529 奈緒さんの信用を勝ち得るには

 アヤフヤな原因の究明しか出来ないまま、過去の回想が終わり現代へ。

だがそう成ると、当然、自身の変わり果てた姿の前には奈緒さんが居る。


ならば、その奈緒さんを説得しなきゃいけない所だが……矢張り、彼女は聞く耳を持たない。


そんな困り果てた状態の中。

俺が何気に放った『それが倉津真琴に関する事でもですか?』が功を奏し、奈緒さんの興味を漸く引く事が出来た!!


おっしゃ!!なら、此処からが勝負だな!!( ゚Д゚)و


***


「あっ、あの、なにもしてないッス。おっ、俺が、その倉津真琴ッスから」

「君……人を馬鹿にするのも程々にしなよ。そうやって君が、クラの真似をするのは勝手だけど。クラは『男』なの。君みたいな『女』じゃないの」

「だから、そこを説明させて下さい。ホントに理由があるんで」

「『理由』?……じゃあなに?君は、クラが一晩の内に『性転換』でもしたって言いたい訳?」

「そうッス!!その通りなんッス!!」

「馬鹿言わないでよ。そんな事、時間的にも有り得る訳ないでしょ。それに大体にして、クラが女になる理由なんてないでしょ」


それは非常に正しい言い分なんッスよ、奈緒さん。


けど、これは、そう言う問題じゃ無いんッスよ。

実際の所『なんで女になったのか』なんて、俺にもサッパリわかんないんッスから。



「……そうッスよね。そんな理由は、どこにもないッスよね。俺が奈緒さんの彼氏である以上、女になる理由なんてなにもないッスもんね」

「えっ?ちょ……ちょっと待って」

「あっ、はい」

「なんで見ず知らずの君が、そんな事を知ってるのよ?」

「えぇっと、なにがッスか?」

「なんでクラが、私の彼氏だって知ってるのって聞いてるの」

「そりゃあ、本人ッスから」

「本人……ねぇ、君。自分の生年月日を言ってみ」


あっ……



「しっ、信用してくれるんッスか?」

「余計な事は言わなくて良いから、早く自分の生年月日を言ってみ」

「あぁ、はい。1984年6月13日、午前6:06生まれッス」

「じゃあ次。ご両親の職業と、そこに勤めてる会社の人の名前」

「会社の人の名前って……奈緒さんが知ってる人なら、玄さんとかで良いんッスかね?」

「う~~~ん。じゃあ次。君の一番の親友は誰?」

「崇秀ッスかね。あぁ若しくは、奈緒さんに、いつも『ポコポコ』殴られてる山中とか」


そうだよ、そうだよ。

こうやって、俺のパーソナルデータを克明に話せば、少しは奈緒さんも信用してくれるかも知れないよな。


けど、それだけに細心の注意を払って話をしないとな。



「じゃあ次。1645315+982514=」

「あぁっと、すみません。もぅ一回お願いします」

「1645315+982514=……早く答えてみ」

「あぁ、ウッス。多分2627829ッス」

「正解かぁ。……ねぇ、君……本当にクラなの?」

「あっ……はっ、はい!!」


やった……

まさか最後に、計算問題が出て来るとは思わなかったが、これは俺と奈緒さんしか知らない事。

この質問が出るって事は、少なからず俺を信用してくれたって証の筈。


良かった……


ホントに良かった……



「ねぇ、君。喜んでる所に水を差して悪いんだけど。まだ頭の整理がついてないから、完全に君を信用してる訳じゃないのよ。けど、なんで女の子になんかなってる訳?そこが一番謎なのよ」

「あぁ、いや、そこは、俺にも良く解んないんッスけど。多分、崇秀の奴に貰った薬のせいかと」

「『薬』?……なんの薬?一晩で性転換出来る薬なんて聞いた事もないよ」

「いや、それが、ひょっとしたら有り得るんですよ」

「なんで?どう言う原理?」


原理……



「あぁ、いや、流石に原理とかは、俺なんかみたいな馬鹿じゃあ、サッパリ見当も付かないんッスけど。証拠が有るとするなら、アイツの親父が遺伝子工学の博士って事ッス。だから、ひょっとして、そこかなぁとか思ってるんッスけど」

「確証は無いと」

「あっ、はい。話を聞いて貰ってるにの申し訳ないッス。……あぁ、けど、実はさっき、こうなった原因について、改めて昨晩の自分の行動から考えてみたんッスけど。それ以外、なにも思い付かなくて」


所詮は、こんなの絵空事を話してるだけなんだが。

今は、正直に思った事を言うしか方法がないんだよ。


奈緒さんに信用して貰わないと、此処を追い出されちまうからな。



「じゃあ、結論的には、直接、仲居間さんに聞くしか方法はないって事?」

「はぁ、申し訳無いんッスけど。今は、それしか方法が……」

「そっか。じゃあ、取り敢えずだけど。仲居間さんに電話してみる?」

「そうッスね。それしかないッスね」


そう言いながらも困惑が隠せないのか。

電話を掛けながら、奈緒さんはコチラをチラチラと見ている。


疑われてるみたいで残念だけど、これバッカリは、こんな状態じゃしょうがないよな。


誰だって、こうして然るべきだもんな。


***


「あぁ、ダメだ。仲居間さん出ないみたい。忙しいのかなぁ?」

「そうッスか。……あぁ、じゃあ、諦めるのもなんなんで、俺も携帯で掛けてみます」

「あっ、うん」


電話を掛けてみるが、奈緒さんの視線は、俺から外れない。


寧ろ、ジッと見てる。


流石に、これはキツイな。

それに追い討ちする様に、崇秀の奴は一向に電話に出る気配がない。


あの野郎……訳の解らん薬で、人をこんな目に遭わせて置いて、電話ぐらい出ろつぅの!!

当事者のオマエなら、こんな状況に成ってる事だって100も承知の筈なんだからよ!!


あの馬鹿、まさか、わざと電話に出ねぇんじゃねぇだろうな!!


ふざけんな!!



「あぁ、すんません。……10回程コールしてみたんですけど。携帯の方もダメみたいッスね」


しょぼん。



「そっか。……けど、そうなったら、ちょっと困ったなぁ」

「どうしたんッスか?なにか不都合でも……」

「あぁ、いや、君には非常に悪いんだけど。私、今から仕事があるんだよね。だから、どうしたもんかなぁっと思ってね」

「あぁ、だったら、行って貰って良いッスよ。俺、ズッと奈緒さんを、此処で待ってるッスから」

「そうは言ってもねぇ。私も、まだ、君の事を完全にクラだと信用出来た訳じゃないし。そんな状態で、此処で待って貰うって言うのもねぇ」


そうだよな……


一応の処は、信用してくれたとは言え。

全ての疑いが晴れていない以上、こんな意味の解らない奴を、家に置いて置きたくはない奈緒さんの気持ちもよく解るよな。


かと言って、今の状況じゃ、俺は、奈緒さんにしか頼る事が出来ないし、出来れば、こんな姿で外には出たくない。


……どうしようかな?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


自分の個人情報を正確に伝える事で、なんとか……なんとか、奈緒さんには少し信じて貰えたようですね♪


まぁ奈緒さん自身も、最初は、倉津君の見た見た目なだけに疑っては見たものの。

言動が、あまりにも倉津君そっくりだった為に『これは少し探りを入れるべきなのではないか?』と考えてくれたからこそ、現状は成り立った物だと考えます。


だって奈緒さんは、姿形はどうあれ、倉津君の事を本当に大好きですからね♪

所謂、この行為は【奈緒さんの愛情の深さの勝利だった】と言っても過言じゃないと思われます。


……とは言え、奈緒さんも女性。

この目の前にいる女性化した倉津君が本人だと認識しつつも、まだ完全に疑いが晴れた訳ではないので。

このまま倉津君を、自分の家に置いておくには、どうにも不安。


なので、もぉ一押し、なにかが必要な場面ではあるので。

そこを倉津君が、どう上手く持って行けるかが、次回の勝負ポイントに成って行く事に成るでしょう。


なので、そこが気に成った方が居られましたら、また次回も遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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