第65話 紹介してッ!
お正月が過ぎて、もうすぐ2月という時期になった。
2月になれば、バレンタインがある。
……これまでは、友チョコしか作らなかったけどさ。
今年は違うからね?
ちゃんと、男の人にあげるためにチョコを手作りするんだから。
「徹子は今年も作るの? 旦那さんのために」
「うん。当然作るけど?」
私を一瞥しながら、徹子。
私は
「私も今年ははじめて男の人のためにチョコを作るよ。色々教えてね」
そう、彼女を見上げながら言った。
すると
「りょーかい」
そう、返してくれた。
妊娠4か月になった親友と一緒に、私は下校していた。
まだ、おなかがそんなに大きくないからセーラー服のままだけど。
臨月近く……つまり、今年の夏頃? そのくらいになったら、どうするつもりなんだろう?
「生まれるの夏休みあたりだよね?」
「そーだね」
隣を歩く、親友。
「……そのとき、制服どうするの?」
そう、訊いたら
「ん? 別にリモートで授業受ける予定だから、臨月近くになっても制服は問題にならないよ?」
おお……
巨乳認定証持ちの女生徒が、在学中に妊活しても、学業になるべく影響が出ない制度、整備されてるんだなぁ……
少し、感心してしまった。
そんな風に、自分たちの幸せを互いに噛みしめるように会話していたら
ザッ
私たちの目の前に、ブレザー姿の人影が現れた。
それは……
「……満子」
「……草麗さん……」
それは……追い詰められた鼠のような表情を浮かべた茶髪ツインテールの巨乳女子。
かつての巨乳エリートの面影はどこにもなく。
恐怖と絶望に彩られた顔。
「私、Hカップなんだぁ」
そう言って、勝ち誇る様に自分の巨乳認定証を見せびらかしていた彼女が。
今は、完全に追い詰められてる。
……人間、堕ちるとこうなっちゃうんだ。
その実例を見せられて、私は背筋が寒くなった。
「……ねぇ、徹子」
声が震えている。
そして、縋るような表情を浮かべながら
「……アンタの旦那、前の社会で警察官僚を代々勤めてた家系で、今も政府筋の公務員してるんだよね? ……旦那の友達を紹介してくれないかな……?」
……とても卑屈な目だった。
もう、ここで断られたら後が無い。そんな感じだ。
「ハハ……参ったよ。医者に行って、妊娠陰性の証明をしてもらっても、全く相手見つからないでやんの……」
自分の必死さを誤魔化すように、そう軽めの口調で言うんだけど……
「どの男も、離婚されたって一点で相手してくんないの。普通、巨乳女子高生を嫁にしたら、離婚するなんて選択肢ありえんし。よっぽどの理由があったんだろうな、だって」
誰もこれからの私を見てくれないんだ……
そう、言った。
終わりの方は半分泣き声だった。
そして必死の形相で
「だから頼むから、男紹介して! アンタの旦那なら絶対レベル高いに決まってるから、その友達なら……!」
「悪いけど、無理」
……徹子の返答は、冷徹だった……。
その言葉に
「なんでよッ!? アンタ、私を可哀想だとは思わんのかぁぁぁぁぁぁっ!」
草麗さんは、舌に「恨」の文字を浮かび上がらせながら叫んでいた。
よっぽど納得できないんだろうね。
それに対し徹子は
「だって、旦那の立場が悪くなるじゃん? アンタを紹介して旦那の友達が「あの女、ダメだわ」って言ってしまうような事態になったら」
アンタが離婚されたって一点で、アンタを信用できないのはアタシも一緒。
旦那はアタシの持ち物じゃ無くて、人生の相方。だから、アタシは旦那の立場を守る。
……そんなことを、全く言い淀む様子もなく言ってのけた。
その言葉に、徹子の助力を得るのは無理であるとわからされたのか、私を見て
「……じ、じゃあ! アンタでも良いわ! Eカップ! アンタも結婚してるみたいだし、アンタの旦那の友達を紹介してッ!」
……一説には、ブラのカップ数はそのまま
巨乳学会の研究データなんだけど。
つまり……
Eカップの私が
3段階上なんだし。
それがどれだけのプレッシャーを私に与えるのか分かるよね?
怯みそうになったけどさ……
私は……いや、私も言ったよ
「……私も夫になる人の立場を守りたいから、悪いけどあなたの頼みは聞けないよ」
すると
「Eカップの癖に馬鹿にしやがってよォォォォォッ!?」
草麗さんが逆上し、私に掴みかかって来た。
まるっきり、チンピラだった。
「やめろ満子!」
そこに徹子が割って入って、助けてくれた。
引き剥がされて、キッと私たちを睨み据え
「……この男の大人の玩具ども! せいぜい肉便器としてチ●ポに仕えてろ!」
顔面を変形させながら、口から泡を飛ばしながら、そんな放送できない罵倒文句を口にして。
彼女は回れ右をして走り去って行った……
「……アイツ、絶対にもう無理だわ」
ポツリ、と徹子。
……うん。
私も悪いけどそう思う。
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