第3話 走ると強くなった気分になる

夕方と夜が交わる時間。

黄昏時、あるいはマジックアワー。

境界線がぼやけた世界を俺は走る。

なんてカッコつけた言い方だが、夕暮れ時をただただ無心に走っているだけである。

もちろん、反射テープ付きで。


田舎は街灯の数が少なく、歩道はあるにはあるが途切れている場所や、中には道路を横断した先に歩道が続いている場所もあったりする。

だから、日が落ちてからの出歩きは反射テープや反射板が必須であり、なるべく明るい服装を心掛けるべきである。


話が逸れたが、俺は走るのは好きでも嫌いでもない。

小学校、中学校はサッカー部に所属していた。

高校でも部活決めの時期がそろそろくるが、俺は帰宅部に属する予定だ。


中学時代のサッカー部の友達は続けてサッカーをするか、違う運動部に所属すると言っていた。

正直、俺には高校までサッカーを続ける覚悟がない。

それに、新しく他の運動部を始める勇気もない。


そして何より、自由が欲しいと思った。

放課後や土日。

練習もなければ試合もない。


自分が好きな事を何でもできる。


想像するだけで心が軽くなる。

ただ、同時に焦燥感に駆られる。


本当に良いのか?

何もしなくても良いのか?


分からない焦りが付き纏う。


だから、俺は走る。

付き纏う焦りを振りほどいて置いていく為に。


何度も言うが、俺は走るのは好きでも嫌いでもない。


だが、走っている最中の無の思考が好きだ。

走り終わった後の達成感が好きだ。


そしてーー


「はぁ、はぁ・・・ふぅ」


家から走って15分程の場所。

小高い丘の上。

いつも中間地点にしている場所。


息を整えながら今まで登ってきた坂道を振り返る。

見上げれば星空、見下ろした遠くの先には市街地の明かり。

この自然と人工の光が見えるこの場所が好きだ。


「強く在りたい」


たぶん自分に酔っているのだろう。

つい言葉に出してしまう。

家に帰ったら筋トレしよう。

もちろん理由も意味もない。


だが、お気に入りの漫画の主人公も、特に目的もなく日課として鍛えているのだ。

俺が体を鍛えても何ら問題ない。


車が一台通過したのを合図に、俺は再びジョギングを開催した。

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