530 突き付けられる現実

 なんとか奈緒さんを説得出来そうな雰囲気には成っている物の。

この後、仕事で家を出なきゃいけない奈緒さんから『現状では、俺を家に置いておくには難しい状況』だと言われる。


だがこれは、女性である奈緒さんにとっては当然の事。


どうしたら良い?(;゚Д゚)


***


「あっ、あの、だったら、真っ裸にして、縄でグルグル巻きに縛り上げて、身動き取れなくして貰っても良いんで、奈緒さんが帰って来るまで、家に置いて貰えませんか?……これでも、ダメっすか?」

「裸でグルグル巻きって……」

「勿論、部屋がダメなら、浴槽でも、トイレの中でも、なんでも良いんで……お願いします!!どうか此処にだけは置いて下さい!!」


無理だと解っていても、懇願するしかない。

実際、俺自身も、この不安定な精神じゃ不安で仕方ないからな。


兎に角、今は奈緒さん以外とは、誰にも逢いたくない。



「……あぁ、もぉ、わかった、わかったわよ。じゃあ此処に居て良いよ」

「ほっ、本当ッスか!!」

「但し、クラから貰ったPEAVEY・B-NINETYには、絶対に触れないでね」

「えっ?」

「仮に君が、本当にクラだったとしても、あれだけは、私以外の女には触れて欲しくないからね……良い?此処、約束出来る?」

「あぁ、はい!!なにがあっても絶対に触らないッス!!神に誓って触らないッス!!」

「そっ。じゃあ、私が帰って来るまで、此処に居て良いよ。ちゃんと留守番しててね」

「あっ、はい!!」


奈緒さん……ヤッパ優しい。



「あぁそうだ、そうだ。それと言い忘れてたけど。私以外にも、千尋と、素直。それにステラが、此処の家の鍵を持ってるから、誰か尋ねて来たら上手く対応するんだよ」

「えっ?えっ?……いやいやいやいや、無理無理無理無理」

「不審人物を家に置いてあげるんだから、そんな無理無理言わないの」

「えっ、けど、こんな形じゃ、そんなのどうやって対応したら良いか、解んねぇッスよ。無理ッスよ」

「じゃあ、どうするのよ?相手は鍵を持ってるんだから、君が拒否したって、勝手に入って来るわよ」


うわっ!!こんなのまさに無理難題だ。


だってよぉ。

こんな状況を説明した所で、頭が弱い子だと思われるか、頭の狂った人間だと思われるのが関の山。

仮に信用したとしても、こんな無様な格好じゃ、良い笑い者になるだけじゃん。


どうっすかな?



「あぁ、それともぅ1つ。君、もし本当にクラなんだったら『女の子』になってるのバレたくないよね」

「あぁ、勿論ッス。こんな姿見られたら、良い笑い者ッスからね」

「そっ……じゃあ、サッサと、これに着替えて」


そう言うと奈緒さんは、箪笥を開けて、俺の目の前に『パサッ』と、なにかを置く。



「えぇ!!ちょ……嫌ッス!!幾らなんでも、それだけは勘弁して下さい」

「もぉ、いい加減にしなよ!!あれは出来無い。これは無理とか言ってる場合じゃないでしょ。君、自分の立場弁えてるの?私だって、自分の彼氏が『突然女の子になった』とか言われて困惑してるんだからね。あんまり都合の良い事バッカリ言わないでよね」


……だよな。

冷静を装ってても、心じゃ割り切れてる筈ないよな。


だからと言って……『パサッ』と置かれた女物の服を着ろって言うのは、ちょっと酷なんじゃないッスか。


こんなの、俺が着れる訳ないじゃないですか



「けど、奈緒さん。これは幾らなんでも……」

「あぁ、そう。じゃあ、君が、その服を着ないって言うなら、即座に、この家から退去してくれる。何所へなりと、好きな場所に行けば良いじゃない。勝手にしなよ」


このままじゃ、本気で奈緒さんに見捨てられる……


けど、女物の服を着るなんて、絶対嫌だ。


本当にどうすりゃあ良いんだよ。



そう思っていると、自然と涙がポロポロ零れ落ち始めていた。


なんでこんな時に、涙なんか出るんだよ……



「奈緒さん、助けて……お願いだから、見捨てないで……」

「泣くな!!君がクラだって言い張るんなら、女みたいにメソメソ泣くな!!」

「だって、だってよぉ。俺だって、訳わかんねぇし。なにを言っても、奈緒さんには信じて貰えないし。それに、それに、急に女物の服を着ろなんて言われても、どうして良いかわかんねぇよ。……助けてくれよ、奈緒さん。俺、男に戻りてぇよ」

「もぉ、この子は……わかった、わかったわよ。もぉ君がクラだって事は、私が認めてあげるから、泣くのは止めなさい」

「ホントに、ホントッスか?」

「クラ。心配しなくても、私は嘘なんかつかないから」


奈緒さん……やっと『クラ』って言ってくれた。

ズッと俺の事を『君』って言われてたから、全く信用してくれてないんだと思ってた。



「でもねクラ。幾ら私が信じたとしても、今の君の姿は、他の人から見たら、普通に女の子にしか見えないの。この事実だけは曲げ様の無い事実だって言うのは、わかるよね」

「あっ……はい」

「だから、私からのお願い。ちゃんと性別に合った服装をして」

「あの……一応、これでも、ちゃんと奈緒さんの言ってる事は解ってるんッスよ。けど、どう考えても、自分が女装した変態だとしか思えないんッスよ」

「あのねぇクラ。女装云々以前の問題として、今の君の格好の方がズッとおかしいよ」


変なんッスか?


そんなに変じゃないと思うんだけどな。



「そんなに変ッスか?」

「変も変。変も良い所だよ」

「なんでッスか?ダボダボの男物の服を来てる奴なんて、五万と居ますよ」

「あぁ、そこじゃないのよ。問題なのは、ノーブラって事」


あっ、ホントだ。


寝巻にしてるダボ服の上からでも、ちょっと乳首が透けてら。



「あぁ、けど、ノーブラの奴も居ますよね」

「クラ。……じゃあ、隠し事なしにハッキリ言うけどね。君、男に戻らなかったら、今後、どうするつもりなの?」

「えっ?」

「仲居間さんのせいじゃなかったら、どうするの?」

「いや、そんな筈は……」

「言い切れる?私は言い切れないと思うよ」

「じゃあ、奈緒さんは、最初から、それを想定して……」


俺が考えて無い様な所まで、奈緒さんはシッカリ考えてくれてたんだ。



「そぅ……こんな事を、今言うのは酷な話だとは思うんだけどね。クラが男に戻れなかったら、私は、君の事を女友達としては見る事は出来ても、彼氏として見続ける事は、いづれ出来なくなると思うの。だから、私が居なくなっても、君が、ちゃんと女の子として生活していける様にして置いてあげないといけない。そう思ってるんだけど」

「なっ、奈緒さん!!そんなの嫌だよ!!俺、奈緒さんと別れるのなんて、絶対嫌だよ!!」

「私だって嫌だよ。でも、用意と覚悟は必要だと思うの」

「嫌だ。……そんなの認めない。絶対に認めないッスよ」


そんなの無い……


なんで、こんな酷い目に遭った上に。

続け様に、そんな嫌な目にまで遭わなきゃいけないだよ。


嫌だよ、そんなの……


俺が、なにしたって言うんだよ……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


よく、TSの小説や漫画、アニメなどで、ほぼ何の疑いもなくアッサリ周りがTSした人間を受け入れられる場面があるのですが、現実は、そんなに甘くはないですよ。


特に、その対象相手が女性ともなれば、尚更受け入れがたいと思いますよ。


ですから私は、そう言うシーンを見て常日頃から思っていたのは。

『作家さんは、この子等の純粋さを表現したいのでしょうが、私から見れば、警戒心の欠片もない馬鹿な女性達なんだなぁ』って(笑)


どれだけ深く信頼関係があったとしても、女性相手に、そんなに簡単に上手く行く訳ないじゃないですか。


あの倉津君に対する愛情深さを持つ奈緒さんですら、此処まで警戒してるんですからね。


……っとまぁ、そんな感じなので。

より、その辺をリアルに描く為にも、ちょっとこの辺は長めの話に成ってはいるのですが。

もぅ少しで、此処もクリア出来ると思いますので、良かったら、またお付き合い下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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