第59話 修学旅行前編

 修学旅行。

 昔はどうか知らないけど。

 今の私たちの修学旅行は2泊3日。


 場所は伊勢だけ。

 昔は色々なところを行ったみたいなんだけどね。

 今と昔は違うんだよ。


 初日はグループ行動で、伊勢神宮の内宮と外宮を巡った。

 このうち、内宮は

 元々、八咫鏡の本体を祀っていた神社なんだけど。


「……今は何を祀ってるの?」


 隣で参拝している真虎さんに訊いた。

 すると


「元々、皇居で祀られていた形代」


 だって。

 ああ……


「じゃあ、燃え残りの鏡の破片がご神体なんだ? 今は」


「そうだね。まあ、申し訳みたいなもんだし」


 確か平安時代に火事が何回か起きて、最終的に溶けて破片になってしまったんだよね。

 平安時代の人、何やってんの。




 初日はアホほど広い伊勢神宮を回るだけで終わった。

 その際、五十鈴川にも行って、その川の透明度に感動した。


 確かに。

 これはまるで水道水が流れている川だ。


 生水だから飲んじゃいけないんだろうけど、あまりにも澄んでいるので、飲めそうな気がしてくる。


 覗き込むと、川底に10円玉とか100円玉を沈めている人がいた。


 ……昔、外国の観光地でこういうことをしたんだっけ。

 それを真似してるんだろうけど……


 いや……これ、ダメでしょ。


 とはいえ、川に手を突っ込んで拾うのもなぁ。

 良くない気がする。

 警察に届けるのも面倒だし。


 ……だから、見なかったことにする。


 あ、蟹が居た。




「のぞみー」


 今日と明日、泊る予定のホテルに到着。

 女部屋で荷物を部屋の隅っこに纏めていると


 クラスの女子が、小袋を持って話しかけてくる。


 多分これは


「お風呂行こう。女子の順番が最初だから、急がないと」


 ……この伊勢のホテル。

 混浴しかないらしくて。


 さすがに高校生が混浴するわけにはいかないし、先に女子、後から男子。それぞれ1時間ずつ。

 こういうムチャ設定になってる。


 ウチの高校、ここしかホテル取れなかったのかなぁ?


 まぁ、急がないと。

 だから


「うん。すぐ行こう」


 こう答える以外、無いよね。




(徹子、修学旅行休んだから視線が集中してるなぁ……)


 脱衣場で服を脱ぎながら、私は周囲の女の子の目が私に向いていることに気づき、居心地が悪くなる。

 同性でもさ、じろじろ見られるのはちょっとイヤ。


 ……男性でも……アレが大きい場合、周囲に見られるのはイヤなんだろうか……?

 それをちょっとだけ思う。


 徹子が居たら、相対的に彼女の方がすごいんで、私への視線はかなり軽減されるのに。


「のぞみ、先に行ってるね」


 私を入浴に誘った子が、そう言って大浴場に入っていった。




 大浴場。

 岩風呂。


 ……人がいっぱい居た。

 1時間しか入浴時間が無いからだろうなぁ……


 早く入って、って言われたな。先生に。

 ……刑務所なんだろうか?




 マナー通り、最初に身体を洗って、湯船に浸かる。

 ……スケジュール考えると、6分くらいしか浸かれない。

 これは修学旅行のお風呂じゃない……

 刑務所のお風呂だ……!


 そんなことを思いながら、フヒー、と息をすると


「ねぇねぇ」


 女子が2人、近づいて来た。

 ……何だろう?


 すると


 2人は興味深々と言った感じでこう言って来た。


「のぞみ、結婚してるじゃん。真神くんと」


 ……だけど?

 その次に来た彼女たちの言葉は


「……彼とはもう、したの?」


 ……う~。


 ある意味、予想の範囲内。

 多分あるあるだろうね。

 修学旅行ネタで、少女漫画で見たことあるし。


 だけどさ


「……そういうプライベートなことは、答えられないかな。ゴメンね」


 これ以外、無いよ。

 だってさ……


 ここで本当の事「まだエッチしてない」って言ったら、真虎さんが恥を掻くかもしれないじゃん。

 こういう人、そういうのを「度胸が無い」とか「自信が無いんだ」とか。

 言いふらしそうな気がするし。


 そしたらさ……


 私のせいで、真虎さんが笑われることになるんだよ?


 別にさ、私は勇気のある女子じゃないけどさ……

 こういうときに、踏みとどまれないのは人としてダメでしょ?


 ……絶対、そんな真似したら失望される。

 それはイヤ。絶対イヤ。


 だからそう言った。なるべく、穏やかに。

 アサーティブ。


 だけど


「……当たり前の話だけど、子供は作るつもりだよ? 結婚したんだから当然だよね」


 これは言っておく。

 事実、法律上はそういう制度だし。結婚は。


 当たり前のことを当たり前に言うんだから、それで非難されたり馬鹿にされる謂れは無い。


 こういう言葉が、すらすら出た。

 ……なんだろうか?

 夫の、真虎さんの影響かな?


 すると、2人はちょっと羨望に近い目で私を見てきたので


(……これでこの人たちの好奇心は満足できたかな?)


 そう、頭の片隅で考えた。

 すると


 その子たちの1人がこんなことを言ってきた。


「……そうなの?」


 ……そこからか。


 溜息が出た。

 法律って皆、興味無いのかなぁ……?


「夫婦間のセックスの努力義務って、そういう意味なの」


 そしたら


「でも努力でしょ? それに、夫婦でもレイプが成立するって……」


 ああ。もう。


「夫婦間の強姦って、よっぽど酷いことしないと成立しないんだよね。ちょっと強引にしたくらいじゃ無理なんだよ」


 夫婦間レイプの誤解あるあるを口にしたから、訂正してあげた。

 まあ、これは講習での受け売りなんだけど。


 するとメチャメチャ驚いてた。

 この国の法律ではそうなってるんだ!? って。


 ……こんなもんなの?

 一応この国、法治国家だよね?


 まぁ、私は結婚関係の法律を講習で勉強させられてるから分かるだけかもしれないけど。

 一般は、こんなものなのかもなぁ……?

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