第2話 思春期男子は何かしらの衝動に駆られる生物である

「まだ授業始まってないのにもう疲れた・・・」


高校の最寄り駅で降り、満員電車と罵詈雑言から解放された俺は大きく背伸びする。

GW明け初日からなかなかハードである。


(でも、今日は何か起こりそうな気がする)


痴漢から女性を守った(かもしれない)という自己満足と、稀有な経験をした事によりテンションが若干ハイになっていた俺は、そんな期待を胸に今年入学した『県立牧陽高校』の校門をくぐった。



「当然といえば当然か」


帰宅ラッシュで学生の声が騒がしい電車を降り、地元行きの電車に乗り換えて静かになった車両内で俺は独り呟く。

漫画やアニメでは、今朝の俺の行動を同じ高校の誰かが見ていて話題になったり、被害に遭った女性が転校してきたりするのがお決まりのパターンなのだが、生憎ここは現実世界。

当たり前だが何も起きないまま時間だけが過ぎていき、あっという間に現在帰宅中である。


「まあ、あの場を他の誰かに見られていても、満員電車内を中途半端に移動した迷惑な奴にしか見えないか」


それに、この考えは見返りを求めて助けたみたいで何かダサい。

肌寒さが残る5月の夕暮れ、体と頭が冷えて既に登校時のテンションなど微塵もなくなっている俺は自嘲して呟く。


思い返せば思い返すほど恥ずかしい。


唯一の救いは、背中越しに感じた女性の安心した様子。


(そういえば、あの女子も後ろ姿しか分からなかったな)


人波に少しずつ流され離れたのか、俺より降りる駅が早かったのか、気付いた時には背中越しに感じていた彼女の存在も消えていたのだ。


結局分かったのは違う高校の制服である事と、肩ぐらいまでのゆるりふわりとした髪型である事。

名前も学年も顔も分からない。


(でもな・・・)


しかし、分かったところでどうすると言われても、何も答えられない。

俺が貴女を助けたんですよと自慢げに言うのは論外、大丈夫でしたかと心配したところで相手の嫌な話題を蒸し返すのもおかしい。

じゃあ、知り合って仲良くなりたかった・・・?


(おおお、恥ずい・・・)


女子と仲良くなる。

それを意識した途端、急に恥ずかしくなり、顔が少し熱くなった。


「・・・家帰って走ろ」


何とも言えない衝動に駆られた俺は、家の最寄り駅で降りた後、勢い良く自転車に乗って帰宅した。

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