戦慄の仮面

つかまる

第1話 悲しみの日本海

石川県輪島市琴ヶ浜海岸、ひとりの若い女性が歩いていた。長いストレートの黒髪に


透き通るような白い肌、高い鼻にくっきりとした二重まぶたの美しい女。だがその瞳


にはもはや生気はない。まるで時間が止まってしまったかのような虚ろな目だ。


 灰色の北陸の空、季節は秋から冬へと移ろうとしていた。岸壁に打ち付ける波の音


花吹雪のように強風に巻き上げられた潮の泡・・・


「キュッ・・」「キュッ・・」一歩踏み出す度に砂同士が摩擦し合い、まるで砂が泣


いているようだ。 女は波打ち際まで来ると靴を脱ぎ、コートもはらりと脱ぎ捨てた


白いブラウスに紺色のロングスカート、だがいつしか右手にはカミソリを持っていた


そしてそれを左手首に押し当てゆっくりと引き寄せた。赤い鮮血が溢れ、おろした左


手の中指の先を伝ってポタポタ落ちていった・・・女は再び歩き始めた。


 暗いそして冷たい日本海へと・・・・




 

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