第58話 勉強会その2・後編

「ねぇ」


「何?」


 一個、訊いておきたい。


 私の暗記作業が終わったから、次に歌う歌を選定してくれてる真虎さんに


「今月終わりごろに修学旅行でしょ?」


「うん、そうだね」


 顔を上げて、私を見てくる彼。


「それが何か?」


「……どこ回る?」


 私たちの行く修学旅行の行先は、伊勢。

 昔の高校生は違ったみたいなんだけどね。


 伊勢。

 どこに行けばいいのか……


「まあ、伊勢神宮は行くよね」


 うん。

 そこはまあ、行くね。


 ……他には?


 先を促すように彼を見つめる。


「五十鈴川」


 ……五十鈴川?

 恥ずかしながら、知らない。


 だから


「五十鈴川って?」


 訊いてみる。そしたら


「伊勢神宮に流れ込んでる川だね」


 どうも、すごく綺麗な川らしい。

 水道水が流れているのか?

 そう、思えるくらい。


 ……そうなのか。


「あと、夫婦岩」


 ……夫婦岩。

 聞いたことある。あれ、伊勢だったんだ。


「バス網を利用して回るのはきっと楽しいよ」


 なるほど……

 伊勢って、元々神器の本体があった場所だけど。

 今はそうじゃないから。

 一気に注目度下がったんだよね。


 なので、あまりよく知らなかったんだけど、そっか。


「また色々教えてね」


 笑顔でそう彼に言うと。


「うん。いいよ」


 そう、ニコリと微笑み返してくれる。


 カワイイ……


 好き……。




 そうして。

 カラオケでの勉強会を終えて、一緒に店を出るとき。


 駅前でデモ行進を見かけた。


「巨乳を復権せよー!」


「貧乳だって危険だー!」


 プラカードを持って、行進している人々。

 顔をサングラスと不織布マスクで隠している。


 ヘルメットも被ってる。

 どうも、この手のデモ行進をする人々の伝統衣装って。

 前にお父さんとお母さんが言ってた。


「巨乳復権派……」


 私の隣にいる真虎さんが、嫌そうな顔をしている。

 ああ、やっぱ真虎さんも嫌いなんだ。

 あの人たち。


 私も嫌い。

 私たちが泣く泣く、巨乳判定という厳しい政策を受け入れているのに。


 あの人たち、単に


 貧乳の女の子も私たちと同じ境遇にして、強制結婚状態にしたい。


 それだけなんだよね。最低だよ。

 女の子をなんだと思っているのか。


 だから、男の人しかいないんだよ。

 巨乳復権派。


 ……ああ。

 なんで巨乳復権派なんていうのかって言うと。


 一部の貧乳も危険視することによって、巨乳と言う属性だけが危険視される今の世の中を変えたい。


 そういう理屈。

 なんという無理矢理主張。


 単にちっぱいの少女と結婚できる状況を作りたいだけのくせに!


「……行こう。のぞみ」


 ここにいると気分が悪い。

 そう、吐き捨てるように言って。


 私の手を取って、ぐいって引っ張ってくれた。

 それについていく。


 真虎さん……私も同じ気持ちだよ……!

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