第3話 魔女修行、開始します。

「では、今日から修行を始めます。いいですかクレル…いや萌?」

「は、はい」

(てか、私の前世の名前知ってたんだ。まあ知ってるよね)


 ギュールに魔女になればいいと言われた日。私は悩んだ末に魔女になる道を選んだ。もちろん、ゾフィーに一泡吹かせて痛い目に合わせたいからだ。

 勿論ゾフィーには夫の居所についても吐かせたい。だが、相手は伝説の大魔女。油断と慢心は一つも出来ない。


「まずはこの書を音読してください」


 そう言うと、ギュールは学生みたく机に座る私の目の前に、辞書並みに分厚い書物をどさどさっと置いてきた。


「これをですか?!全部?!!」

「そうです」

(ええ…)


 だが、これもゾフィーへの復讐の為だ。私は言われた通りに全てを音読し終えると、なんだか体の奥底から温かなエネルギーが放射線状に放たれていくような、そんな感覚を覚える。

 しかし、本は重い。10歳の体という事もあってか、より重さが増しているように感じる。


「今、あなたは魔力を得ました」

(さっきの感覚…そう言う事だったのか)

「次は魔術に関する講義です。頑張ってついてきてくださいね?」

「は、はい…」


 日没とともに講義が終わると、ギュールは今日はこれで終わりにしましょうと言って今日の分の講義が終わった。ちなみにこの講義、あと6日間あるらしい。


(ついていけるのか、自分…いや、ついていかなきゃ…!)


 夕食はギュールが魔法でささっと用意してくれた。ビーフシチューに茹でキャベツとニンジンのサラダ。主食はライスとパンの二択という事で、ライスを選んだ。


「ありがとうございます。いただきます」

「どうぞ。私も頂くわ」


 ビーフシチューを銀のスプーンですくい、ふーふーと息を拭いて冷ましてから口に含む。


「美味しいっ…!」


 濃厚な味わいのルーの味が、ほくほくとしたジャガイモとニンジンに染みこんでおりとても美味しい。これはごはんにあう。お肉も柔らかく溶け込んでおり、全く硬くない。

 サラダもドレッシングのオイルと塩気のある何かのバランスが丁度良く、さっぱりと頂ける。


「萌に気に入って頂けて良かったです」

「ギュールさんは普段から料理するんですか?」

「ええ、魔法でささっとやってるだけですがね」

(私も魔法でささっと料理できるようになれるのだろうか)


 魔法が使えれば、時短になる。1時間の工程が10分1分に短縮する事だって出来るだろう。しかし、自分で1から作るのも味わいがあってアリかもしれない。

 だって、夫のあの笑顔を見れば、それまでの大変な工程とそこから来た疲れも全て吹き飛ぶという物だ。


(料理に関してはあまり、魔法に頼りっぱなしなのも駄目に思える。モチベ的に)


 夕食を食べ終えて、ギュールに案内されて入った自室(お風呂トイレ付き)でお風呂に入り終えると、もう一度今日の講義の復習をやっておく。


「おお…!」


 自分が魔術を使えている。これは前までは考えもしなかった事だ。そもそもファンタジーとか、さして興味は無かったし、そもそも夫との生活だけで私は満たされていたので、たらればを空想や妄想をするという事も無かった。


「なんだか、まだ実感が無いな」


 文字がみっちり書かれた魔術本を見ながら、私は呪文を唱える度に光を放つ魔法陣をぼんやりと見つめていたのだった。

 翌日。朝食は私とギュールが共同で作った。ごはんと卵焼きに、ウインナーを焼いたものと野菜たっぷりの味噌汁である。この世界にも味噌といった和食に使う調味料があるのは驚きである。


「これが、萌がいた世界の朝食なんですね。とっても美味しい!」

「お口にあって良かったです」


 朝食が済めばまた講義が始まる。更に今日からは実戦形式の授業も始まった。


「避けてっ!!」

「わあっ!!」


 迫り来る火の玉や氷塊を避けたり、魔術でシールドを張って防いだり、的を相手に攻撃魔法を繰り出したり、ジャンプや近接戦闘と言ったアクション…なんかをするのだが、いかんせん子供の体という事もあって上手くいかない。


「ぎゃっ!!膝擦りむいた!」


 転んで膝をすりむくし、その他切り傷やあざがあっという間に増えていく。ひりひりして痛いがすぐに自分で医療魔術を唱えて、なんとか治す。


「まだまだ行きますよ!」

「は、はいっ!」


 日が落ちた頃には大分形にはなって来た…かもしれない。しかしまだまだ課題は多く残されているとギュールは語った。


「この体としては十分よくやってると思います。しかし、まだまだですね」

「ですよね…」

「引き続き鍛錬していきましょう。鍛錬あるのみです」


 夕食。この日はマカロニの入った具だくさんの野菜スープだった。ミネストローネ風と言うべきか、トマトの濃厚な味とコンソメがよく合う。

 これらは全てギュールのメイドが用意したものだ。ちなみにギュールのメイドも全員魔女である。


「美味しいっ」

「良かったです」

「食べ応えあっていいです」


 私がむしゃむしゃと野菜スープを食べ進めていくと、ギュールが突如真剣な表情をして口を開く。


「1週間後。ワルプルギスナハトがあります」

「ワルプルギスナハト?」

「端的に言えば春と秋の2回行われる、魔女たちの集会です」


 ギュールの説明をまとめると、ワルプルギスナハトではこの世界にいるすべての魔女が一堂に会し、交流したりお祭りを開いたりするのだという。

 その中の一大イベントが、決闘。相手を指名し行われるそれに私が出て、正々堂々とゾフィーと対決すれば良いとの事だった。


(正々堂々と一騎打ちか…)

「その方が、後腐れなく復讐できるでしょうし」

「でも一対一ですよね?」

「ええ、でも決闘に負けても死ぬ事は無いのでご安心を」

(死なないで済むのは良かった…もっと強くならなきゃ)


 私は最後に残ったスープを飲み干して、ごちそうさまと手を合わせるとすぐさま自室に戻って魔術の勉強に戻る。


(絶対に勝たなきゃ…!)





 

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