第5話 転生勇者、元冒険者に弟子入りする
お肉、お肉、お・に・く~♪お肉が我が家にやって来た~。
父親が無事山狩りから帰宅。やはり森の獣、特に魔獣の類が増えていたとの事。
幸いな事にゴブリン種と言ったファンタジー定番の厄介種族じゃなかった事は良かったが、これからは定期的に山狩りをしないといけないとぼやいておられました。
そして目の前に置かれたのはホーンラビットと言うこれまたファンタジーでお馴染みのウサギの魔物、こいつらは雑食で基本草なんかを食べてるのですが外敵と見るやその俊敏な脚力を生かし角を向けて突貫をかましてくる凶暴な魔獣なんですね~。
でも草を食べるくらいなら問題なさそうに思うでしょ?
ところがどっこいこいつらの怖いのはその繁殖力、二週間に一回は産んでるんじゃないかと言うくらいバカバカ増えちゃうんですね~。しかも警戒心が強くて割と狂暴、ホーンラビットの繁殖し切った森は怖過ぎて誰も近寄れないって言うね、だって入った途端串刺しよ?無理無理無理。
退治するには全身甲冑を着込んだ重装騎士団にでもお願いするしかないんじゃない?薄い鉄板くらいなら貫いちゃうし木板じゃまず無理だから。
父親曰く上手い事受け流せれば簡単との事だけど、そんな危険犯したくないでござる。
ですんでこれからは定期的に森に入ってこの危険生物を退治するという話になったそうでございます。
これが一体何を意味するのか?ずばり、我が家の食卓にお肉様がやって来ると言う事。ビバ・山狩り!!
解体して毛皮は村長宅に集めないといけない?それくらいどうでもいいじゃないですか~、それよりも肉ですよ肉。
“ハァ~”って何ため息ついてるんですか。毛皮はお金になる?村長が溜め込んでる?嫌だな~、なに当たり前の事を。そのお金の何割かを村長がお役人様にこっそりお渡ししてるのを知らないんですか?この塩梅が凄く重要なんですよ?
お役人様の欲を刺激し過ぎずかと言って無下にもされない金額、流石元商人、その辺の嗅覚はいまだ健在ですね。
ジミーに剣の一振りでも買ってやりたいって、ジミーの奴まだまだ大きくなるんですよ?ある程度成長が落ち着いてからだって十分ですって~。
今は体格に合わせて木刀を削ってやった方が喜びますよ、お父様。
ま、心の中でいくら話し掛けても伝わらないので俺は務めて笑顔で親父殿に話し掛ける。
「この魔物、お父さんたちが仕留めたの?やっぱりお父さんは凄いんだね。ジミーにも見せてあげたいから呼んで来るね。ジミー、お父さんが魔物を狩って来たよ~」
“ドタドタドタ”
身長が俺よりも大きく体格もしっかりし始めたジミーが家の中で走ると足音がうるさい。
ジミー君、そんなんじゃ立派な冒険者になれないぞ?森の中で足音を立てたら獲物に気付かれちゃうじゃないか。こういった事は不断の努力がものを言うんだからな?
お兄ちゃんを見て見なさい、ほとんど音がしないでしょうが。これが弱者が生き残る為の戦略、いずれ気配察知や気配遮断を身に付けて魔獣に気付かれなくなることがお兄ちゃんの夢です。だって恐いんだもん。
直接戦闘?無理無理無理、身体がこわばって無残に殺される未来しか思い浮かばないから。
森の魔獣退治?罠仕掛けましょうよ罠、人間頭は使ってなんぼですからね?
「うわ~、ホーンラビットだ。しかも後頚部に一撃、状態も良いしこれなら毛皮の買取値段も高くなるね、流石お父さん。
でも血抜きはまだなんだ、森で血抜きなんて自殺行為だから分かるけど、早くやらないと肉が臭くなっちゃうよ?解体するなら僕も見学させて欲しいな」
お、おう。ジミー君すっかり冒険者じゃないですか。何でうさぎさんのご遺体を見ただけで攻撃個所や状態まで分かるんでしょうか?
それに毛皮の買取とか肉の臭みだとか、君本当に六歳児?ジェイク君みたいに前世の記憶が戻ってるとかじゃないの?天才子役並みの思考能力よ?
弟の優秀さに度肝を抜かれる兄ケビン、この後ジミーと一緒にホーンラビットの解体を見学。むせ返る血の臭いに顔色を悪くしたのは言うまでもありません。
こんなのを森の奥でやったらそりゃ襲われるわ。将来森で狩りをする機会があっても解体は家でやろうと心に誓うケビン君なのでありました。
―――――――――――――
「お父さん、僕ね、今日スライムと戦ったんだよ」
息子からの報告に目を細め笑顔になる父トーマス。
そうか、この子もそういう歳になったのか~。
スライムとの激闘は男の子ならば必ず通るいわば洗礼の様なもの。森で木の枝を拾ったら振り回す、それが男の子。
それにこの子は今何と言ったか、そう、“スライムと戦った”と言ったのだ。あの無害でいつの間にか湧いている様なスライムと戦う。
「そうか、ジェイクも随分強くなったんだな。それでスライムはどうだったんだ?」
優しく語り掛ける父に、息子は胸を張って答える。
「うん、奴は強敵だったよ。でもね、僕が強敵との激闘を繰り広げている時にヘンリーさんちのジミー君が来てくれて一緒に戦ってくれたんだ。
ジミー君は凄いんだよ、あの剣技憧れちゃうよ。それでね、ジミー君が一緒に元冒険者のボビー師匠の所で修行しないかって誘ってくれたんだ。
ねぇお父さん、僕もボビー師匠の所に行って来てもいい?」
そう言い瞳をキラキラさせる息子。そうかジェイクよ、お前もついに発症してしまったんだな、男の子が必ず罹るとされる奇病、“勇者病”に。
隣で一緒に話しを聞いていたマリアは“この子もそう言う歳になったのね、大きくなって”と言いながら手拭いで涙を拭っている。
「そうか~、“修行”か~。俺もそんな事を言ってる時期があったな~」と昔を懐かしむ父トーマス。
彼はジェイクの頭をくしゃくしゃと撫でると、“ちょっと待ってろ”と言い席を外した。
家の奥でガサガサ物音がして“あったあった”と言い戻ってきた父トーマス。その手には一振りの木刀。
「いいかジェイク、修行は辛いぞ?途中で投げ出さず続ける事が出来るか?」
「うん、僕投げ出さない。僕は最強の男になるんだ!」
トーマスの目を真っ直ぐに見詰め己の決意を口にするジェイク。
“そうか~、最強の男か~。そう言えばヘンリーの奴も若い頃そんな事言ってたな~。アイツ結構長い事発症してたからな~”
トーマスは親友の昔の姿を思い出し、口角を緩める。
「そうか、ならお父さんは何も言わん。だが無理だけはするなよ?
お父さんは勇気と無謀をはき違えて死んでいった奴を何人も見ている。ジェイク、お前にはそんな悲しい最期を迎えて欲しくはないんだ。お母さんを悲しませない、約束できるか?」
「分かった、勇気と無謀をはき違えない、お母さんを悲しませない。約束する!」
ジェイクは父トーマスに大きな声で宣言した。そんなジェイクを見詰めるマリアは、またしても涙腺を決壊させるのだった。
「ジェイク、よく言った。それでこそ私たちの息子だ。
そんなお前にお父さんが昔使っていたこの木刀をやろう。お父さんもこの木刀を振って強くなった、お前ならお父さんよりも強くなれる。明日ボビーさんの所に連れて行ってやるからな」
「ありがとうお父さん」
そう言い父トーマスに抱き付くジェイク。そんなジェイクを優しく受け止め髪の毛をくしゃくしゃと撫でる父トーマス。息子の成長を喜び顔をほころばせるトーマスとマリア。そこには微笑ましい家族の交流があった。
夕食に出されたホーンラビットを嬉しそうに食べたジェイクは、貰った木刀を大事そうに抱えベットに向かう。そんな息子を微笑ましく見つめる父トーマスに、”ジェイクにも弟か妹を作ってあげたいわね”と妖艶に微笑む母マリアなのでありました。
よっしゃー!ミッションクリア、ボビーお爺さんの所での修行の許可、いただきました!
これでジミー君(心の師匠)と一緒に修行が出来る。
しかもマイ木刀まで、く~っ木刀良いよね、木の枝と違ってこうなんか強くなった気がするし。
脳裏に蘇る修学旅行の時お金が足りなくて買う事の出来なかった後悔の念、自分の事はろくに思い出せないのに悔しい事なら思い出すって一体。
だがしかし、今ここに男子の憧れをゲット、これでまた一歩最強に近づいてしまったと言う訳ですな。
今日はこの木刀と一緒に寝よう、いい夢が見れます様に。
こうして初めての“武器”を手に入れたジェイクは、その晩夢の中で宿敵(スライム)との終わる事のない戦闘を繰り広げるのでした。
「おはようお父さん、今日もいい天気だね」
「おはようジェイク、今朝はいつもより早起きじゃないか」
トーマスは何時もなかなか起きないジェイクが起こされる前に顔を出したことに驚いていた。
「うん、僕楽しみ過ぎて早くに目が覚めちゃったんだ」
「そうか、それじゃ朝ご飯を食べ終わったら早速ボビーさんの所に行ってみるか。先ずは顔を洗っておいで」
「はーい」
“勇者病”の男の子はこうだよな~、分かる分かる。
トーマスは若かりし日の自分を思い出す。木刀を初めて貰った日、やはりジェイクと同じように早起きをしたもんだった。
“息子よ、最強の道は長く険しいぞ、お父さんはお前を応援してるからな”
木刀を抱え嬉しそうに走るジェイクの姿に、眩しそうに目を細める父トーマスなのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます