第62話 クリスマス

 クリスマス会。


 クリスマスケーキはお義姉さんが予約したのを取りに行ってくれるらしいので。

 私たち夫婦は晩の料理の材料を買ってくることになった。


 スーパーに行った。


「七面鳥は……」


「鶏で良いでしょ。大差ない」


 ……夢が無い。

 でもなぁ


 真虎さんの家って、家族多いしな。

 裕福でも、やっぱ抵抗あるんだろうか?


 それに


 お義父様、一般家庭の出らしいし。

 お義母様、元々上流階級だけど。

 ……多分、無法状態のときの体験で、庶民臭さが付いちゃったんだろうね。


 まあ、そんなことお義母様に確認はできないけどさ。

 絶対怒られるし。

 下手すると家を叩き出される。


 立場は弁えないと。


 真虎さんが人数分の鶏腿肉をカゴに入れていく。

 そして


「皮はどうする?」


 入れた後、私を見上げ、訊いてくる。

 それは当然……


「捨てる」


 即答。


「……だよね」


 当然だよ。

 カロリー爆上がりだし。




 家に戻って。


 鶏モモ肉に下味をつける作業をして。

 フライパンで焼く。


「ここは、任せて」


 伊達に講習会行って無いし。

 ここは私の腕の見せ所。


 そうして一人、料理していたら


 傍で、じーっと見てる。

 青いボディコン風スーツの家政婦さん。


「……のぞみ様」


 話しかけられた。


「ゴメン。ちょっと今料理中。後にして欲しい」


 そう言ったんだけど。


「そういう仕事は私がしますが?」


 ……えーと


「……気持ちは嬉しいけど、他の仕事をして欲しいかな。ありがとうだけど」


 ぶっちゃけ、ここは働かせてもらわないと、私すっごく居心地悪い。

 彼女や恋人じゃ無くて、もうこの家の嫁なんだから。


 そしたら


「分かりました……」


 家政婦さん、別の仕事をしに台所を出て行った……




 そしてクリスマスの晩餐会がはじまった。

 お義姉さんが買って来たケーキを皆で食べて、私が焼いた鶏肉も皆で食べた。


 嬉しい……

 私、この家の一員なんだ……


 中2で巨乳判定を受けたとき、どんな未来がやってくるのかと思ったけど。

 こんな未来がやってくるなんて……


 この幸せを、失いたくない。


「のぞみ」


 お義姉さんが私に言った。

 手にお茶のポットを持ちながら。


 白いポットだった。


「お茶のお代わりはいかが?」


「あ、いただきます」


 言うと、お代わりを注いで貰えた。

 コポポ、とお茶がカップに注がれる。


「……ありがとうございます」


 私は頭を下げた。




 そして寝る時間になった。

 私は……お義姉さんの部屋で、今夜、泊る。


 お義姉さんはベッドなんだけど。

 私は床に布団を敷いて寝る、予定。


 そして寝巻姿で布団を敷いていると。


「……ねぇ、ちょっといい?」


 訊いてきた。

 ……なんだろう?


 振り返る。

 するとお義姉さんは


「……のぞみ……あなた、真虎のどこが良かったの?」


 ちょっと意外な質問。

 お義姉さん、弟さん想いのはずなのに


「えっと……それ、真霧さんが言ってしまうんですか?」


 だから、そう返した。


 すると


「……いや、そうじゃないのよ」


 お義姉さんが難しい顔になって


「好きになったポイントが知りたいだけ」


 ……なるほど。

 そういうことか。


 お義姉さんは弟を当然愛しているけど。

 弟の嫁が弟を選んだポイントを知りたいんだね?


「私のことを真剣に考えてくれる人ですし。……それに、年下ですけど……頼りになるし」


 そう、正直に伝えた。

 すると


「……どういうところを考えて貰ったの?」


 お義姉さん、そこに食いつく。


 んん~そりゃあ


「私の同期の巨乳女子が、妊活開始して妊娠した、って話をしたら……」


 そこでお義姉さんに「真虎さんは私に大学に行って欲しいと思ってくれてる」という話をした。

 そのときに思ったことを含めて。


 そしたら


 いきなり、私はお義姉さんにギュッとされた。


「……真霧さん……?」


「……のぞみで良かったわ。ウチに来てくれてありがとう……」


 そんなことを言われてしまう。

 いきなりだ。


 いきなりそんなことを言われて


 私、嬉しくって……


 思わず、抱き返してしまった。


 ……お義姉さん……!

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