第15話「首刈りトンネルの怪異!」
「お嬢ちゃんよォ〜!俺達と一緒に遊ぼうぜぇ!!」
「いやぁああああ!!」
腕に髑髏と龍を模したタトゥーの入った背の高い男が、ナイフちらつかせて女性に躙り寄っている。
彼女は帰宅途中に、運悪くこの首刈りトンネルと呼ばれる心霊スポットに迷い込み、凶暴な不良と遭遇してしまったのだ。
「ひっ...」
追い詰められた女性はカーブミラーに背中をぶつけ、へたり込んでしまう。
「へへへ!大人しくしてろ、今夜は寝かさな...」
スパッ...。女性が今まさに手籠めにされる寸前、真っ黒なトンネルの中から、巨大な鎌がブーメランの様に飛んできて、カーブミラーごと不良の首を切断した。
「きゃああああああ!!」
次は自分の番ではないかと疑った女性は、全速力で逃げ出した。絶体絶命の窮地から脱したものの、これはこれで心に深い傷を残す光景となる。
「...酷いことをする輩もいたものです、胸糞悪い」
悪鬼の首を刎ねて見事に成敗した鎌を再度その手に収める投擲手の名は、死神首蟷螂。
「お前のほうがひでえよ、斬首刑なんてさ〜!」
「ええまったくですわ、ああ、おかわいそう、こんな弱者に殺されてしまうなんて!」
死神を嘲笑いながら墓石を蹴り倒す罰当たりな不届き者は、冴雅を一方的にライバル視していた、金城家に保護された筈の幡ヶ谷 美魅と、彼女の許嫁である三上
「相変わらず暇な人たちですね...!?」
マントを翻して場を去ろうとする首蟷螂だったが、突然、金縛りにあったかのように脚が動かなくなってしまった。
「あなた、仲間である筈の私に―――!!」
首蟷螂が言う貴方とは美魅のこと、酸を操る能力で相手を溶かしたり、または痺れさせることも手慣れたものである。
「仲間あ?誰がだよ、私から見たらテメエは部下同然だ」
「おほほほっ、無苦様からの言付けですわ、今度こそ貴方が殺りなさいとね!!」
美魅がそう伝えた瞬間に、蟷螂の体は、フッと風船の様に軽くなった。
「...わかりました、今度こそターゲットの命を戴いて参ります」
「まあ失敗するのが目に見えてるけどな」
「その次こそ!いよいよ、わたくしたちの出番ですわ、うふふ、失敗するならするで、なるべく早くしてくださいまし、貧乏人の無能が!」
憎たらしい味方かつ仇からの罵詈雑言が、死神の背中に浴びせられる。
「失礼します...」
どちらも単独で彼女を上回る力を持つのに、二対一ではなおさら勝ち目がない、拳を強く握り締めつつ、蟷螂は今度こそ立ち去った。
「私は無苦の姉だよ。あなた程の実力者ならたぶん知っていると思う」
学園屋上のフェンスを掴み、水無は裏山を遠い目で見つめている。
「津神 無苦―――あなたの妹でしたわよね、最近になって高頻度で発生している蒸発事件を追っているうちに耳にした名前ですわ」
フェンスにもたれ掛かかって緋美華と肩を寄せ合い、手を繋いで寝ている風見ひよりに熱い視線を向けつつも、冴雅は水無との会話に集中している。
「異能を含めた全てを封じ、鋼鉄だろうと切り刻む糸を操る組織“鴉”《ラーベ・エンゲル》が七幹部”漆翼"《ゲファレフ・リューゲル》の一翼...」
勇敢で強靭な精神を持つ冴雅も、この名前を聞くたびに些細な恐怖が心の隅に生じる。
一騎当千の強者たちが束になって襲い掛かるも、たったひとりの幼子に溶かされ、晒し首にされ、毒殺され、三分足らずで全滅したのは、彼女の記憶に新しかった。
「無苦の一番厄介なのは能力を無効にする糸、それを更に無力化する炎を操れる緋美華...首領が彼女を抹殺したいのも頷ける、お気に入りの部下を倒す可能性がある者ならば」
水無と冴雅が同時に視線を向けた、希望となる少女の寝顔の愛らしさは、どうみても平凡な女子高生のものだ。
「前々から総合的な運動神経だけでいえば、わたくしを上回っていた方ですから、納得はいきますわね」
「アジトは富士の樹海...無苦が根城にしているのは、多羅蟲森林にある髑蜘蛛館」
「情報提供、感謝します」
正直なところ、水無が自分たちを罠の中に誘き出そうとしている可能性だって考えているが、冴雅は胸の内にしまう。
もしも本当に味方だった場合は、疑われた事で状況が悪化する可能性があるからだ。
「風見さん、起きてくださいまし!」
「わっ...!ごめんなさい、わたしったら寝ちゃってたわね」
冴雅に肩を優しく揺さぶられて目を覚ましたひよりは、すっかり夕暮れになっている事に気付く。
「とっても素敵な寝顔でしたわよ」
「照れちゃうわ...」
「恥じらう風見さん、なんて美しいのかしら!」
しっかり者の寝顔は、あどけない純粋さを伴っており、冴雅はこれを思い出すと恍惚な表情になってしまう。
「あっほら、あんたも起きなさ―――」
「起きてるよ〜!」
意外にも緋美華は自分から起きていた、そうとは知らないひよりの手刀は、彼女の脳天スレスレまで振り下ろされている。
「照れ隠しチョップ反対!」
「ごめん」
こほん。冴雅はここで咳払いして、ふたりの視線を自分に向けさせる。
「風見さんは、私のメイドに護衛させますので、我が邸宅にて留守をお願い致します」
「あ...そうね、わかったわ…世話になるわね」
「風見さん...」
理解しているつもりだ、自分には戦う力が無いので、付いていってもサクッと死んでしまうか、最悪足手纏いになってしまうことは。
(貴女のお気持ち、わかりますわ...相当お辛いでしょう、わたくしがなんとかしなければ!)」
愛する少女の心の為にも、いち早く敵を殲滅・帰還してみせると冴雅は誓うのだった。
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