第 34 話 開始


 P.M.6:00 渋谷ヒカリエ2F 駐車場エリア


 今日の18時、渋谷ヒカリエの駐車場エリアにて、『禁忌の人物史アカシックエラー』が一人の状態で待機しておくように。

 クレハはそんな要求を朝の電話で伝えた。少々、思いがけぬ邂逅に良いように使われた気もするが、最終的に話をしたリハナなら寸分違わず伝えてくれているだろう、と確信していた。


 首相官邸を脱出した後、マーダー小隊の三人が行方をくらますために渋谷ヒカリエを選んだのに、そこまで深い理由があるわけではなかった。要求の細かい指定に時間を置いたのは、尾行を探るための時間が欲しかったのと、自分達の安全を確立させるため。首相の安否が解らない状態では、あっちも下手な行動には出ないと踏んだからだ。

 約束の日時が決まるまでは、クレハ達も休める場所が欲しかった。首相官邸で戦った『頭脳ブレイン』で消耗した体力やダメージを回復し、かつ食料や安全な寝床にありつける条件で、渋谷ヒカリエが偶々あてはまった。それだけだった。


 渋谷ヒカリエには『マキナ』が溜まっていた。それを片付ける手間はあったものの、その手間にお釣りがくるほどの根城を手に入れた彼女達は、約束の時間が経つまでに準備を首尾よく終わらせることができた。自分達にとって最後になるかもしれない日。事が始まろうとする直前のこの不気味な静寂こそが、数分後に待つ自らの運命を決定させていくようで、胸の鼓動がテンポを速めた。


 『禁忌の人物史アカシックエラー』がどれだけ強いのか、クレハ達は知らない。噂よりも大したことないのか、それとも噂以上なのか。解っているのは、自分達より弱いことはないだろう、ということ。


 しかし、そんな公然たる事実を突きつけられたところで歩みは止められない。


「私達は覚悟ができてたんだよ。なんの覚悟かというと、死ぬ、覚悟だよ。死ぬ、ってのは何も悲観的なものじゃない、と私は思うんだ。有終の美とか、そういうことじゃないんだけど。死んだその存在は、永久に負けることがなくなる。私はそう思ってるんだよ」


 2階のフロアに建てられた駐車場には、色とりどりの自動車が駐車されたままだった。この緊急事態に置いていかざるを得なかったのだ。もちろん、生存者がいないことは、マーダー小隊の三人が探索したときに確認済みだ。


「私はここで死んだって構わない。でも、そこにあの二人までついてきてくれるとは思わなかった。巻き込むのは忍びない、と思ってたから、あっちから言ってきたのはビックリしたかな。……あ、ごめん。別に、言わなかったことを責めてるわけじゃないよ?」


 クレハは車に囲まれたこの空間で、それこそ命を賭ける思いで、神宮寺じんぐうじの到着を待った。


 しかし、約束の時間になって現れたのは、彼女が想定していた人物ではなかった。


「でも、これだけは言わせて。――どうして、リハナがここにいるのかな」


 クレハは口にした疑問と共に、待ち望んでいた『禁忌の人物史アカシックエラー』の代わりにやってきた、かつての仲間に僅かな敵意を放った。

 それを受けたリハナ・アレクトルアは、背筋に寒気のようなものを感じたが、その毅然とした瞳はしっかりと己の敵を見定めていた。


「教えて欲しいな。どうして、彼がずにリハナだけしか姿が見えないのかな。怖気づいて逃げ出した、ってタマじゃあないよね、彼」


「そうですね」リハナは、最後の最後までこの作戦に納得しなかった神宮寺の姿を思い出し、苦笑する。「俺が行く、と言うことを聞きませんでした。けど、常識的に考えて、地球の切り札となるあの人をに投下できるわけがないじゃないですか」


「三人? こっちは『ヘルミナス王国』の後ろ盾があると言っても過言じゃないけど」


「クレハさん達の行為が発覚した後、欝河うつかわさんは即時に『ヘルミナス王国』の外交官にお話を伺ったようです。そのところ、彼らにクレハさん達に協力する意思はないとおっしゃっていたようですが」


「それは、順序が違う。私達が『ヘルミナス王国』と懇意こんいにしているだなんて、一言も言っていない。条約の効果が維持されている以上、あっちもそうとしか言いようがないんだよ。けど、腹の中に抱えている本音は、私達の見立てと殆ど変わらないと思う。それを促すための起爆が、今回の作戦。なのに……」クレハは呆れとも諦めともつかないため息をついた。「どうしてリハナが来ちゃうかな」


 『ヘルミナス王国』が地球の侵略に本腰を入れさせるには、『禁忌の人物史アカシックエラー』の排除は必須である。そのためにも、この場にはなんとしてでも彼に来てもらいたかった。首相が人質にされたとなれば、あちらも手段を選んでいられなくなると踏んだのだが、どうやらアテが外れたらしい。


「私が来るなんて、当たり前じゃないですか」リハナは言葉を返した。「今回の騒動は『獣人デュミオン』たる私達が引き起こしたもの。その責任を取るべきなのも、『獣人デュミオン』である私達なのは必然ですよ」


「別に、『獣人デュミオン』全員が悪いわけじゃないけど」


「それでも、国民を納得させるにはこうする他ないんですよ」リハナは自分で言ってて可笑しくなったのか、自嘲気味に苦笑いした。「ただでさえ、心証が悪い異世界人が、酷い裏切りをしたとなれば、心証だけでなく歴史的にも、事実無根の『人類の敵』になっちゃうんですよ?」


「だから、それになるための第一歩なんだけどなあ」


「それになりたくない『獣人デュミオン』もいるんですよ」私がその代表です、とリハナは付け足した。「私だけじゃない。この渋谷ヒカリエは、『派遣ビーファ』の各小隊が包囲しています。逃げ道はありませんよ」


「……ホントかな、それ」リハナの言い分を聞いたクレハは、まずそのことを疑わしく思った。「本当に『派遣ビーファ』がここに来てるの? だったら、建物じゃなくて、私のことを物量で捕らえるなりすればいいのに」


 クレハは、リハナやミデアのように索敵能力に長けているわけではない。しかし、それでも『獣人デュミオン』の一般的な五感として、地球人よりは遥かに聴覚は鋭い。近くに生物が隠れていようものなら、僅かな物音も聞き逃さず察知できる自負があった。

 その自身の本能的な判断を信じるならば、この指定した地にリハナ以外の生物の気配はなかった。もしも、リハナの話が本当ならば、アイーシャやミデアの戦力分も考慮してもっと人数を集めてくるだろう、と予想がついた。


 とはいえ、首相は国の要。そんな人物を助けるのだから、その人員を最低にまでくとも考えづらい。クレハは相手の意図を計りかねていた。


「どうして、リハナはわざわざ一人で来たの?」


「……解らないんですか」はあ、とリハナはため息をついた。それは、彼女が初めて、憧れの先輩に対して感じた失望かもしれない。「私が一人で来た理由。ずっと、話してたじゃないですか。心証を悪くするだけでなく、正真正銘の悪人になってしまう可能性。――逆に言えば、私一人で皆さんを倒してしまえば、、クレハさん達は心証が悪いだけで済むというわけですよね」


 リハナの言葉に、クレハは暫し固まってしまった。あまりにも予想外だったからだ。

 リハナの言い分、それはすなわち、クレハ達の行動が悪と断定される前に倒してしまえば、彼女達はまだ『派遣ビーファ』に戻すことができる。そう言っているのだから。


「……正気?」


「本気も本気です」


 クレハは言葉を吐き出す直前に、急遽それを呑み込んで沈黙を洩らした。頭上の照明がチカチカと明滅しており、口を閉ざす二人に影を落としたりしなかったり、ちょっかいをかけているかのようだった。


「次は私が質問をしてもいいですか?」リハナが口を開いた。鋭さを増した瞳は、研ぎ澄まされた決意を抱く彼女の心の表れのようだった。


「どうぞ」クレハもそれに応じた。腰に挿した剣の柄に触れる。


「今からでも首相を返して、大人しく投降してくれる気はありませんか?」


「ないね、全く」


「その服、とっても似合っていると思いますよ」


「ありがとう」


 クレハの服装は朝と同様、動きやすさを重視したものだった。戦いに備えるため、その一点をより極めた装備で身を固めていた。『獣人デュミオン』はその身体能力の高さを活かせるように軽装を好むことが多かった。『騎士団アルスマン』の制服も、鎧ではなく布地を基調としている。


 そういった慣れもあって、普段からクレハも軽装を好むのだが、日本の服に関しては違った。なんといっても、様々な種類の服がある、何枚も重ねても重さがあまり変わらない、とクレハの嗜好に合致していた。休日も、度々東京の街で服漁りをしていたぐらいだった。


「クレハさんの素敵な格好がある地球は死守すべきだと思いませんか?」


「……もしかして、説得しようとしてる?」クレハは思わず噴き出した。説得にしても他にやりようはなかったのか。表情を崩したのはほんの一瞬で、次にはいつもの能面が張り付いていた。「だとしたらクドイよ。私達は相容れないところまで来ている」


「どうしてそこまで侵略に固執するんですか!」


「……別に、侵略をしたいわけじゃないよ」


「……!」ぼそりとこぼれたクレハの呟きに、リハナは驚いたように耳を立てた。


「行動しなければ変化しない。この不平等な世界は変わらない。その暗闇を模索しながら掴んだその手に、今回の計画があったんだ。あったんだよ……!」


「クレハさん……」


 研がれた刃が鞘から抜かれる、快活な音が鳴った。クレハは己の体重と遜色ない剣を片手で支え、その切っ先を対峙するリハナに差し向けた。


「不平等な在り方を傍受しなきゃ生きていけないのなら、私は秩序なき獣に成り下がっても構わない」


 風が舞った。初速にして常人には追いつかぬスピードで駆け出したクレハは、片手で持った剣の姿勢を正面に調節し、通り過ぎる空気の冷たさを全身に感じながら、自身をその一部と混合させるかのように、漫然と立ち尽くすリハナに一瞬で接近した。


「風脚――桜吹雪センカイ


 己に流れる魔力マナの循環を愛剣にも通し、強度や鋭さを底上げさせる達人技。

 獣人デュミオン本来の身体能力と恵まれた上質な魔力マナによる強化の連携。


 スポーツカーのような速度にまで引き上げられた彼女の速力が集中した先には、強さの資本を幾重にも施された兵器にも等しい極上の剣が破壊を滾らせており、今か今かとそのエネルギーのけ口を探し求めているような有り様だった。


 そして、その捌け口――剣の軌道上にいたリハナに接触した瞬間、溜め込まれた魔力マナは解放される。


 それは、一本の極楽を体現した桜が舞い散る姿にも似ていた。何年も年を重ねて生命を繋げてきた満開の桜。それが、一陣の突風に巻き込まれ、無惨にも散っていく。だが、そんな無情な儚さすらも妖しく彩る退廃の美。

 クレハの放った刺突は、剣が触れる範囲に収まらず、まさに散りゆく桜の花びらが風と踊るように、リハナがいた位置からその先の風景すべてを呑み込んだ。


 コンクリートはめくれ上がり、支柱に無数の切り傷が刻まれ、粉塵が嵐のように吹き上がる。効果範囲にあった車はいずれもその余波に襲われ、壁や柱にぶつかっては死んだ虫のようにひっくり返っていた。


「『桜吹雪センカイ』は威力が大きい分、魔力マナの消費も激しい。『頭脳ブレイン』のときに使わなかったのは、あの分身の中に本物がいるか確証がなかったから。――そう言えば言い訳になるかな?」


 クレハはリハナに挑発的な言葉を送る。しかし、当の本人は、吹き荒ぶ砂塵が障害となり、その姿は確認できなかった。


 返答も暫くなし。


 しかし、クレハは今の一撃でリハナを仕留めたつもりはなかった。


 やがて、巻き上げられた砂の波が落ち着きを取り戻した頃、彼女のひらけた視界には――――


「全長85センチ、重さ1キロ未満。千年近い歴史の中、幾度も軽量化と研磨の至高を追求した末、大量生産の費用や素材の高価さも兼ねた、争いに特化した『騎士団アルスマン』の長物」クレハは淡々と言葉を洩らした。「腰に提げた鞘を見たときから、ずっと疑問には思ってたけど、それを持ってること自体はそこまで不思議ではないよね。『派遣ビーファ』に支給されてる一般装備だし」


 銀色の刃。光が反射し、白く輝くような刀身は、上質な鋼材を下地に細く鋭く研ぎ澄まされていた。

 恐らく、新品だろう。この大一番に誰かの使い古しを使いまわすようなことをするはずがない。彼女の言う通り、『派遣ビーファ』には『騎士団アルスマン』の基本装備となるロングソードの備蓄があった。戦いの絶えない『ヘルミナス王国』では、戦闘を優位に進めるための研鑽を怠らず、騎士剣の性能も量産品とは思えない上等な品質をしていた。


「問題なのは――どうしてリハナがそれを持っているのか、ということだけど」


 砂埃が晴れた後、クレハの前に現れたのは、ヘルミナス王国御用達の騎士剣を構えたリハナの姿だった。


 ――『桜吹雪センカイ』を剣で防御したか。


 リハナは激しく呼吸をしていた。剣の平地をこちらに向け、防御の体勢を取っていた。制服の袖や裾には破れた箇所があり、頭や肩には舞った砂の残滓が残っているが、肝心のダメージを負った気配がなかった。


 ――その程度で防げるはずがないと思うけど。


 クレハは駐車場の床を見下ろした。自分のいる位置から、黒い焦げた跡が、二つのラインとなってリハナの足元にまで及んでいた。


 突きを放ったとき、クレハは確かに剣先が何かにぶつかる感触を得た。それが、彼女が刀身で受け止めた結果なのであれば、その反動で出来た擦れた靴跡なのだろうが、ただのロングソードが魔力マナを帯びた剣の一撃を無効化できるとは思えなかった。


「私に剣術で挑もうとは良い度胸だ」


 ――リハナは魔力マナを覚醒させてる。

 ――戦力は未知数。

 ――油断はできない。


 軽口とは裏腹に、クレハの心中には未曾有の危機に立ち向かうような警戒と危惧が渦巻いていた。

 出来れば一撃で終わらせてしまいたかった憂慮を消し、流れる魔力マナに再度意識を集中させる。

 無骨な両手剣を片手で構える姿は、爽やかな河流に巨大な岩が転がり落ちてくるかのような無骨な矛盾を、さりとて二度とない精悍さを呈していた。


 対し、リハナの持つ剣にはまるで覇気がなく、構える姿にも何処かぎこちなさがあり、身の丈に合わない心許なさを感じられた。


「まだ、私がきたいことは終わってないんですけどね」


 だが、その眼に宿る意思の強さは煌々と燃え上がり、そこだけはクレハにも劣らぬ気迫に満ちていた。


「それ、答えて私に得ある?」


 先ほどのクレハの一撃により、天井を走るような蛍光灯のカバーのその連結部が損傷し、地面に勢いよく落下した。


 パリィン、と割れる音が反響した。


 その音を合図に両者は動き出した。魔力マナの巡りにより得た瞬発力は駐車場の床を容易く砕いた。


 リーチが長い分、クレハは先手を打つことができた。リハナとの間合いを計算しながら、剣を水平に薙ぎ払う。隙の大きい大振り。しかし、そこをクレハの魔力マナと技量で補い、リハナの反撃を許さぬほどのスピードにまで引き上げていた。


 しかし、リハナはそれを読み、いち早く剣で防御の形を取り、迫る一撃の衝撃を緩和させるために受け止めるのではなく、接触する刃同士を滑らせるように流した。そして、流れるように空振りしたクレハの懐に忍び込み、反撃の一手を振り上げる。


 キン、という金属同士のぶつかる甲高い音。


 クレハの振り抜いた剣が急激な逆走を行い、彼女の身体に刃が届く前にしっかりと受け止めた。魔力マナで強化された腕力と、予め頭にインプットしていなければできない強引な軌道修正。クレハはそのまま力に任せてリハナを押し飛ばそうとした。


 しかし、そこでまたもや剣がリハナの騎士剣を上滑りする。魔力マナが流れた剣とただのロングソード。強度も重さも雲泥の差のはずだ。にも拘らず、逸れる。どれだけ力を上乗せしても、敷かれたレール上しか車輪が通らないように、刃同士が擦れて火花を散らす結果にしかならない。


 ――これは…………。


 身を回転するように翻しながら攻撃を続ける。ガキン、と防がれる。というより、受け流される。


 さらに、上から、斜め、水平に、と趣向を変えながら斬撃を幾度も叩き込むが、そのことごとくが力を分散させられてしまい、リハナにまで刃が届かない。


 ――なるほど。

 ――そういうことか。


 攻撃が受け流される。その瞬間を、リハナは見逃さず、低い姿勢のまま下から剣を切り上げた。


 すんでのところで、クレハは後ろに跳んで回避した。そこから、さらに二回大きく跳び退る。


「ギルドリエ流剣式三の型『転亀舞クレストキール』」飛び退いた先の地点でクレハは話し出した。「通常、武器に魔力マナを流すときに意識する刃文ではなく、平地に魔力マナを集中させる技巧。相手の刃が接触した際に魔力マナの流れを操作することにより、コンベア式に相手の攻撃を受け流すことを重点に置いた防御技」


「流石に詳しいですね」


「ギルドリエ家の戦い方は何度も見てきてるからね。横もそうだし、正面から実際に受けたこともある」我流の型を作るときに参考にもさせてもらったよ、と彼女は『ヘルミナス王国』での騎士時代を思い出しているのか、懐かしむような、過去の情景に思い馳せるような顔を――することはなく相変わらず淡々と言った。「ただ、もちろん、全員ができるわけじゃない。魔力マナを利用した剣術には、当然それに使う剣に魔力マナを通さなければならない」


 魔力マナは大まかに二種類に分けられる。己が肉体に流れるもの。そして、世界に偏在するもの。


 『獣人デュミオン』は基本的に前者にて武器や拳を振るう。その基本を極めるために武術を磨くのが、『騎士アルス』の鍛え方だった。その上で、武術を極めし者が頂点よりさらに天上を目指すための指標。それが、手にした武器に己の魔力マナを流す、腕や脚を動かすような、呼吸をするような、自由自在な技術力だった。


「いつの間に追いついたの?」クレハの言いたいこととは、そういうことだった。


「……ギルドリエの方々とは家族単位で親密な関係でしたので、この剣術を習うこと自体は難しいことではありませんでした」リハナはぽつりぽつりと洩らし始めた。「ですが、実践で使うのは初めてでした。まさか、ここまで上手くいくとは、自分でもビックリしてます」


 リハナはこれまで魔力マナに恵まれなかった。それが一転して人並み以上の力を手に入れたが途端、昨日今日のレベルでここまで上達したのは、努力が実った形なのか、それとも元から才能があったのか。


「ぶっつけ本番だなんて、ナメられたものだね」クレハは剣を構え直した。「少し強くなったからって、新しいことにすぐチャレンジすると痛い目見るよ。特に、同じ領域に立つ先人を相手にするんだから、付け焼き刃なことには変わらない。そんなので、私達に勝てるとでも?」


「私『達』、ですか……」リハナも同じように相対する。「さっきの質問の続きですが、クレハさんの言う『達』に入るあの二人は、一体どこにいるんですか?」


「…………」


「全く耳の感知に入らない。本当に、この建物にいるんでしょうか?」

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