第72話 Hカップにのみ許された技

 悪堕ち巨乳……!

 20年以上前に、前の社会を崩壊に追い込んだ悪魔……!


 そしてそれは……


 私の巨乳互助会の同期……草麗満子さんだった。


 間違いない。


 顔がまるで歌舞伎のような隈取で彩られて、額に「悪」の文字が浮かび上がっていたけど。

 絶対そう。


 あのブレザー。

 あのHカップの胸。

 あの茶髪ツインテール。


 あの人以外無いよ……!


「よくも私の目の前に現れることができたわね……このEカップめ」


 悪堕ち巨乳から放射される凄まじい乳波動。

 私の髪が靡き、そして気圧されて呼吸が止まりそうになる。


 だけど、私は引くわけにはいかないんだ。


「……あなた草麗さんだよね?」


 まっすぐに彼女を睨み据え、私は問うた。

 すると


「……その通りよ……昨日の18才の誕生日……! 神が力を与えてくれたぁぁぁぁぁっ!」


 彼女の叫びに反応し、彼女の影の中にかつての人間だった頃の草麗さんの顔が浮かび上がった。


 ……そういうことだったんだ。


 結婚しない状態の巨乳が、18才の誕生日を迎えると、こうなってしまう危険があるから。

 だから、巨乳判定があったんだね……!


 ようやく分かったよ……!


 私は自分の胸にくっついているものの恐ろしさに、戦慄し。

 巨乳に生まれてしまった者の責任を自覚した。


 ……巨乳の犯した罪は巨乳が責任を取る……!


「……なんでそうなったか分かるの? あなたが政府の言う通り、18才までに結婚しなかったからだよね!?」


 私は一歩踏み出し、そう言い放つ。

 すると


「したけど離婚されたんだよボケェェェェッッ!」


 悪堕ち巨乳の叫び。

 私はそれに言い返す。


「……それはあなたが離婚届を脅しに使ったからだよね!? 徹子言ってたよ!? 離婚は相手との絆を否定する行為だって!」


「それがどうしたクソがぁ! 私と結婚して貰えたんだから、一族総出で私にかしずくべきなんだよぉぉっ! 私はHカップ! 巨乳の最上位種! 言わば女の王であり神!」


 ……なんて歪んだ考え!

 結婚を自分を強化するための装備か何かだと思うなんて……!


 結局この子は、自分しか愛していないんだ!

 最低……!


「私のような神を否定したこの社会は間違ってるんだ! だから思い知らせる! それの何が悪いいいいい!?」


「全部悪いよッ!」


 私は彼女を全否定する。

 ただの一片も同情なんてしない。


 すると


「ほざいたなEカップゥゥ! 容赦せんッ!」


 すると悪堕ち巨乳は、自分の片乳を持ち上げるように触って。


 次の瞬間


「危ないッ!」


 寸前で、真虎さんに引き摺り倒され、アスファルトの道路に倒れ込む。

 その頭上を、白いビームのようなものが横切って行き……


 ギギギギ……


 私たちの背後にあった街路樹が、斜めにズレていく。


 ……切断されていた。


 その太い幹が、斜めに。

 斜めに切断され、ズレて、倒れていく……


 ……これは……?


 戦慄する私たち。

 そんな私たちに、彼女はこう宣言した。


「これぞ空裂乳刺驚スペースリパー・スティンギーミルク!」


 高圧で母乳を乳首から発射する技!

 Hカップにのみ許された技だよッ!


 思い知ったかEカップめ!


 Eカップなど、巨乳では雑兵であると心得よッ!


 ……そんな!


 EカップとHカップで、ここまでの乳力チカラの差があるなんて……!


 青くなっていく私。

 勝てない……どうしよう……?


 そんなときだ。


 私を引きずり倒し、私に覆い被さっている真虎さんが言ったんだ。


「のぞみ……僕に任せて」


 私は彼を見る。

 彼の顔は……


 完全に、男性の……ううん、漢の顔だった。

 私より4つも年下なのに……!


「僕に考えがある」


 ……うん。信じてる。

 彼の言葉を、私は疑わなかった。


 だって……

 私は思い返した。夫と合流した時のことを。

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