第2話 笹岡酒造

 富山県砺波市はチューリップの球根の生産が

日本一であり砺波平野の散居村はこれまた美し

い田園風景である。またアルプスからの伏流水

は小矢部川と庄川に流れ、平野は加賀百万石の

一部として近世より盛んに米作が行われていた。


そしてその豊かな水と米を使っての酒作りは久しく市内にはいくつか酒蔵が点在しており、

笹岡酒造もそのひとつであった。


笹岡酒造は明治38年1905年創業であり現在の

蔵元は三代目の笹岡正である。正以下、杜氏の

源田実、蔵人8名、経理の女性の計9名であり

酒蔵としてはかなり少人数だが繁忙期は臨時に蔵人を雇い入れていた。


酒米は主に山田錦と五百石があるが笹岡酒造は後者を使用しておりスッキリとした味わいの大吟醸は品評会でも評価が高く、主力商品である「雪一心」は金賞を受賞するほどで昨今の海外での日本酒ブームに乗って本格的に国外への販路拡大を模索中であった。


ただその笹岡酒造にも悩みがあった。跡取りである。正は現在52歳、27歳の時に高校の同級生で中学校の教員をしている純子と結婚し双子の女の子をもうけた。姉の加奈子は昔から酒蔵で遊ぶお父さん子、妹の真理子は母に似て文学少女であり、現在加奈子は東京の農業大学の醸造学科の博士過程、真理子はお隣石川県金沢市の高校の国語教師であり、もうすぐ結婚する予定だ。


酒蔵は男社会だ。特に杜氏の実は厳しい。加奈子が東京で農大に進学してゆくゆく酒蔵を継ぎたいと言った時は正は嬉しい反面複雑な心境であった。しかし加奈子の日本酒にかける情熱に圧倒され、東京に送りだしたのだった。


「加奈子だったら大丈夫だろう。真理子と同様美人だし良い婿をもらって蔵元を継いでくれるだろう」と正は高をくくっていた。







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