第4話 転生勇者、幼馴染に指導を受ける

“スパン”

鋭い踏み込み、振り下ろされる木刀。それは正確に標的を捉え、眼前のモンスターを一撃のうちに葬り去って行く。

まさに必殺、その美しいまでの軌道に俺の中の厨二魂はすっかり魅了されて行く。あぁ、俺もこんな剣が振りたい、その技が欲しい!!


「師匠、どうか俺を弟子にしてください!」

俺は恥も外聞もなくその場に土下座をし、その使い手に教えを乞うのだった。その剣技の使い手、幼馴染の男の子、ヘンリーさんちのジミー君に。


時は遡り俺が強敵(スライム)との激闘を終え次の戦いに足を踏み出そうとした時、彼はその場に現れた。


「ジェイク君、一人で何やってるの?面白そうだから僕も仲間に入れて」

彼の名前はジミー、名前とは裏腹に顔立ちは母親のメアリーさんによく似て優し気なおっとり顔。将来その甘いマスクでどれほどの女性を泣かせるのだろうと言った感じである。

そして体格は父親のヘンリーさんに似てとても発育が良く、すでに俺よりも頭一つ分以上は大きい。二歳年上の兄ケビン君よりも大きいと言うのだからどれ程のものか想像がつくだろう。悔しくなんかないんだからな。


だが彼はその優し気な見た目に反し結構な戦闘狂である。六歳にして既に村はずれの元冒険者のお爺さんに弟子入り、日夜剣術の修行に励んでいるとの事。

道理で大分前から一緒に遊んだ事が無かったと思ったよ。五歳の頃からほとんど一緒に遊んでないじゃん、ずっとエミリーと二人きりだったじゃん、少しは気が付けよ俺。


何とも情けない話だが以前の俺はそんな事全く眼中になく、日々エミリーと共に楽しく過ごしていたらしい。こんなに子供の少ない村でそれってどうなんだろうかと思わなくもない。

因みにお兄さんのケビン君はすでに畑を持っていて毎日畑仕事に精を出しているとの事。なんかこの兄弟少しおかしい、ヘンリー家の養育はどうなっているんだろうか。


いや、これは俺の前世の感覚の方が悪いのか、中世ヨーロッパを基本としたゲーム世界なら子供が早くから労働者として働きに出るのは当たり前なんだろう。

職人の弟子や商人の丁稚奉公なんてのはみんな子供だったような。でもそれって授けの儀の後じゃなかったっけ?家族の場合はそうでもない?う~んその辺は流石によく分かんないや、だって俺、六歳のお子様だもの。


幾ら前世の記憶が蘇ったからと言って今世の知識が増える訳でもない。あるのはゲームの中での立ち回りだけ、ソードオブファンタジーの世界観や庶民の暮らしなんてファンブックでも買わない限り分からないっての。

俺そこまでのヘビーユーザーじゃないし、このゲームだってよくラノベ設定に出てくるような世界的大ヒット作品って程のもんじゃなかったしな~。それなりに売れてたけど、細部まで覚えているかと聞かれれば“無理”と自信を持って言える程度のライトユーザーだし。

それを思えば赤髪のジェイクに生まれ変わったのって奇跡以外の何ものでもないよな、他のキャラだったら思い出せる自信ないもん。


話は逸れたがジミー君だ、要は一緒に遊ぼうと言う事らしい。でも今の俺は最強を目指して相棒(木の枝)を携えての修行中の身、悪いがそんな事にかまけている暇はないのだ。そう結論付け断りを入れようとした時だった。


「じゃあこのスライムは僕が貰うね」

ジミー君は優し気な笑顔を携えてスライムに対峙した。ほ、ほう~、構えはいっちょ前じゃないか。だが我が強敵はそんじょそこらの攻撃でどうにかなるような相手じゃ。


“スパン”

えっ?

ちょっと待ってジミー君、今君何をやって。

“スパン”


「う~ん、やっぱり明確な相手がいると素振りと違って気合が入るね。ジェイク君ごめんね、邪魔しちゃったかな?」


美しいまでの剣の軌道、それは前世で見た刀のソレ。“切る”その一点に集約された兵器であるのにも拘らず、その機能美、洗練された姿形は人々を魅了してやまない魔性の美。

あぁ、これほど美しくも力強い光景を今まで見たことがあっただろうか。おそらくそれは画面の中の憧れが現実になったからだけかもしれない。だがこの魂を揺さぶる感動は本物以外の何ものでもない。

俺は衝動的にこの幼い剣聖にこうべを垂れるのだった。



“ボコッ”

「師匠、今の振りはいかがだったでしょうか?」

俺は再び宿敵(スライム)に得物(木の枝)を向け、果敢に挑む。その姿を師匠に見て貰い、指導を受ける為に。


「うん、ジェイク君はまず身体の使い方を覚えた方がいいよ。

振りが手振りって言うか腕だけで振ってる感じ?もっと身体全体で振り下ろす様にしないとちゃんと力が伝わらないかな。

先ずは上から下にきちんと振り下ろす事を心掛けてみて。

あとその師匠って言うの止めない?僕とジェイク君は友達じゃないか。

それに僕にはちゃんとボビーさんって言う師匠がいるしね。ジェイク君もボビー師匠に習えば僕なんかに教わるよりもずっと上達出来るよ」


ボビー師匠、村外れに住む元冒険者のお爺さん。そのボビー師匠に習えばジミー師匠の様な剣技を身に付けられると。ならば悩むことなど有るものか。


「では僕にボビー師匠を紹介しては頂けませんか?兄弟子、いえ、兄貴!」

俺は再びジミーの兄貴に頭を下げお願いする。


「えぇ~、その兄貴っての止めてよ?ボビーさんだったらそれこそトーマスおじさんに相談すればすぐに紹介してくれるはずだよ。この村の子供はみんなボビーさんに剣術を習う事になってるんだって。

本当はもっと身体の大きくなる十歳くらいになったら習うらしいんだけど、僕は身体も大きいし冒険者のお話しが大好きだったから、早くからお願いして五歳から習ってるんだけどね」


そう言いはにかむように笑うジミーの兄貴。いやいや、兄貴呼びは嫌なんだったよな、じゃあせめてジミーさんとでも・・・。


「“さん”付けもやめてよね?ちゃんと”君”付けで呼んでくれないともう剣術は教えてあげないよ、ジェイク君」

プゥーと頬を膨らまして不満げな表情をするジミー君。可愛い。君は絶対お姉様方にモテモテだよ、このジェイクが保証しよう。


「分かったよジミー君。もう師匠とか兄貴って呼ばないからもっと色々教えてくれる?」

「うん、それじゃまずは構えからね。身体の芯と土台がしっかりとしていないといくら強力な振りでもその力が半減しちゃうから。標的はまだまだいっぱいいるからしっかり訓練しようか」

「ジミー君、よろしくお願いします」

「あ、うん。もういいです」


こうして俺はジミー君(師匠)の指導を受けつつ、強敵(スライム)との戦闘を繰り広げるのでした。


―――――――――――――――


「こんにちは、マリアおばさんいますか~!」

「は~い、どなた様~」


家の奥からバタバタと言う物音が聞こえ、玄関扉が開かれる。そこから顔を出したのは今朝お会いしたばかりの魔性の女性、マリアおばさんその人であった。


「あら、ケビン君どうしたの?ジェイクならまだ帰ってないけど、それともメアリーさんから何か頼まれごとかしら?」

身体を下げ俺に視線を合わせてくれるマリアおばさん、流石は出来る女、卒がない。


「いえ、ジェイク君にはさっき会いました。それで弟のジミーがジェイク君と遊ぶことになって、マリアおばさんにその事を伝えようと思って。

ジェイク君も病み上がりだし本当は一度家に帰ってからの方が良かったんだろうけど、なんか二人して盛り上がっちゃって。だったら僕がマリアおばさんに事情を話してくるから二人で遊んでなって事に。

勝手して済みませんでした」


そう言い頭を下げる俺氏。これで悪いのは俺って事になり双方丸く収まるって寸法、“村のお兄ちゃん”としてはそれくらいしないとね。

村長の息子がいるだろう?あぁ、うん、まぁ、村長はまともな人(この地域基準)なんだけどな~。彼も色々経験すれば成長するでしょう。(上から目線)


「そうだったの?あの子ったら寄り道しないで帰って来なさいって言ったのに、元気になった途端これなんだから。男の子って本当にしょうがないわね」


アハハハハ、本当そうっすね~。だって“ステータスオープン!!”とか大声でやっちゃうくらいだし、今頃スライム相手に“クッ、まだまだー!!”とかやってるんだろうな~。(遠い目)


「でもわざわざ知らせてくれてありがとう。それじゃ、ジェイクの事お願いしちゃっていいかしら?お願いついでで悪いんだけど、お昼にはちゃんと帰って来る様に言っておいてくれる?」


にっこり微笑みお願いを口にするマリアおばさん。“はい、よろこんでー!”と某居酒屋のように大声で叫びたくなるのをグッと堪え、「分かりました、マリアおばさん」とだけ言っておく。

おばさんは俺の頭を優しく撫でて“じゃあお願いね。”とウインクをするのでした。

年上の女性の魅力、ク~ッ堪らん。

俺は手を振りながらジミーたちがいるであろう水辺へと向かうのでした。


「師匠、今の振りはいかがだったでしょうか?」

スライムを木の枝でボコりながら弟のジミーにそう尋ねるジェイク君。


ジェイク君、君ついさっきまでスライム相手に唸り声を上げて突貫かましてなかったっけ?雰囲気作って“強敵と書いて友と読む”的な展開をしてたんじゃなかったの?すっかりジミーに心酔しちゃってるんですけど、この短い時間に一体何があったし。


ジミーも剣術の事を語り合える仲間が出来たのが嬉しいのか凄い上機嫌。

そうだよね、やっぱり男の子はこうじゃないと。友達と一緒に何かに取り組む、それは別に虫取りや追いかけっこばかりじゃなくても良いんだよね、楽しそうで何より。

俺は弟が子供らしい表情を浮かべてるのを見てほっこりした気分になるのを感じ、二人の邪魔をしない様に周辺で野草採取を開始するのでした。


この世界の野草、凄く見覚えのある物が多いです。

代表的なのがこの“癒し草”。見た目はまんまヨモギ。ヨモギとの違いは葉の裏に赤い線が入っているかいないか。

因みに癒し草そっくりで赤い線が入っていない“偽癒し草”って言うのもあります。植生は癒し草と一緒、成り立ての冒険者が採取依頼に出て間違えて取って来るのがこの偽癒し草との事(元冒険者のお爺さん情報)、どう見ても同一種なんですよね。


そこで私考えました、この二種類って実は本当に同一種なんじゃないだろうかと。元冒険者のお爺さん曰く、癒し草をギルドで栽培しようとしたが上手くは行かなかったとの事。そこで試しに癒し草を畑(好きに使っていいと言われた場所)に持って帰って植え付けたところ、大体一週間から二週間くらいで赤いラインが消え、偽癒し草になると言う事が分かりました。

これは何を示しているのか、つまり癒し草と偽癒し草は同一種で環境によって薬草の成分が入り込むかどうかが変わって来るって事ですね。


癒し草はポーションの原材料、すなわち魔法薬の元。魔法薬、魔法、つまり魔力。癒し草は土地から魔力を吸い上げその身に貯める性質があり、赤いラインはその際に発現する現象である。


これって一部の支配者階級は絶対に知ってるよね?色々な大人の事情で秘匿されてる?まぁ、俺もまだ実験し始めたばかりではっきりした事は言えないんですけどね。それじゃあどうやって人工的に土地に魔力を送るかって問題もあるしね、これはもう採取しながら周りの環境を観察するしかないかと。


「では僕にボビー師匠を紹介しては頂けませんか?兄弟子、いえ、兄貴!」

なんか癒し草の事を考えながらもくもくと採取に励んでいたら何やら凄い事になってない?兄貴って、ジミー君遂に子分が出来ちゃうの?師匠だったり兄貴だったり大変だね~。


でもジェイク君、兄貴発言をトーマスおじさんの前で言うのは控えようね、下手な席で言い始めたら我が父ヘンリーにあらぬ疑いが掛けられかねないから。

こんな狭い村でNTRとかマジ勘弁、あの大柄な父でも背中からブッスリされたらひとたまりも無いから。

それにメアリーお母様もおっとりしている割には嫉妬深い所があるからな~。前に父親が母親との何かの記念日をコロッと忘れて村長の家に飲みに行った時のあの顔、超恐かったわ。

笑顔なのに目が一切笑ってないの、大好きな肉入りスープの味が一切しなかったもんな~。(ガクブル)


それにしてもあの二人、結構スライム倒したな、十匹くらいか?そろそろお昼も近いし声掛けるか。


「お~い、二人とも、そろそろお昼だから家に帰るよ」

「あ、お兄ちゃん。ジェイク君、それじゃ今日の訓練はここまで。お家に帰ろう?」


“え~、もう終わりですか?まだやりたいです。”と言う顔のジェイク君を宥め家に帰るように促すジミー。

“それにこれからボビー師匠の所で本格的に剣術を学ぶんでしょう?身体を痛めたらちゃんと指導が受けれないよ?”と言うジミーの言葉に渋々頷くジェイク君。


うん、ジミーご苦労様。先に二人で帰っていいよ、スライムの片付けはお兄ちゃんがやっておくから。そう言い二人を家に帰す俺氏。


スライムの死骸をこのまま放置しておくと野生の獣をおびき寄せたりしちゃうからね。ほぼほぼ水分のスライムも彼らにとっては貴重な餌、ちゃんと処分しないとこの場所が危険地帯になりかねません。

ではどうするのか、刃物で切ってばらまくのが一番手っ取り早いんですよね、ほぼ水分ですから。


でもスライムか~、こんなんでも魔物、魔力があるんだよな~。

俺は状態の良いスライム数匹を袋に詰め(おそらくジミー討伐)、他のスライムはナイフで切り刻んでばらまき処分をした後、お昼の待ってる我が家へと帰るのでした。

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