⑤ 私たちの予定は交わらない

「ねぇ、来週の交際記念日に沖縄行こう。チケットはもう取ったから」


 同棲してまだ一カ月の彼女が宣言した。


 またか。


 彼女は強引な性格で、いつも勝手に二人の予定を決めてしまう。

 まあ小学校からの付き合いだし、俺ももう慣れっこだ。それに俺も悪い気がしないから不思議だ。


「まあいいよ」

「ふふ…また水族館行こうね」

「ん? 沖縄の水族館なんて行ったことないよね?」

「あーそうだったね」



 一週間後、俺たちは沖縄の水族館を楽しみ、彼女の希望でダイビングをしていた。


 透き通った海の中、彼女がぎゅっと手をつないでくる。こういう可愛いところが俺は昔から好きなんだ。


 ふと、前方に大きな影が見えた。


 あれは…サメ?


 そう思った次の瞬間、サメが大口を開けて俺に突っ込んきた。



---



 私は、海の底に沈んでいく彼の下半身を眺めていた。


「はぁ」


 ため息をつくとシュノーケルの先から泡が立ち上っていく。


 私は静かに目を閉じ……一週間前にタイムリープした。



 ダブルベッドの上で目を覚ます。


 隣には気持ちよさそうに眠る彼の寝顔があった。


 これで6779回目。


 私はいつものセリフを口にする。


「何度時を繰り返しても彼氏が死んじゃうんだけど!?」


 寝ぐせのついた髪をかきむしる。


 彼はどこに行こうが隠れようが、一週間後の同じ時間に必ず死んでしまう。


 小学校時代、彼が交通事故に巻き込まれそうになったのを救った時から一カ月に一度は死んでいる。


 その度に私は一週間前に戻り、彼を連れ回して回避していた。


 でも今回ばかりはどうにも回避できない。


 きっと彼には死の運命がつきまとっているのだろう。


「あーあ、そろそろ潮時かなぁ」


 もういいかな、とも思う。


 この繰り返しで日本中のほとんどの名所は巡ったし、夢だったハワイにも一緒に行けた。


 もう人生二週分くらいは、彼との時間を満喫している。


 この繰り返しの始まりを思い出す。


 一週間後、部屋に強盗が入る。


 ナイフを持った男はまっすぐ私に向かってきて、冷たい刃がお腹に触れて……その瞬間、私は咄嗟に時を遡ったのだ。


 何度か遡って、警察を呼んだりドアを溶接したりしても、いろんな理由で私は死にかけた。


 きっと、この部屋にいる限り私は死ぬ運命なのだろう。



「おはよう」


 隣で彼が目を覚ます。


「…ねぇ、来週の交際記念日さ」

「君のことだからもう予定決めてあるんだろ?」


 屈託のない笑顔で彼が言う。


「……決めてないよ」

「めずらしいね」

「なんか、もう疲れちゃった。今回はそっちが決めてよ」

「そうだなぁ…たまには部屋でまったりしようか」

「うん、いいね」


 私はいつものように彼に微笑みかけた。


(おわり)

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知らない予定が入ってる 月見白 @tukimi_haku

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