として別途魔力を支払う必要がある。対象魔物は業務終了後、雇用主の任意により送還される。
「・・・出張手当が貰えるんですか、羨ましい。
<魔物の雇用主>は本当に雇用関係が確りしているんですね」
何故かスキル説明を読んで遠い目をする本部長様。
えっ、もしかして天界に出張手当は無いんですか?業務の一環?
えっとそれじゃ有給なんかは・・・異世界転移者が書いた小説で読んだことがあると、そうなんですか、お疲れ様です。
・・・う~ん、これはあれだね社会保障制度の違いなんだろうね。職人の住み込み弟子なんかも休みはあっても有給なんかは無いもんな~。
休みを取ってるのに金をくれ?嘗めてんのか?って話なんだろうな、うん。
時代の違い、社会成熟度の違い。まぁ世界そのものが違うのに一緒くたに考える方が間違っているかと。
郷に入れば郷に従え、その上で命懸けで抗え、叶えたい望みがあるのなら。
全ての異世界転生者に送りたい言葉ですな~。
不衛生でのマヨネーズ、駄目、絶対って奴です。
「本部長様、お疲れの様ですし一杯お出しいたしましょうか?何かあなた様も先ほどお渡しした甕の中身を空にしてしまった様ですので、ここは光属性魔力マシマシマシマシウォーターによる水割りなどいかがでしょう。
本部長様より
俺は色々と考えを巡らせてお疲れの本部長様に着座を促し、まったりとした香りのするお酒で水割りを作り、お二方に差し出すのでした。
“れすかられ、わらひわれ、わらひわスピー”
酔っぱらい一号、遂に陥落。って言うかどんだけ飲むんだあなた様、甕二つに水割り四十杯って。あんたの胃袋は底なしか!?アイアンストマックなのか!?
あっ、そう言えば高位存在だった。端から造りが違うんでした、比べるのも烏滸がましいですね、うん。
何か威厳がな~、あなた様って疲れたOL(総合職)にしか見えないんだよな~。
あなた様と本部長様に光属性魔力マシマシマシマシウォーターと本部長様より頂いたブランデー風のお酒の水割りをお出ししたところ、あなた様の絡み酒がお隣で呑まれている本部長様にですね~。
これはあれですね、酔いが醒めてから真っ青になるパターンですね。
あなた様、あなたは良い方だったよ。(合掌)
「本部長様、こんな事をお聞きするのは憚られるかもしれませんが、あちらの世界のお仕事と言うものはここまで心労の溜まるものなのでしょうか?
何か見ていていたたまれないのですが」
俺の言葉に苦笑いを浮かべる本部長様。どうもあちらの世界も地上世界の様に複雑な人間関係が存在するとの事でした。
「お恥ずかしい話、天界にも生まれや家柄による階層意識と言うモノがあるんですよ。私たちの仕事上の階層区分、上級天使、中級天使、下級天使と言ったものもその一つですね。
上級の家の者同士は結束し合い、自分たちに親しい者を上の階級に引き上げようとする。
私たちは皆女神様の手足ですので女神様のご意思に沿うように行動します。ですがその解釈に関してはズレが生じる。時には天使同士でぶつかり合う事もある。
これは良くも悪くも天界が一つの世界として成立していることからくる弊害。私たちは地上世界を管理するためのシステムと言うだけでなく、この世界に存在する一つの命なのです。
地上の者が欲や愛、憎しみや恨みと言った様々な感情を持つように、我々天界の者もそうした感情に動かされることがあります。ただそれは地上の者ほど激しいものではないのですがね、何といっても生きる時間軸の違いがありますから。
地上の者からすれば我々は永劫に生き続ける様に思われるかもしれませんが、そうではない。
ただその長さが比べようがないと言うだけで。
$$%&は所謂叩き上げと言う部類でしてね、こう見えて下級天使から中級天使上位にまで駆け上がった優秀な者なのです。
ただその分やっかみと言いますか、上の者から煙たがられる様な所がありまして。
特に彼女の直属の上司は家柄意識、こちらで言うところの選民思想が強い者ですから、私も注意はしているのですが」
う~わ、なんか企業内の出世争いと貴族政治が混ざったような状態じゃん。
なんかこう地上の者が思う天使像と実際に結構な乖離があるって言うか?あまり無感情にシステマチックにしちゃうと、それはそれで弊害があったんだろうな~。
女神様もご苦労が絶えない事で。
「でもそうはいってもここまでの過剰労働は少々問題なのでは?実情は俺なんかが知るところではありませんが、あなた様が追い詰められていると言う事は俺でも分かります。
そうそう、俺の称号のところに“堕天を食い止めし者”ってのがあったじゃないですか?そこを見てもらえればあなた様がどれほど追い詰められていたかが分かってもらえるかもしれません」
俺の言葉に、「えっ、堕天!?ちょっと待ってください、それって」と焦り出す本部長様。
「わっ、$$%&、あなた一体何をやっているんですか!これって下手をしたらこの場を中心とした半径二十キロ圏内が更地になるところだったんじゃないですか。
それにこの濃厚な闇属性魔力って、強力な闇属性魔力を持つ堕天使が誕生するところだったんじゃないですか!!」
うん、マジでヤバい状況だったようです。(冷や汗)
「本部長様にお伺いいたしますが、その堕天使と言うモノはどういった存在なんでしょうか?この村にはもともと教会がないのでそうした神学的な話は分からないんですよ」
何か話の雰囲気から魔王的存在、人類の厄災のように聞こえるけど、思い込みって怖いからな~。餅は餅屋、分からない事は専門家に話を聞くに限ります。
「そうですね、世界の魔力バランス的にかなりの問題となります。$$%&から魔王の話は聞いていると思いますが、世界の魔力バランスが闇属性魔力に偏ると様々な災害が発生しやすくなります。人心は荒み、争いが常態化し、文明は衰退します。
過去には闇属性魔力の蔓延により多くの国が滅んだと記録されています。
堕天使の存在はこれを加速度的に早めると言われているんですよ。そうした事例がいくつかありまして。
堕天は多くの場合地上世界に感情移入し過ぎた者が陥るとされています。理想や思い入れがあり過ぎて反転する、その感情の赴くまま暴走した闇属性魔力は地上世界に広がり周辺地域を混乱と混沌の渦に陥れる。
大概は暴走の果てに亡くなるか、理性を失った魔物の様になってしまうのですが、中にはそれに適合し生き残る者もいる。
そうした者は女神様が新たに設けられた世界で、闇属性魔力の処理の仕事に就いているんです」
う~わ、内容が濃過ぎてついて行けん。もしかして地獄の様なところがあるとか?
行われているのが罪人の処罰による魂のクリーニングではなく闇属性魔力の処理。リサイクルセンター?再就職も大変です事。
「でもそうですね、地上人に対する接触ではなく上司からの執拗な𠮟責や嫌がらせと思われるほどの過剰任務による堕天、今回のような事例はこれからも起こりうる事態、それに$$%&の置かれた状況は普通に労働基準法に抵触します。
これは実態を理解せず様子見に徹した私の失態です。早急に対処することをお約束いたしましょう。
また天界全土で実態調査を行い、こうした事態が発生しないように再発防止に努める事といたします。
ケビン君には大変なご迷惑をお掛けいたしました。また$$%&を救っていただき、本当にありがとうございました」
そう言い深々と頭を下げる本部長様。そっか、あなた様の置かれた状況って普通に労働基準法違反なのね。と言うか天界にも労働基準法があるのね。ラノベがあったり労働基準法があったり、異世界文化を取り入れ捲り?凄いな天界。
でもパワハラまで取り入れなくてもよかったんだぞ?
お花畑で亡くなられた魂の誘導案内程度でいいんじゃないのか?
その存在階位に関わらず生きて行くって大変だな、おい。
“コトッ、カチャ”
俺はテーブルに突っ伏しムニャムニャ言ってるあなた様に同情の視線を向けつつ、収納の腕輪から大森林のでっかい亀の肉(エクアドルラ)と夏野菜の煮込みスープがよそわれた深皿とスプーンを、本部長様の前にお出しするのでした。
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