520 真相に迫る為にも昨晩の出来事を考察する

 朝起きて、洗面所で自身の変わり果てた姿に慄く俺。

そして、そこに奈緒さんが現れるが、彼女ですらも、その変わり果てた姿の人物が俺だと解らない。


その事態に非常に焦る事には成るが。

此処は一旦、無理矢理にでも冷静に成って、こう成った原因であろう昨晩の出来事を思い出してみるしかなかった。


ホントなにこれ?( Д)゜゜


***


 1997年12月25日、時刻は20時30分。


俺は、誰の物とも解らないプライベートジェットに乗せられて、急遽、アメリカから日本に強制送還。

しかも、その手に有る物は、崇秀に手渡された『PEAVEY・B-NINETY/ACT』入りのハードケースだけしか持ってはいない。


そんな状況下で俺は、東京国際空港(羽田空港)に降り立った。

まさに、行きも帰りも、ほぼ手ぶらの状態のままアメリカ旅行を果たしたと言う事だ。


だが今は、そんなどうでも余韻に浸る時間も無きゃ、行動を遮る様な無駄な思考に時間を取られてる場合でもない。

なんてたって、今日と言う、この日は、後3時間30分で終了してしまうんだからな。

クリスマス終了までの時間は、直ぐ、そこまで迫っている。


故にだ、プライベートジェットから降りた俺は、直ぐ様、税関での簡単な荷物チェックに向う。


勿論、ベース一本しか持ってない俺は、大したチェックを受ける事なくスムーズに税関を突破。

そこからは、少し駆け足気味に歩を進め、一旦、空港から外に出る。


すると、空港の出口付近では恒例の客待ちのタクシーが列を成し、帰国客が乗車するのを今か今かと待ち侘びていた。


だが、これに乗って、優雅に『上星川』に向う選択肢はない。


先程も言ったが、俺には、兎に角、時間がない。

だから、時間を有効に使う為にも、最も効率の良い電車に乗る事を選択した。


そんで、人目も憚らないぐらいの必至なスピードで駅に向う道を走り、プラットホームを目指した。


時間一杯までに、間に合うか……


***


 空港から電車に乗り、まずは定石通り、東京駅まで出る。

そこからは中央線で、一旦、新宿を目指し、新宿に着いたら横浜行きに直通便に乗り換え。

後は横浜駅から、相鉄線で上星川に向う。


これが電車での予定だ。


だが、そうは上手くいかない。

口で言うだけなら、全てがスムーズに事が運んでる様に聞こえるかも知れないが……実際は、そうじゃないからな。


寧ろ、スムーズ行くどころか、完全に電車の乗り換え運に見放されてしまい。

全乗り継ぎを含めて、この空港から上星川までの道のりに、なんと約2時間も掛かっているんだからな。


ホント、なにやら運が悪い。


だが、運が尽き果てたのではないらしく。

クリスマス終了まで、残す所、後1時間30分の所で、奈緒さんの家の前まで到着する事は出来た。


しかしまぁ……崇秀の力を借りてまで実現化出来た帰国だが、今回ばかりは心底疲れたよ。

此処までゴタゴタするとは思ってもみなかったからな。


まぁそれでも、最低限度、奈緒さん家には到着出来たんだから文句は言わねぇけどな。

これが達成出来ただけでも、アメリカから無謀な弾丸ツアーを決行した甲斐が有ったってもんだ。


クリスマス終了まで、かなり限られた少ない時間になっちまったが、なんとか奈緒さんとは有意義な時間を過ごせそうだしな。


まぁ、この辺をひっくるめて、全てを良しとするべきなんだろう。



……けど、そう考えると、結構やるじゃん俺!!


そう思わね?


そんな風に、少しだけ自画自賛しながら。

機嫌良く、奈緒さんの家の扉に、ちょっとレトロな鍵を差し込んで『ガチャ』っと開けた。


するとな……部屋に入った途端、何故かイキナリ台所の方から、人の気配がするんだよな。



「うん?誰?素直、なにか忘れ物でもした?」


まぁ聞いての通り、当然、台所の声の主は奈緒さんの声なんだがな。


『なんで此処で素直の名前が出て来るんだ?』


奈緒さんの不思議な言葉に、一瞬、戸惑うが……翌々考えてみたら、大して不思議に思う程の問題じゃない。

1人でクリスマスを過ごしていた奈緒さんが退屈を持て余して、せめて誰かとクリスマスを過ごそうと考え、素直を呼んだって解答に行き着くからな。



「あぁ、違うッスよ、奈緒さん。俺ッスよ」

「えっ?その声はクラ?……えっ?ちょっと、なんで?どうして?君……アメリカに行ってたんじゃなかったっけ?」

「いや、山中の依頼通り、アメリカには、ちゃんと行って来たんッスけどね。昨日『急遽、帰国しよう』って思い立っちゃいまして……つい、戻って来ちゃいました」

「『つい』ってクラ……それに昨日、急に、なにを思って帰る気になったの?」

「あぁ、はいッス。それについてはッスね。昨日ッスね。崇秀の部屋で、今後の話をしてたんッスけどね。ふと、奈緒さんと2人で初めて迎えるクリスマス・イヴなのに、俺、なんかスッポカしちゃってるなぁって」

「えっ?まさか、それだけの理由で?」

「あぁはい。だからッスね。それを償う為にも『せめて、クリスマスだけでも2人で過ごしたいな』とも思いまして……恥ずかしながら、帰って来た次第なんッスよ」


……って言うセリフを、奈緒さんに逢ったら、最初に言えって崇秀に言われた。


なんでもこのセリフが、奈緒さんの機嫌を30%程回復させる魔法の言葉なんだとさ。



「えっ?えっ?ホントに、たった、それだけの為に戻って来たの?」

「はぁ、まぁ、そんな感じッス」

「君、馬鹿じゃないの?そんな事、気にしなくたって、私、解ってるつもりだよ」


あぁ……あの野郎は、マジで凄いな。

今までの奈緒さんのセリフを、一言一句違わず言い当ててやがったよ。


……って事はだな。

今の現状からして、アイツの描いたシナリオ通りに進めるべきなのか?


取り敢えず、こりゃあ様子見だな。



「あぁ、いや、俺も、奈緒さんなら、そう言ってくれるとは思ったんッスけどね。俺の方が、どうしても我慢出来なくなっちまったもんで」

「えっ?そんなにクリスマスを一緒に過ごしたかったんだ」

「はいッス」

「……けどクラ、クリスマスって言っても、私、キリスト教の信者じゃないから、別に、どうでも良かったんだよ」

「あぁっと、そう言う問題じゃなくってッスね。なんて言うか、ほら、キリスト教云々より、これって恋人なら、絶対に外せないイベントじゃないですか。だから、その、なんと言いますか……」

「あぁ、そっかそっか。そう言う事か。……ごめん、ごめん。折角、急いで帰って来てくれたのに、ちょっと意地の悪い言い方しちゃったね。ごめんね、クラ」


ぬぬぬぬぬぬぬぬ……マジでブレのない推理をする奴だな。

まるで言い合わしたかの様に、奈緒さんの口からは、アイツの推理した言葉が飛び出してくる。


どこまで人の心理を読み切れば、こんな芸当が出来るんだ?


……ってか!!

これって言い換えれば、アイツの方が、奈緒さんの事を、俺より良く理解してるって事じゃねぇのか?


それがもし事実なら、情けな過ぎるな俺……

(↑今年の海でも同じ様な事があった気がしないでもないな……)


……けど、それはそれ。

逆に言えば、現時点でも、これだけ順調に物事が運ぶのであれば。

この仲直りシナリオである『クリスマス大作戦』は継続するのが順当と言うものだろう。

(↑でも、恋愛雑魚な俺は作戦続行)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


まだ、姿が変わった事に対する原因は不明のままですが。

取り敢えず、奈緒さんとの関係は順調に事が進んでいる様子ですね♪


さてさて、そんな中。

この事象に対する原因の発見や、究明が倉津君に出来るのか?


それは次回の講釈。

また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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