第2話 転生勇者の基本はアレ

自分が転生者である事は分かった。それが多分前世でよく遊んでいたゲーム“ソード オブ ファンタジー”の世界である、もしくはそれに限りなく近い世界である事は間違いないだろう。剣と魔法の冒険ファンタジー、使いふるされたラノベの様な展開だが、沸き上がる厨二心は止められない。


朝食を食べ終わった俺は、何時もの様に食器を洗い場に出すとお母さんに向き直る。

何故か口元に手をやり涙ぐむお母さん。その口は“ジェイクちゃん、お手伝いまでしてくれるなんて、立派になって”と呟いている。

あれ?俺食器ぐらい片付けてたよね?やってなかった?以前の俺ってどうだったっけ?どうも記憶の混濁が甚だしい。


「えっとお母さん、僕、昨日は色んな人に迷惑を掛けちゃったみたいで。その、エミリーちゃんも僕の事で心配させちゃったと思うから、今からご挨拶に行きたいんだけどいいかな?」


そう言い上目遣いでお母さんを覗き込む。お母さんは“子供の成長は早いと言うけど一晩でこんなに大人になる事もあるのね”と、またまた涙ぐみ始めてしまった。


「分かったわ、ミランダにもポーションを分けて貰ったりしたからちゃんとお礼を言わないといけないわね。後でお母さんも行くけど先に行ってよくお礼を言うんですよ?」

「ハーイ、分かりました」


こうして俺は無事ミッションをクリアし、外出の許可をもぎ取るのであった。


「行ってきまーす」

俺はお母さんに声を掛け元気よく家を飛び出す。遠くからお母さんの“行ってらっしゃい、気を付けて行くのよ?寄り道したら駄目ですからね”と言う声が聞こえるが、こっちはそれどころではない。


この辺は田舎と言うか辺境と言うか、兎に角家が少ない。俺の家とエミリーちゃんの家も軽く五百~六百メートルは離れている。その途中にある木の根元の石に腰を下ろしちょっと休憩、と見せ掛けてずっと気になっていた事を試してみる事にする。


「ステータスオープン」


・・・声が小さかったんだろうか?


「ステータスオープン!!」

「能力開示!!」

「開け、才能の扉!!」

「オープンセサミー!!」


ゼーッ、ゼーッ、ゼーッ何も出ない。そう言う事ではないんだろうか?

俺はてのひらを太陽にかざす。指と指との間の水掻きの部分が光に照らされ、赤く流れる毛細血管が透けて見える。

俺はその手を見ながらポツリと呟いた。

「<鑑定>」


名前 ジェイク

年齢 六歳

種族 普人族

職業 なし

スキル

鑑定 詠唱短縮 剣術 収納 

魔法適性

火 土 風 光


「おぉ、やっぱり有ったか鑑定スキル。って言うかステータスは<鑑定>で見るのかよ、不親切だなおい。それで魔法は適性表示と。使える魔法が増えるとレベルが上がるとかかな?その辺よく分からん。つうかレベル表示無いじゃん、HPもMPも分かんないじゃん。どうしろって言うんだよ、体感で察しろとでも言うのかよ」


使えね~、途端頭を抱える俺。マジどうする。

うだうだ悩んでいても仕方がないので取り敢えず今出来る事をしよう。

幸い剣術スキルはあるのでこれをひたすら伸ばす。棒でも振って魔物を倒していけば上がるか?確か子供でも倒せるスライムがいたはずだから、後で倒しに行こう。それと魔法だ。適正はあるんだ、ゲーム知識で補完できないか?これもスライムで試そう。


そうと決まればぐずぐずしてられない。エミリーちゃんの家に挨拶に行ったらすぐに森でモンスターハントだ、一狩り行くぜ!

俺はダッシュでエミリーちゃんの家に向かうのでした。


――――――――――――


え~っと、何今の。

今朝も何時もの様に畑に出掛けようとすると父親に捕まってしまった。何でもジェイク君の様子を聞いてきて欲しいとの事。マリアおばさんの様子も気になるのでよく見てきて欲しいって、そんなんご自分で行って下さいよ。八歳児に頼む内容じゃないじゃないですか。


それで御父上はどちらに?最近村外れの畑が荒らされるから村の男衆で山狩りをすると。村の男衆って言ってもウチとトーマスさんと村長とそこの息子、元冒険者のじいさんに他五軒くらいしかいないし。残りはミランダさんのところみたいな訳アリや未亡人の婆様方。さっきの五軒も皆爺様だから実質戦力三人よ?村長とその息子?メタボは頭数に入れちゃ駄目です。


って言うかこの村でメタボって凄いな。村長商売上手、是非そのノウハウを伝授して頂きたい。

搾取されてる?当たり前じゃん。この世界、封建社会よ?身分制度が絶対なのよ?飢えずに年を越せるだけでも天国よ?

村長様が領主様に上手いこと媚びを売ってるお陰で助かってるんだから、それくらいでカリカリしない。あまりに酷かったら逃げればいいんだしね、命あっての物種です。


で、仕方なしにトーマスさんちに向かったんですけどね。これが子供の足ではそこそこありまして。お隣さんまで歩いて十五分、三軒隣のトーマスさんちは四十五分くらい掛かるんですね~。

なんでこんなに離れているのかって言うと、害獣対策と言いますか、あまり密集していると一気に襲われて村が滅ぶからと言いますか。誰かが生き残れば御の字って言う悲しい現実がですね~。

だもんで村人は少なくとも害獣と戦う術を持っておかないといけないと言うね。

異世界の田舎でスローライフ?

ハハハ、どこのファンタジーですかそれ、辺境嘗めんな!?


おや?あの木陰に見えるはジェイク君じゃありませんか。もうお身体はよろしいのでしょうか?


「ステータスオープン!!」


・・・は?今彼なんておっしゃいました?


「能力開示!!」

「開け、才能の扉!!」

「オープンセサミー!!」


え~っと、彼は思春期特有の病でも発症したのかな?左目がうずいちゃうのかな?片手を包帯グルグル巻きにしちゃうのかな?

イヤイヤイヤ、問題の本質はそこじゃない。あの台詞を吐くって事はまず間違いなく“アレ”だよね。でも今までそんなん兆候なかったよね。って事は頭打って死の淵彷徨ったとか?怖、何それ、目茶苦茶やばかったんやん。

でも前世の記憶が甦るってそういう事だよね、干し肉奪われてどうのとか言ってる場合じゃなかったのね。


医療の乏しいこの世界、子供が無事成人出来るのって半分以下の確率だからな~。(村長情報)

この村だって医者なんていないし、病気や怪我はミランダさんのポーション頼みだし。大きな怪我はまさに神頼み、回復魔法なんて便利なものは都市部に行かないとお目に掛かれないって言うしな。

ジェイク君が回復して本当に良かったよ。

当のジェイク君は目の前で別のご病気に罹患なさっておられますが。


「<鑑定>」

自分の掌を太陽に翳してポツリと呟くジェイク君。なんかどこかの童謡みたい。

おや?何故か慌て出したぞ?

えーーーーー!!ジェイク君<鑑定>使えるの!?

って言うかジェイク君まだ成人の儀式してないよね?職業貰って無いよね?なんでスキル持ってるのさ、それって職業が決まってから貰えるものじゃなかったの?

もしかしてこれって教会の陰謀?実はスキルと職業ってそこまで関係なかったとか?

うわ~、思わぬところで社会の闇を知っちゃったよ。一生黙っていよう。

でも凄いなジェイク君、<鑑定>なんてスキルがあったら一生食いっぱぐれ無いじゃん。何処でも引っ張りだこ、将来安泰だね。


あ、ヤバい、こっちに来る。

俺は急いで草むらに。子供が隠れるスペースなんて田舎じゃ何処にでもあるからね。

あっちの方に行くって事はミランダさんの所にでも行くのかな?なんかテンション高かったけどアレなら心配無さそうですな。

もう行く必要は感じないんですけどこれも人付き合い、再びトーマスさんちに向かい足を進める俺氏。


“コンコンコン”

「おはようございます!ヘンリーの家のケビンです」


“バタバタバタ、ガチャ”

「あら、ケビン君、おはよう。昨日は色々ありがとう、ヘンリーさんには干し肉まで頂いちゃって。後でご挨拶に行くってメアリーさんに伝えておいてね」


マリアおばさんは洗い物でもしていたのか、手拭いで手を拭きながら顔を出して来た。


「はい、お母さんに伝えておきます。それでジェイク君の容態はいかがですか?様子を聞いてこいってお父さんに言われていて」


「まぁ、お父さんのお使い?偉いわね~。ジェイクはすっかり良くなって、今朝方ミランダさんの所にお礼に行くって言って出掛けているわ。本当に大事にならなくって良かった。これもすぐに知らせてくれたケビン君のお陰ね。どうもありがとう。そうだ、ちょっと待っていてね」


マリアおばさんはそう言うと家の奥へと入って行きました。待つ事暫し、“お待たせ~”と言って戻ってきたマリアおばさんの手には束に包まれた干し芋。


「これおばさんの所で作った干し芋だけどよかったら持って行って。これはケビン君へのお礼。メアリーさんには内緒にしていてあげる、おやつに食べてね」


そう言い唇に人差し指を当てて“シーッ”ってやった後ウインクを一つ。

マリアおばさん可愛いっす。思わず赤面する俺氏。


“まぁ、ケビン君たらおませさん”と言って鼻先をその人差し指でツンッと軽くこずくマリアおばさん。

ウホッ、マリアおばさん、その攻撃はクリティカルヒットですから~。

年上の女性に翻弄されふらふらになるケビン君なのでありました。

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