526 墓穴

 ベースの件は上手く纏まって、事なきを得た。

ならば次のイベントである『指輪』に注目して行く所だな。


だが、今だに体の変化に対する原因は見えないまま。


ほんと、なんなんだよ?( ˘•ω•˘ )


***


「あれ?ケースの方で、またなにかに当たったよ……うん?なにこれ?」

「まだ、なんか入ってましたか?」

「うん。これなんだけど、なにこの袋?クラわかる?」

「あぁ、それッスか。それなら開けちゃっても問題無いッスよ」

「良いんだ」

「どうぞ、どうぞ」


奈緒さんは、訳も解らないまま袋を開ける。


すると、中から、大きめの赤いストーンが嵌め込まれたシルバーのリングが『コロ』っと出て来る。



「えっ?指輪?」

「そうッスよ。ベースと、おそろいの赤でコーディネートしたTIM・CAMPI(ティム・キャンピー)のシルバー・リングっす」


★TIM・CAMPI(ティム・キャンピー)★


アメリカ西海岸・マリブ発のジュエリーブームに拍車を掛けた実力派のデザイナー。

彼の手掛けるジュエリーは、レディースのジュエリーを手掛けていただけの事はあってハードなイメージのものは少なく。

比較的、誰にでも受け易いポップなイメージのものが多いのも特徴の1つだ。


また、彼の才能はマルチに展開されており。

シルバー製作以外にも、大手メーカーの広告デザインや、映画の美術スタッフ等もこなす。


まさにシルバー界のマルチプレイヤーだ。


そんな彼の経営理念の1つに『僕の積み重ねてきた20年間の才能を、皆さんにシルバーっと言う形で楽しんで欲しい』っと言うコンセプトが語られている。


恐らく、彼のこの『才能を垂れ流す』っと言う思想に崇秀の奴が妙に共感して、このリングの購入に至ったものだと思われる。



……にしても、崇秀の奴、ホントに、アイツの知識には果てがないな。


感心するよ。



「ちょ、ちょっとクラ……これは、幾らなんでもヤリスギだよ」

「なに言ってんッスか。俺は、奈緒さんとの大切なクリスマス・イヴをスッポカした男なんッスよ。だから、これぐらいしても、まだまだ足りないぐらいッスよ」

「でも……」


些かヤリスギか?


だからと言って、今更になって『引く』なんて選択肢は、この世に存在しないよな。



「じゃあ、俺が勝手に奈緒さんの指に嵌めてあげます。俺が勝手にした事なんだから文句言わないで下さいね」

「えっ?ちょっとダメだってクラ」

「あぁ、因みに奈緒さん」

「なによぉ?」

「これ、オーダーだから、奈緒さんの指にしか嵌らないッスよ。奈緒さんが嫌がった時点で破棄するしかない代物なんッスよ。そこんとこ夜露四苦ッス」

「えぇ~~~、もぉ、なにが『夜露四苦』よ。そんなのずるいだけじゃない」


ハイ!!俺は、奈緒さんの事に関してだけは、非常にズルイ男ですよ。


それがなにか?

そう思いながらも、奈緒さんの手を軽く引っ張って、強引に指に嵌める。


けどな、俺は『強引』って言ったけど、左程、奈緒さんの手を引っ張るのに力は入れてないんだよな。


って事はだな。

口では、あんな事言ってるけど、そんなに嫌じゃないって事だよな。

(↑勝手に良い方に解釈する俺)



「あっ、ほらほら、ヤッパリ、奈緒さんにピッタリじゃないッスか。完璧ッスよ完璧」

「君ねぇ……」


手を摩りながら不平を垂れる。


でも、そんなに嫌そうな雰囲気では無い。

いや、寧ろ、不満そうな顔をしてる割に、口元が嬉しそうだ。


これが噂の『照れ隠し』って奴か。


可愛いのぉ。



「ねぇクラ」

「なっ、なんッスかね?」

「なんで、こんなに一杯プレゼントしてくれるの?」

「えっ?そっ、そっ、そっ、それはッスね。初のクリスマスだから奮発したんッスよ」

「そっか。……でもさぁ。TIM・CAMPIって言えば、西海岸の方の店だよね。どうやってオーダーしたの?時間的にも、ネット通販じゃ買えないよね」


ゲボッ!!下手に『オーダー』なんて言うんじゃなかった!!


これじゃあ誤魔化しきかねぇじゃねぇかよ!!


それに崇秀同様、奈緒さんまでTIM・CAMPIを知ってるとはな……この2人の知識は、どうなっとんじゃ?


俺……これじゃあ、ただの自爆キャラじゃねぇか!!


アホか俺は!!



「えぇっと、あぁっと、それはッスね」


予定外の質問にドモる俺。



「うん?なに、その煮え切らない態度……さては君、なんか隠してるでしょ?」


そして、なにかに気付き始める奈緒さん。


最悪のケースだ。



「隠してないッス。隠してないッス。なんも隠してないッス」

「あっそ。じゃあ、私の指のサイズ言ってみ」

「えっ?あぁっと、それはッスね……」

「ほらほら、早く言ってみ。オーダーしたんだから、私の指のサイズぐらい解るでしょ」

「いやいや、奈緒さん。そう言う事を聞くのは野暮ってもんでしょ」

「野暮じゃないから。別に、商品の金額を聞いてる訳じゃないんだからさ。こんなの、全然、野暮じゃないよ。ほら、早く言ってみ」


あぁ~~あっ、完全にバレたな、こりゃあ。


良し!!

ならば、最後の手段だ!!



「ぴゅ~~……」

「口笛イラナイからね」

「ぐっ!!」

「って言うか。なにを、そんなに必至に隠してるのよ。……うん?ちょっと待って、クラ。まさかとは思うけど、君」

「ちぃまちぇん。……これ、全部、崇秀のアイディアです」


最後の手段である『口笛を吹く』事すら禁じられたんじゃ……もぉ正直に話すしかないよな。


最後の最後で、これかよ!!



「……だと思ったよ。君にしては、企画自体が出来過ぎだもん。途中から、なんか、おかしいなぁとは思ってたんだよね」

「仰る通りでございますな」

「にしても、ホント、あの人は癪な人だよね。私の彼氏でもないくせにさぁ、なにもかもお見通しにされちゃってるって、どういう事なのよ?単純だって言われてるみたいで、なんかヤダなぁ。もぉ」


さっきまでのご機嫌が一転。

ほっぺたを『ぷぅ』って膨らまして怒っちゃったよ。


まぁけど、そりゃあ、そうなるわな。

ヤッパ、こう言う色恋沙汰は、人に頼るもんじゃないもんな。


此処は深く反省しよ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


この指輪の一件までは、比較的上手く行ってたのですが。

崇秀の計画が、あまりにも完璧だったが故に、とうとう倉津君が自爆してボロを出しちゃいましたね。


まぁ言うて、この辺も考慮した上で崇秀も計画を打ってる筈ですから『これは必然』だったのかもしれませんがね(笑)


さてさて、そんな中。

奈緒さんがプゥって膨れてしまった訳なので、此処からが倉津君の腕の見せ所。

上手く奈緒さんの機嫌を直す事が出来るのか?


そして原因の究明は、どうなる?

(*'ω'*)b

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る