第4話 宣戦布告、そして開戦
あれから時が過ぎ、この日の夕方をもって講義はすべて終了した。何とか魔術も覚えて、戦闘も様になった。しかしまだこの子供の身体に慣れないというか、動きがまだ不安な部分がある。
これはもう気合いでどうにかしないといけない。ていうかこんな子供の姿に転生させたゾフィーが悪いのだ。ゾフィーを倒してさっさと元の姿に戻って元の世界にも帰りたい所なのだが。
「あの人…何しているんだろう」
夫は今どこで何をしているのか。と自室のベッドの上で思い浮かべた。生きていればいいのだが…
「萌、おはようございます」
ギュールが自室に入ってきた。私は彼女へきちんとおはようございます。と挨拶を返した所で、なぜ夕方なのにおはようございます。なんだろう?というツッコミが湧いた。
「お、おはようございます」
「では、今から荷物をまとめてください」
「へ?」
いきなりの話で頭が混乱する。どういう事だ?ワルプルギスナハトは明日で移動も明日の筈なのだが。
「もう現地に行きます」
「ええっ?!!」
「さっさと現地に入っていた方が下見とか出来ますからね」
というギュールの圧に負けて、私は急いで準備を済ませると、ギュールと共にワルプルギスナハトが行われる会場へと瞬間移動の魔術で移動した。
「ここが、会場の入り口になります」
入り口から見た会場には色とりどりの旗が飾られており、パッと見普通のフェス会場のように見える。まだ人こそいないが、屋台やキッチンカーと言ったものも見られた。
「こんな感じなんですか」
「そうですね、当日になればもっと華やかになります」
ギュールは私の左手を掴み、入口へと入っていった。もう日が沈み辺りは暗くなっているが、規則正しく配置された松明が灯りとなって私達を誘ってくれる。
暗い道を真っすぐ進んでいくと、アリーナっぽい広場がうっすらと見えた。
「ここで決闘が行われます」
「ここですか」
アリーナには屋根は無く、椅子も無い。例えるなら地方の球場の外野席みたく芝生が広がっている。
「思ったより広いんですね」
「そうでしょう、何せ魔女同士の決闘ですからね」
この時だった。突如私の背中に生えている産毛が一斉に逆立つ。ああ、これは嫌な予感と言うやつだ。
「誰っ?!」
「…気づいたか」
その声は紛れもなくゾフィーだった。胸元が大きく開いていて右足には大胆にスリットが入っている黒いドレスを着用している。
「ゾフィー、あなたも来たのですか…?」
「そりゃあ、ワルプルギスナハトだからねえ、下見は大事だろう?ああ、そうだ良いものを見せてやろう」
ゾフィーはそう言って右手のひらを空の方へ向けると、一瞬にして手の上に水晶玉らしき物体が浮かび上がった。そこにはなんと、夫が裸のままゾフィーと共に同じベッドで寝ている姿が映し出されている。そして場所はおそらくラブホテルだろうというのも分かった。
「なっ…」
「お前の夫は私の分身と仲良くやっているよ」
「なんだと…」
頭の中が完全に怒りで支配された時、ギュールが落ちつきなさい。と私に告げた。
「冷静になりなさい」
「…っ」
ギュールの言葉を暗示にして冷静さを取り戻す。するとほんの一瞬だけ夫と目が合った。
だが、夫の瞳は不気味なほど真っ赤に光り輝いていた。そしてその光には生気が全く感じられない。これは人間のそれでは無い事は一目見ても分かる。
「これも、ゾフィーの仕業か…」
「典型的な催眠術ですね。魔力のない人間にはよく効くでしょう」
「くっ…」
魔女なら催眠術くらい余裕だろう。それで夫は簡単に引っかかったと思うと、相手が人間では叶わない相手だという事を改めて痛感させられる。
「よし」
私は覚悟を決めた。
「ゾフィー、明日ここで白黒つけましょう。私が勝ったら夫を返して全部元に戻しなさい」
宣戦布告。復讐するなら正々堂々と決闘でゾフィーに勝って勝負をつける。それが私の結論だ。
「ふん、生意気だねえ。子供のくせに勝てるとでも?」
「ええ、ギュールさんに助けてもらったから」
「ゾフィー。この子が勝てばこの子の願いを全て聞き届けなさいね。この事は後でワルプルギスナハトの主催にも話しますから」
「ふん…」
気に入らないとでもいうようなゾフィーの表情。しかしふうっと息を吐きながら納得したかのように頷き始めた。
「分かった、決闘を受け入れよう。ただし私が勝てばお前は元には戻してやらん」
「勿論。勝てば全部元に戻してくださいよ?」
宣戦布告が終わり、ついにワルプルギスナハト当日。決闘の時がやってきた。
「東、クレル!西、ゾフィー!両者の入場です!」
私はゆっくりと歩きながら、アリーナへと歩いていく。今着ている黒いワンピースはギュールがくれたものだ。
「この服には魔力がたっぷりこもっています。頑張ってください」
と語ってくれたギュールの言葉が、今も脳内で響いている。
「絶対、勝つ!」
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